作品タイトル不明
戦を数える者
確かに——レオンの言う通りだ。
兵力が無い?なら、作ればいい。
それだけの話だ。
「……はは」
思わず乾いた笑いが漏れた。
いつからだ。こんな発想を、自然にするようになったのは。
以前の俺なら、
「兵が足りないなら諦める」
それで終わりだった。だが今は違う。
「足りないなら補充する」
ただそれだけ。まるで算術だ。
人を、数として扱っている。
机の上に地図を広げる。
南町。
中央村。
東西の街道。
隣領との境。
指でなぞりながら、頭の中で並べる。
三千二百。
南町の人口。
その内、成人男性が半分と仮定して千六百。
さらに体力があり、動ける者。
……三割。
約五百。
「三百……いけるな」
十分だ。三百でも回せる。
警備程度の剣は扱えるはずだ。
元農民。
元猟師。
元衛兵。
この世界の男は、最低限の武器の扱いは知っている。
訓練を一週間もやれば、槍を持って列を作るくらいは出来る。それだけでいい。
今回必要なのは——
「軍」ではなく「数」だ。
もし。
もしもの話だ。
隣領に正規軍が居たとしても。
「……統率は取れていないはずだ」
王政崩壊し、領主死亡。指揮官不在。
命令系統崩壊。
そんな状態で、まともな軍が動けるはずがない。出て来たとしても、烏合の衆。
多くても百。いや、五十か。
「それなら……」
自然と口が動く。
「レオンの軍団で十分だ」
精鋭五十。あいつらは百人分の価値がある。
真正面から叩き潰せる。民兵は包囲と制圧。
戦闘はレオン。役割分担も明確だ。
損耗も最小限。
……勝率。
七割。
いや。
八割。
「…………」
そこで、手が止まった。気付いてしまった。
俺は今。
「どう救うか」ではなく。
「どう勝つか」を考えている。
完全に。指揮官の思考だ。
「……くそ」
椅子に深く腰掛け、天井を見上げる。楽なんだ。戦の計算は。数字で割り切れる。
感情がいらない。
だが。
その先にあるのは、確実に血だ。
「……俺は」
呟く。
「何を守ろうとしている」
民か。領地か。それとも。ただの勢力拡大か。自分でも、分からなくなりそうだった。
——トントン。
扉が叩かれる。
「エドワルド様、夕刻の報告書を……」
「ああ、置いてくれ」
書類の山。
食料表。
建築進捗。
保護民名簿。
こっちが本来の仕事だ。
こっちが“守る側”の仕事。
なのに。
頭の半分は、まだ戦場にいる。
「……駄目だな」
小さく笑う。このまま独断で決めるのは違う。これは一領地の問題じゃない。
家の問題だ。
「……一度」
立ち上がりマントを羽織る。
「父上に話すか」
あの人は、どう見る。侵攻か。静観か。
それとも、第三の道か。
まだ俺は。一人で背負えるほど、強くはない。廊下を歩きながら思う。
これは——
戦を始める相談ではない。
「線を越えるかどうか」
その確認だ。
夕焼けの赤が、窓から差し込んでいた。
まるで。
遠くの空が、燃えているように見えた。