軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

背負う者の会話

「……先ずは、父上に報告だな」

一人、そう呟いた。

レオンの報告は重かった。

隣領主、所在不明。

領主館焼失。

統治消滅。

そして数千規模の流入。

どれ一つとして、後回しにしていい話ではない。

だが——

これはもう、現場判断の域を越えている。

「家としての決断」だ。

俺一人で抱える話じゃない。

椅子から立ち上がり、そのまま領主館へ向かった。

廊下は静かだ。

朝だというのに、人の気配が少ない。

皆、既に持ち場で動いている。

この領地は、もう止まらない。

コンコン。

「父上、エドワルドです」

「入れ」

短い返事。

中へ入ると、父上は机に地図を広げていた。

俺を見るなり、軽く目を細める。

「……顔に出ておるぞ」

「え?」

「面倒な報告を持って来た顔だ」

思わず苦笑する。

昔から、この人には隠し事が通じない。

「……はい。隣領の件です」

「やはりか。座れ」

促され、向かいに座る。

一息ついてから、順に話した。

レオンの偵察。

焼け落ちた領主館。

兵の消失。

討死の噂。

統治の空白。

そして——数千の流入予測。

全て話し終えても、父上は黙って聞いていた。

表情は変わらない。

ただ、指先だけがゆっくり地図をなぞっている。

やがて、ぽつりと言った。

「……終わったな」

「はい」

「隣は、もう領地ではない」

その一言が、やけに重い。

「人は?」

「こちらに流れて来ます」

「どれほどだ」

「最低でも数千。もっと増える可能性も」

父上は小さく息を吐いた。

「ふむ……」

怒鳴られるかと思った。

無茶だと言われるかと。

だが違った。

「それで、お前はどうする」

試すような声でも、問い詰める声でもない。

ただの確認。

「……受け入れます」

即答だった。

「止められません。止めれば、死体の山になります」

「……」

「もう保護ではありません。救助でもない。

統治の代行です」

言葉にして、改めて自覚する。

俺たちはもう、“隣”を助けているのではない。

——背負おうとしている。

「南町の拡張、物資の再配分、受け皿の増設。

既に動いています」

「勝手に、か?」

「はい」

視線を逸らさず答えた。

「父上の許可を待っていたら、間に合いませんでした」

数秒の沈黙。やがて。

ふっ、と父上が笑った。

「そうか」

それだけ。怒りも、叱責も無い。

「……叱らないのですか?」

「何をだ」

「独断です」

父上は肩をすくめた。

「間に合わぬ判断を待つ方が、領主失格だ」

……ああ。この人は、本当に。

「お前は正しい」

静かに、はっきり言った。

「それで良い」

胸の奥に、溜まっていたものが少し軽くなる。

だが、父上は続けた。

「ただし」

空気が締まる。

「これはもう“善意”では済まん」

「……はい」

「隣を抱えるという事は、責任も敵も増える」

王政。

他領。

商人。

難民。

治安。

「覚悟はあるか?」

問いではない。確認だ。俺は、頷いた。

「あります」

即答だった。

父上はゆっくり立ち上がる。

そして俺の肩に手を置いた。

「ならば」

低く、重い声。

「家として抱えよう」

——家として。個人ではない。

この領地全体の決断。

「エドワルド一人の責任ではない。

私の責任でもある」

「父上……」

「好きにやれ。背中は、私が持つ」

その言葉だけで、十分だった。

もう迷わない。一人じゃない。

「……ありがとうございます」

深く頭を下げる。父上は短く言った。

「礼は要らん」

窓の外を見る。

遠く、南町の建築の音が響いている。

「さて」

父上が地図を畳む。

「忙しくなるぞ」

「はい」

「次は——何人来る?」

俺は小さく笑った。

「数えるのを、やめました」

父上も笑った。

「それで良い」

そして。

「来る者は、全て飲み込め」

静かな命令だった。

だが、それはこの家の、正式な覚悟だった。