軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第292話 間違っていないと思える人生 ★

私とサシャはサイドホテルの最上階にあるレストランでディナーを楽しんでいた。

やはり眺めも良いし、料理も美味しい。

「すごいですねー……でも、確かにゾフィーさんが言うように1人でここはきついです」

正直、私も嫌。

「リートは観光地でもあり、リゾート地でもあるからね」

「アデーレ先輩もすっかりリートの人になりましたねー」

なったと思う。

王都からこっちに戻った時に帰ってきたなーって感じがしたし。

「こっちでの生活はどうだった?」

「すごく良かったですよ。ジーク先輩が言うように合宿旅行って感じでした。エーリカさんの料理は美味しいし、海が綺麗でした。山はちょっと……あれですけど、楽しかったですよ」

満足はしていたようだ。

そして、やはり山についていかなくて正解だったようだ。

「仕事の方は?」

「それが一番の収穫ですね。ぐーんと実力が上がった気がします。やっぱり錬金術の勉強や練習は1人では難しいですね。師弟制度が広がっている理由がよくわかります」

それは私もそう思う。

私は独学で何年も頑張って9級までになれたが、それ以上は厳しかった。

それにやはり実務をして、さらには指導をしてくれる人がいると全然違った。

「正直ね、私が1人でやっていた勉強の2、3年をこっちに来てからの数ヶ月ですでに超えているレベルかなって思っている」

「それは私もそう思います。人生で一番成長できた2週間でした」

私の目から見てもそう思う。

サシャは最初の頃に比べると、実技の方が大きく成長していた。

もちろん、基礎があったからだろうが、スピードも精度もかなり上がっている。

「10級、いけそうよ」

「ですかねー?」

「最後の方はジークさんが何も言わなくなったし、勉強を見てくれなかったでしょ? そういうこと」

最後はマルティナさんばかりを見ていた。

サシャはもう十分に受かると判断したのだろう。

「あー、そうですね。ジーク先輩がそう思うならいけそうな気がします」

「そうね。私も大丈夫だと思う」

「頑張ろう!」

頑張って。

「また受付に戻る?」

「それなんですよねー……せっかく受かっても結局は受付業務です。嫌いじゃないんですけど、せっかく錬金術師になれそうなのになー……」

私は嫌いだったが、この子は明るくて社交的だからね……

「リートに来ない?」

「うーん……良いとは思うんですよ。でも、王都がなぁ……」

悩んでいるか。

まあ、簡単に決められることではない。

「まあ、悩んでいるなら受かってから考えなさいよ。まずは試験に集中」

「そうします。ちなみになんですけど、来たら歓迎されますかね?」

「もちろんよ。エーリカさんもレオノーラも歓迎するし、ジークさんだって何度も誘ってたでしょ」

何度も断られたそうだが。

まあ、それはマルタもだけど。

「もし、ここに来たら私も弟子入りですかね?」

「どうかな……実際、人数が少ないから一緒に仕事をするわけだし、そうなると、ジークさんから教えてもらうことが多いのよ。それでいて、支部のために資格を取るから勉強会をする。これがウチの師弟。あそこで働いていれば自然とそうなるわけよ」

弟子になりたいと言って師弟関係になるというより、これって師弟だよねって感じなのだ。

「確かにそうですね。ファミリーかー」

健全な方のね。

けっして、マフィアの方ではない。

「ジークさんは優しかったでしょ」

「そうですね。まあ、私は別にジーク先輩が厳しいと思ったことはないし、普通に親切な人ってイメージしかないです」

この子は以前のジークさんと関わっていないからね。

「じゃあ、問題ないわね」

「ないですけど、あの人、何なんですかね? 学生時代、本部の時代から天才とは聞いていましたし、すごい人っていうのはわかっていましたけど、実際に見ると、本当にバケモノじゃないですか」

あー……

「まあ、そうかも?」

「そうですよ。錬成も抽出も完璧ですし、スピードが段違いです。私が10人いても勝てませんよ。それに探知機って何ですか? なんか皆さん、軽くスルーしてましたけど、とんでもない機械を作ってましたよ」

あの機械はなぁ……

でもまあ、ジークさんなら作るかって思った。

「そういう人なのよ。あれだけ優秀なツェッテル一門でも争いにすらならなかったレベルの人だから」

だからジークさんがこっちに来て、クリスさんとハイデマリーさんが争いを始めたのだ。

「もう天上の人って感じですね。1人でリート支部をどうにかできそうですよ」

「ジークさんはそういう考えをやめたのよ」

仕事も分担するようにしている。

「左遷されましたしね。でも、すごいのはあれほど人と相容れない才能を持っているのに歩み寄れることですよね。私はそっちの方がすごいと思います。あの人、絶対に自分以外はバカで無能って思っていますよ。だって、事実なんですもん。多分、私達からしたら掛け算や割り算もできない大人を相手にしているようなものですよ」

なんでこんなものもわからないんだろうって思うでしょうね。

そして、匙を投げる。

でも、ジークさんはちゃんと向き合ってくれる。

「人は成長する生き物らしいわよ」

ジークさんがそう言ってた。

「挫折すらしないんですもんね。すごいなー。尊敬するなー。でも、反面、プレッシャーがヤバくないですか?」

「それはそうね……」

あの人、できる、できないを断言するんだもの……

「頑張ってください」

「リートにおいで」

「私も今回のことで錬金術の仕事をしたいと強く思えましたし、前向きに考えておきます。あ、ちゃんと応援しますからね」

何を?

◆◇◆

翌日、朝起きて、ゾフィーを起こすと、準備をさせ、エーリカの部屋に向かう。

すると、サシャがおり、すでに朝食を食べていた。

「あ、おはようございます。お先にいただいてますよ」

「あんた、早いわね」

「いや、9時発の便ですよ? 急がないと遅れちゃいますよ」

「まだ7時じゃないの……ふわーあ」

俺達も席につき、朝食を食べる。

そして、一息つくと、準備をし、皆で表の支部の方に回った。

「それでは皆さん、私達はここで失礼します。大変お世話になりましたし、良い勉強にもなりました。ありがとうございます」

サシャが丁寧に頭を下げる。

「こちらも助かった」

「ありがとうございます」

「また王都でねー」

「自分達もだけど、試験頑張って」

俺達も挨拶を返した。

「はい。また本部に来た時はよろしくお願いします」

サシャは笑顔で頷き、ゾフィーを見る。

「え? 私も? 特にないけど……あー、えーっと、ごちそうさまでした」

ゾフィーの気持ちがよくわかる。

俺もそういう挨拶は得意じゃない。

だからいつも仕事の挨拶の定型文になる。

「ゾフィーさん、ありがとうございました」

「手伝ってくれて感謝だよー」

「ええ。ゾフィーさんもまた王都で」

3人娘は笑顔だ。

この明るさが羨ましいと思わないでもない。

「ゾフィー、本部長によろしくな」

「あ、そうね」

俺を見て、ほっとすんな。

闇の民め。

「では、我々はこれで。皆さん、また」

「またね」

2人はそう言って空港の方に歩いていった。

「さて、俺達も仕事だ」

俺達は支部に入り、それぞれの席についた。

そして、エーリカが淹れてくれたコーヒーを飲む。

「ジークさん、緊急の仕事が一通り終わりましたけど、どうします?」

エーリカが聞いてくる。

「そうだなー……もう試験まで2週間を切っているし、適当な仕事をしていくか。そういうわけで終わった依頼の納品に行こう。それで次の仕事を聞く感じだな。お前らは役所を頼む。俺は鍛冶屋のディルクのところに行って、依頼終了を知らせてくる」

鍛冶師連中から依頼はないだろうが、役所からはもらえるだろ。

試験まではそれと軍からの依頼をこなしていけばいい。

「わかりました。では、準備して行きましょう」

「薬作りが良いなー」

「私はステンレス鋼じゃなきゃ何でも良いわ」

俺達はコーヒーを飲むと、準備をし、支部を出た。

そして、役所に向かう3人娘と別れ、職人通りの方に向かう。

「ヘレン、俺は上手くやれているか?」

「もちろんですよ。今回もサシャさんにもマルティナさんにも上手く接しておられました。もう親切な人の称号を得たも同然です」

そうか。

50点が見えてきたか。

「これからも頼むぞ」

「任せてください」

うん、可愛い。

かつて、本部長に上だけじゃなく、下を見ろと言われたことがある。

そして、あの自己中で向上心しか持ち合わせていない本部長がなんで弟子を取ったのかが疑問だったし、本部長自身もその答えを明確には持っていなかった。

でも、今ならわかる。

人は1人ではダメなのだ。

特に自分で何でもできてしまう俺や本部長のような人間は他人を見下すだけのモンスターになってしまうのだ。

それでは本当の上には行けない。

でも、残念ながらそれに気付いた時には俺はもう上を目指さなくなってしまった。

実に皮肉なものだと思う。

ただまあ、これで良いのだと強く思っていた。