作品タイトル不明
第257話 気まずいレオノーラ
翌日、朝起きると、やはり快調だったのでもう風邪は完璧に治ったようだった。
調子が良いので意気揚々と職場に向かうと、すでに3人娘が来ていた。
「おはよう」
3人に挨拶をする。
「おはようございます」
「おはー」
「おはよう。ジークさん、支部長が来たら呼んでほしいって言ってたわよ」
今日も支部長はすでに来ているのか。
昨日もだったし、珍しいことが続くもんだな。
「わかった。ついでに誘ってみる」
「よろしく」
支部長室に向かうと、ノックをする。
「支部長、ジークです」
『入ってくれ』
許可を得られたので中に入ると、デスクにつく支部長がいた。
ただ、いつものように新聞は読んでおらず、代わりにデスクの上には封筒が3つ置いてあった。
「あー……」
あれか。
「お察しの通り。鑑定士試験の結果だ」
来たか……
今日は残念会になりそうだな。
「3人には私から渡しましょう」
「頼む」
支部長が頷いたので封筒を取る。
「時に支部長、今夜の予定は?」
「予定? 特にないな。どうした?」
えーっと……
「飲みに連れていってくださいよー」
こんな感じかな?
「……本当にどうした?」
すごい怪訝な顔をされてしまった。
「支部長さん、深く考えないでください。単純に夏の慰労会のお誘いです」
ヘレンがフォローしてくれる。
「そうか……珍しいこともあるもんだな。お前、飲み会が嫌いだろ」
「別にそういうわけではないですよ。行くメンツによります」
支部長も含め、この仕事場なら問題ない。
それは今までの飲み会で十分にわかっている。
「ふーん……まあ、行ってもいいが、今日か? よりにもよって?」
若干、2名ほどヤケ酒の可能性が……
「2人も落ちていることはわかっていることでしょうし、問題ないでしょう」
「それでも落ちたらへこむのが試験だがな。お前にはわからないだろうが」
わからないな。
俺は二度の人生で一度も試験に落ちたことがない。
「次の試験に切り替えるための飲みです」
「そうか。まあ、わかった。いつものあそこでいいな?」
「ええ。お願いします」
あそこは料理も酒も美味いしな。
「じゃあ、夕方な。それで仕事の方はどうだ?」
「他所の町からインゴットの要請があったようでそれの仕事を受けました。鉄鉱石と銅鉱石はすでに民間に買い占められていたので銀とアルミになりますが……」
「インゴットの要請? 他所の町から?」
支部長が腕を組んで悩みだす。
「ええ。あまり足りなくなるものではないと思うんですが……戦争関係ですかね?」
「そこまでひっ迫した状況ではないと思うんだが……」
俺もそう思う。
アデーレの爺さんの話から察するにまだ余裕はありそうだった。
錬金術師がヤバそうだったけど。
「どう思いますか?」
「うーむ……少し探ってみよう」
「お願いします」
こういう時に頼りになるがウチの上司。
ただの新聞を読んでいる天下りのおっさんではないのだ。
「ああ。そういうわけで俺はちょっと出てくる。夕方には戻ってくるからな」
「わかりました」
支部長室を出ると、支部長がそのまま出ていったので席に戻った。
そして、エーリカが淹れてくれたコーヒーを飲む。
「ジークさん、支部長は?」
エーリカが聞いてくる。
「例のインゴットの件を探ってくるそうだ。夕方には戻ってくるらしいし、それから慰労会だな。予定もないし、来てくれるそうだ」
「おー、そうですか。それは良かったですね」
そうだな……
「それと支部長からこれを預かった」
そう言って、エーリカのデスクの上に封筒を置く。
そして、立ち上がると、正面のアデーレのところにも置き、その隣のレオノーラにも渡した。
「試験結果……」
「鑑定士か……」
エーリカとアデーレが表情を暗くし、じーっと封筒を見る。
「何度も言うが、落ちてるぞ。逆に受かってもらっても困る。資格は大事だが、それに見合う実力がいる。お前らはまだ鑑定を始めたばかりなんだから仕方がないだろ」
そう言うと、2人が封筒を開け、中にある紙を見た。
そして、無言で紙を封筒に戻すと、デスクの引き出しに入れる。
結果は想像通りのようだ。
「アデーレさん、これは?」
エーリカがデスクの上にある作業中の銀鉱石をアデーレに見せた。
「C」
残念。
Dランクだ。
「地道にやれ。焦って習得しないといけないものでもないから」
「はーい」
「そうね」
2人は仕事を再開しだした。
「レオノーラはどうだった?」
これも一応、確認。
「受かったー」
「そうか、そうか。良かったな」
2人の前だからちょっと抑え気味の『受かったー』だが。
「うん。王都のレストランね」
「わかった。レオノーラ、お前は錬成をする時に魔力の流れが見えているか?」
「そりゃね。じゃないと、錬金術ができないじゃん」
レオノーラがそう言うと、エーリカとアデーレが顔を見合わせる。
「魔力……?」
「流れ……?」
ある意味でこいつら、すごいな。
今までそれもわからずにやっていたらしい。
まあ、それでも知識と経験があればできないことはないのだが。
「久しぶりに青空錬金術かな……」
ちょっとそっちの方も練習した方が良いかもしれない。
「外ですか?」
「また水浸しは嫌よ」
俺もあんなハラハラはもう嫌だよ。
「そういうのじゃない。緊急依頼を受けている時だし、お前らはこれまで通りに作っていればいい。ちょっと魔法を見せてやるだけだ」
「ほー……ジークさんの魔法ですか」
「オークがバラバラになったやつだね」
「そんなの見たくないわ」
俺だってもう見たくねーよ。
「攻撃魔法は使わないし、たいした魔法じゃない。行くぞ」
俺達は材料なんかを持ち、支部を出ると、【裏にいますので御用の際は裏までお越しください】と書かれた看板を立てかけ、寮のアパートの方に向かった。