軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終わらない列

その異変に最初に気付いたのは、南門の警備兵だった。

「……おい」

同僚の肩を叩く。

「あれ、何人いる?」

「は?」

指差した先。街道の向こう。

朝靄の中に、人影がある。

いや——

一つや二つではない。線だった。人の、列。

「……また保護民か」

「にしても、多くないか?」

二人は目を細める。

いつもなら、十人、二十人。

多くても五十。

今日は違った。途切れない。

歩いても、歩いても、後ろからまだ現れる。

「……鐘を鳴らせ」

低い声で、兵が言った。

「南町に伝達だ。数が……おかしい」

鐘の音が、朝の空気を震わせた。

「……何人だ?」

報告を受け、俺は門へ急いだ。

丘の上から街道を見る。

そして、言葉を失った。

「……」

列が、曲がっている。

遠くの林まで続いて、先が見えない。

「現在確認出来ているだけで三百以上です!」

「まだ増えています!」

「荷車組も後方に……!」

三百。

それだけでも十分多い。だが——

直感で分かる。これは、まだ先頭だ。

「……始まったな」

小さく呟く。遂に来た。本流だ。

「炊き出し増設!鍋を倍にしろ!」

「医療班、仮設天幕追加!」

「長屋三棟、即日解放!」

「歩けない者は担架!優先搬送!」

指示が次々飛ぶ。誰も騒がない。

叫ばない。

ただ、淡々と動く。それが逆に異様だった。

まるで最初から分かっていたみたいに。

昼。

さらに四百。

夕方。

まだ来る。

「……何人目だ?」

「もう数えてません」

文官が苦笑する。

「途中で諦めました」

「そうか……」

数える段階は、終わったらしい。

炊き出し場。鍋が、空になるのが早い。

いつもより、明らかに早い。

「次!すぐ次入れろ!」

「水足せ!薄くていい!」

「子供優先だ!」

怒号ではない。必死な現実の声。

その横で——

見慣れない光景があった。

「こっち手伝うぞ!」

「運ぶだけなら出来る!」

元保護民たちが、自分から動いていた。

昨日まで助けられる側だった者達が、

鍋を運び、毛布を配り、子供を抱き上げる。

「……勝手に始めやがったな」

兵が苦笑する。

「止めますか?」

「馬鹿言え。人手は多い方がいい」

自然に、流れが出来ていた。

受け入れる者。

案内する者。

食わせる者。

寝かせる者。

誰が命じた訳でもない。

それでも、回っている。

俺は高台から全体を見る。

南町。

煙が何本も上がり、

建築中の長屋に人が運び込まれ、

職人達がまだ木槌を振るっている。

「……止まらないな」

「はい」

横に立ったレオンが答える。

「ですが、崩れてもいません」

確かに。限界には近い。

だが、崩壊はしていない。

「……今までの準備が、効いてるな」

長屋。

農地。

炊き出し設備。

職人。

団員。

全部、今日の為だったのかもしれない。

夕暮れ。

まだ列は続いている。オレンジ色の空の下。

黙って歩く人々。泣く子供。

背負われた老人。

その光景を見ながら、俺は静かに言った。

「……全員、受け入れる」

レオンが小さく笑う。

「言うと思ってました」

「当たり前だ」

目を逸らさない。

「ここで止めたら、全部無駄だ」

助けると決めた。線はとっくに越えた。

なら——

最後まで、やるだけだ。

南町の灯りが、一つ、また一つと増えていく。

夜になっても、人の流れは、止まらなかった。それはまるで。

国そのものが、こちらへ流れ込んで来ているみたいだった。

——戦が、始まった。剣も、血も無い。

だが確実に命を削る、終わらない戦いが。