作品タイトル不明
第296話 チビコンビ
賑やかで多くの人が歩いている町中を進んでいくと、セントラルホテルに到着する。
「そういや今回は自費になるのか」
これまでは仕事があったので経費で落としていた。
「陛下から金属探知機を作れという話が来たらそれを理由にしてはどうでしょう?」
ふむ……確かにそれなら通りそうだな。
誰が陛下の依頼にケチをつけるというのか。
「良いかもな」
俺達はホテルの中に入ると、エントランスを抜け、受付に向かった。
「いらっしゃいませ。御予約のお客様ですか?」
受付にいる女が丁寧に頭を下げ、笑顔で聞いてくる。
「今日から泊まることになっているジークヴァルトだ。予約したのはレオノーラだが」
「少々お待ちを……」
受付の女がリストを確認し始めた。
「リートからお越しのジークヴァルト・アレクサンダー様でしょうか?」
「ああ」
「ようこそいらっしゃいました。確かにレオノーラ・フォン・レッチェルト様の名前で予約されています。いつもご利用ありがとうございます。朝食と夕食はいかがしましょうか?」
ふーむ……朝食はここで食べるだろうが、夜はどうしようか……
クリスを訪ねる予定なんだよな。
確かクリスがご馳走してくれると言っていた。
でも、あいつも忙しいし……
「今日の夕食は大丈夫だ。明日の朝食は食べる」
「かしこまりました。それではこちらが鍵になります」
受け取った鍵には304と書かれていた。
「わかった」
受付をあとにすると、階段を上り、3階にやってくる。
中は前と同じ広くて豪華な部屋だった。
「ほれ」
ヘレンを放り投げた。
すると、ヘレンがベッドに着地し、そのままゴロゴロと転がっていく。
「にゃー! ふかふかベッドですー!」
可愛い。
「前と同じ部屋のような気がするな」
窓から見える風景に覚えがある。
「そうかもしれませんね」
ふむ、悪くないな。
今日の夜はウィスキーを飲みながら金属探知機を仕上げてしまうか。
「よし、飯にしよう」
「賛成です」
ヘレンが飛び移ってきたので抱え、部屋を出る。
そして、ホテルを出ると、特に行きたいところが思いつかなかったので以前、テレーゼに連れてきてもらった定食屋に向かった。
すると、時間が時間なため、かなり混んでおり、空いている席がない。
「うーん……別のところに行くか」
「あのー、あそこに見覚えのある方々がいますよ?」
ヘレンが尻尾で指した先には確かに見覚えのあるチビ2人がいた。
ゾフィーとリーゼロッテだ。
ちょっと珍しい組み合わせと思った。
「相席させてもらうか」
「そうしましょう」
奥にあるテーブルに向かうと、2人が俺に気付き、見上げてきた。
「んー? ジークじゃん」
「あれ? ジークさん? どうしたんですか? というか、なんで王都にいるんですか?」
2人が首を傾げる。
「試験関係だ。相席良いか? いっぱいなんだ」
「どうぞ、どうぞ」
リーゼロッテが快く、許可をくれたのでゾフィーの隣に座り、水を持ってきてくれた店員に日替わり定食を頼んだ。
「そういや、あんた、試験官をやるんだったわね」
「え? そうなんですか? ジークさんかー……落とされそう」
なんでだよ。
「俺が担当するのは10級か9級だ」
「あ、そこも決まっているんですね」
「弟子が8級と7級を受けるからそこは外される」
「なるほど。だったら安心です」
リーゼロッテは自信がありそうだ。
「あんたは絶対に受かるわよ。8級くらいなら余裕よ」
「そうは言っても前回、落ちてますからね。ちょっと不安です」
でも、自信はあるんだろう。
本当に優秀なんだな、こいつ。
「お前ら、一緒に食べているけど、仲が良いのか? というか、テレーゼはどうした?」
まさかまた精神が壊れたか?
「普通。一緒に勉強会をしているし、テレーゼを誘いに行ったんだけど、いなかったからこの子と一緒に来ただけ」
「ゾフィーさんはそういうところを直した方が良いですよ。仲が良いでいいじゃないですか。あ、テレーゼ様は休みです」
相変わらず、はっきり言うリーゼロッテだ。
「そ、そうかな……あ、仲が良い、です」
ゾフィーも相変わらず。
ホント、すぐにおどおどしだす奴だ。
「リーゼロッテ、テレーゼは大丈夫なのか?」
「あ、大丈夫ですよ。家のシャワーから水しか出てこなくなったので修理業者を呼んだそうです」
そういうことね。
しかし、あいつは不幸が似合うな。
「魔導石製作チームはどうだ?」
「相変わらず、忙しいですけど、クヌートさんのおかげでだいぶ楽になりました。あの人、すごいですよね。さすがはツェッテル一門です。尊敬しますし、救世主ですよ」
まさかリーゼロッテがクヌートをそう評すとはな。
それほどまでにこれまでが激務だったんだ。
「あんたも一門、でしょ……」
まだおどおどしてる……
「あまりそういう意識はないですね。テレーゼ様の弟子ですけど、本部長とは数回しか会ったことないですし。あ、普通にしてください」
「う、うん……」
一応、年上だよな?
リーゼロッテが19歳でゾフィーが20歳のはずだ。
「実際、他所の弟子との交流はないのか? クリスにしてもマリーにしても弟子はいるだろ」
「全然、ないです。そもそもあの2人と話すこともないですしね。同じ部署や関係する部署だったら話すと思うんですが、薬品生成チームと循環チームってウチとはあまり縁がないですから」
そういやそうだな。
「それでゾフィーか」
飛空艇製作チームは関係する。
「ええ。仲が良いんです」
「そうだね……」
良かったな、ゾフィー。
友達ができたぞ。
実にお似合いだ。
「引き続き、頑張ってくれ。ゾフィー、サシャはどうだ?」
「あ、サシャは良い感じね」
俺に話しかけられてホッとするな。
嬉しそうな顔をするな。
本当にその内弁慶を直せよ。
「勉強を見てやってるか?」
「たまにね。10級ならもう大丈夫でしょ。あんた、どうせ本部に行くんでしょ? 声をかけてやりなさいよ」
「それはする。俺は受付には絶対に挨拶をするようにしているんだ」
反省。
「さすがは受付嬢好きね……」
「今度はサシャさんを狙っているって本当ですか? 受付嬢の何が良いんですか?」
えー……もうそんな噂が流れているのか?
「誰がそんなことを言った?」
「この人です」
リーゼロッテがゾフィーを指差した。
「お前な……」
「いや、だって、あんた、受付嬢しか勧誘しないじゃん」
「同級生のマルタやヴォルフだって勧誘したが、断られただけだ。色よい返事をもらえたのが受付で不満を持っていたアデーレだっただけ。サシャも同じようなもん」
たまたま。
「まあ、受付に配属になったら私も考えますね。錬金術師になりたくて本部に入ったんですから」
「確かにね。受付に異動になったらリートに行くかも」
安心しろ。
お前達が受付に配属になることは絶対にない。
受付はそこの顔だ。
こんな悪口ばっかりチビ2人の顔なんて嫌だろ。