軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

守る刃か、奪う刃か

一度、冷静になろう。

感情で動けば、必ず間違える。

俺は執務室の椅子に深く腰を下ろし、ゆっくりと目を閉じた。

……王が死んだ。

王都は崩壊。王政は消滅。

なら、今この国はどうなっている?

答えは単純だ。

「群雄割拠、か……」

ぽつりと呟く。中央の命令系統は消えた。

つまり今は——

各地の領主が、それぞれ自分の領地を守るだけの状態。

横の連携など取れるはずがない。

援軍も来ない。税も回らない。

法も届かない。全員が、孤立。

「……動けない、はずだな」

守るだけで精一杯。

他所に兵を出す余裕など、ある訳がない。

ましてや。

「隣領は、領主が死んだ」

反乱で打ち取られた。

今頃は後継争いか、内輪揉めか、あるいは略奪の横行か。

統治など機能しているはずがない。

つまり。

地図が、頭に浮かぶ。

そして隣領。

距離、街道、村の位置、穀倉地帯。

兵站。

全部、把握している。

「……今なら」

ぽつりと、言葉が零れた。

「取れるな」

誰もいない部屋に、やけに重く響いた。

兵力はうちが上だが今は人手が取られているし北領地もどの様に動くか不明。ましてや我が領もそうだが国境に接している。兵を動かすにしても。。

しかし統制も取れているし、備蓄もある。

恐らく住民の支持もある。

正直に言ってしまえば——

今が一番、簡単だ。

軍を出せばいい。

治安維持を名目に進駐。食料供給を約束。

暴徒を鎮圧。

「救援」の形で入れば、誰も逆らえない。

むしろ歓迎される可能性すらある。

大義名分は?

いくらでも作れる。

・難民保護

・治安回復

・食料支援

・略奪勢力の排除

どれも嘘じゃないし、実際にやるつもりだ。

「……領民も、納得するだろうな」

隣領の民は飢えている。守る者もいない。

なら。

俺が守る。それは正しい行いだ。

——本当に?

そこで、思考が止まった。

正しい?それは?守るため?

それとも。

「……奪うため、か?」

自嘲が漏れる。結局やることは同じだ。

軍を出して、武力を背景に。

土地を“こちら側”に組み込む。

それは。

「侵略と、何が違う?」

静寂。返事はない。もし王が健在なら。

もし平時なら。これは間違いなく戦争行為だ。俺は侵略者だ。

今は混乱期だから許されるだけ。

正義の皮を被っただけ。

「……俺は」

机の上の地図を見つめる。指先が、隣領をなぞる。ここを取れば、食料は倍。

人口も増える。

兵も増える。

防衛線も広がる。

我が領は“地方有数の勢力”になる。

下手をすれば。小国レベルだ。

「安定は、する」

間違いなく、皆が助かるし、多くの命が救える。それは事実だ。

だが。

脳裏に浮かぶ。あの日の光景。

石を投げられた男。

そして——自分の手で振るった剣。

血。

首が落ちる音。

「……また、線を踏み越えるのか」

偽保護民を斬った時。俺は理解した。

綺麗事だけでは守れない。

だが。

だからといって。何でもやっていい訳じゃない。守るためなら、奪っていいのか?

救うためなら、支配していいのか?

それはもう。

王と、何が違う?

「……くそ」

頭を掻く。難しい。正解が無い。

どちらを選んでも、誰かが傷つく。

「守るだけの領主でいるか」

「奪ってでも守る領主になるか」

どっちだ?どっちが正しい?

どっちが——

「……エドワルド様」

ノックの音。

レオンだ。

「入れ」

「難民がまた増えております。食料の再配分が必要かと」

現実が、容赦なく押し寄せる。考える時間なんて、ない。俺は立ち上がった。

「……分かった。すぐ行く」

扉へ向かいながら、最後に一度だけ地図を見る。隣領は、すぐそこだ。

手を伸ばせば届く。

簡単に。簡単に、取れる。

「…………まだだ」

小さく呟く。

「まだ、守るだけでいける」

まずは守る。限界まで守る。

それでも足りなくなった時。

その時初めて——

「刃を抜く理由が出来る」

自分に言い聞かせるように。扉を開けた。

今はまだ。

我が領は、“避難先”でいたい。

侵略者には、なりたくない。

だが。

いつまで保てるかは——

俺にも、分からなかった。