軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ムウ

「誠一殿たちの……実力を……認める……」

「……はい」

開始数秒でその場から動くことなく月影さんを捕まえた俺たち。

結果としては俺たちの力を示せたことになるのだが、あまりにも理不尽すぎる結果に、月影さんは何とも言えない表情を浮かべ、守神さんも困惑している。

安心してください。俺も困惑してます。

すると、張り切って月影さんを探しに行こうとしていたアルが、呆れた様子でため息を吐いた。

「まあ……海に接待されながら移動したり、もう今さらではあるが……誠一」

「は、はい」

「もはや魔法すら使わなくなったな」

「いやあああああああああっ!」

言われてみればそうだけども! 仕方ないじゃん? 頼めば動いてくれるんだもん!

今どれだけ俺は魔力があるのか分からないが、少なくともそう簡単に枯渇するような量ではない。

それでも、魔力を使わずに済むならそれの方がよくないですか?

嘆く俺をよそに、アルはしみじみとした様子で続けた。

「バーバドル魔法学園に、魔法の腕を買われて先生してたくせに……」

「ヤメテ! これ以上は俺の精神が持たない!」

「その割には元気そうだけどな?」

このノリは平常運転なので。

辛くても明るく。これ大事。

俺とアルがそんな会話をしていると、何とも言えない表情のまま、月影さんが守神さんに声をかけた。

「……外つ国はこんな化け物しかいないのか?」

「さ、さあ……拙者も外つ国の者は誠一殿たちが初めてでござるから……」

「すまねぇが、コイツは例外中の例外だ。誠一の真似は誰にもできねぇよ。安心してくれ」

「そ、そうでござるか?」

「……まあアルトリア殿の言葉が本当であるなら、これ以上ないほど心強いがな」

まだ微妙に心の整理がついていない様子の月影さんに対し、サリアが笑顔で告げる。

「大丈夫! 誠一が何とかしてくれるから!」

「い、いや、サリア。その信頼は嬉しいけど、どこまで俺の手に負えるか……」

「安心しろ。お前の手に負えなきゃ、すべて終わってる」

「そこまで!?」

さすがにそんなことはないと思うが……俺の手に負えないことなんて、世の中いくらでもある。

「ま、まあいいや。それで、これからどうするんですか? その黒幕ってのが、そこの……大和様を狙ってるんですよね?」

「……」

俺がそう言いながら大和様に視線を向けるが、大和様は最初の時から変わらず、虚ろな表情で虚空を見つめている。

「えっと……守神さん? 大和様って、いつも、その……」

「……誠一殿の言いたいことは分かるでござるが、大和様はこれがいつものお姿でござる。いや、そうなってしまった、という方が正しいか……」

「え?」

守神さんの言葉に首を傾げると、守神さんは沈んだ表情を浮かべ、月影さんも同じく、悲し気な表情になっていた。

「……今のムウ様は、ムウ様自身の力を封じ込めた結果の姿だ」

「大和様の力?」

「そうでござる。知ってるでござるか? この国……いや、この国の大地が生まれた切っ掛けを」

「大地が生まれた切っ掛け?」

次々と飛び出す不思議な言葉に、俺だけでなく、アルたちも困惑の表情を浮かべた。

「この東の国と呼ばれるこの地が生まれたのは……ムウ様のお力でござる」

「は!?」

まさかの言葉に、俺たちは絶句した。

大地が生まれたって……ええ?

「そ、それって、どういう意味ですか?」

「そのままの意味でござるよ。元々我々が住むこの地は、存在しなかったのでござる」

「もちろん、無人島だった、とかではなく、本当に存在しなかったのだ」

「存在しなかったって……つまり、海の上だった、ってことか?」

「そう言うことになるでござる」

「……誠一と同系統かよ……」

「そのまとめ方やめてもらえます!?」

アルの疲れたような言葉に、俺は思わずツッコんだ。俺は別に土地を生み出してないですから! ただ頼みごとを聞いてもらってるだけだから!

「って……ちょっと待って。確か、守神さんって十何代目かの当主なんですよね? それって、この土地以外で代を重ねたってことですか?」

「いや、この国の、この地で重ねた結果でござるよ」

「そ、それじゃあ……大和様って、一体……」

おいくつなんですか? って口に出しそうになったが、そもそも偉い人に訊く質問でもないし、何より女性に訊くものでもない。

だが、俺たちよりはるかに長い年月生きていることだけは理解できた。

しかし、どう見ても大和様の見た目は幼い女の子で、バーナさんのようにエルフといった感じでもない。

「話を戻すでござるが、この国はムウ様のお力によって、生まれたと言っても過言ではない。まさに神のごとき御力でござる」

「しかし、その力を崇める者たちと、排除しようとする者たち、そして利用しようとする者たちが現れたのだ」

「それは……」

「当然の結果でござろうな。ムウ様の御力は、神と呼んでも間違いないでござる。先ほどはこの国を生み出したと言ったでござるが、ムウ様は土地だけに限らず、何でも生み出すことができたんでござるよ」

「な、何でも?」

「何でも、でござる」

「……おいおい、まさか……」

何かに気づいたアルが頬を引き攣らせると、真剣な表情で守神さんは告げた。

「もちろん――――人間も」

「っ!?」

「……ソイツは、結婚して、旦那との間に子供を作った……とかって話じゃねぇよな?」

「違うでござる。何もないところから、人間を生み出したのでござるよ。生み出される人間は年齢も性別もバラバラ……そんな生み出された者たちが集まった場所こそ、この国でござる」

「……本当に神様かよ」

アルの言葉に、俺たちは言葉が出ない。

なんせ、やってることはまんま神様だ。

土地を生み出し、生命体を生み出した。

そんなもの、人間ではとてもできない。

そんなの、俺だって――――で、できないよね? 大丈夫だよね?

……これ以上考えると怖いから、やめておこう。

そんなことはできない。人間だもの。

とにかく、大和様はまさに神様と呼べる存在だろう。

「そ、それで、大和様の力が封印されてるってのは……?」

「……まさに神のごとき力を振るわれたムウ様は、御力こそ神と同じでありながら、その心は人間だったのでござる」

「え?」

「多くの人間を生み出し、関わってきたムウ様だが、生みの親であるムウ様を裏切る人間も多くいた。それこそが、先にも言ったムウ様を排除しようとした者たち、そして利用しようとした者たちだ」

「そんな自身の子供ともいえる人間から裏切られたムウ様は、ひどく心を痛められたでござる。そして、ムウ様はもう心を痛めぬよう、自身の力と共に封じたのでござる。それが今のムウ様なのでござるよ」

「そんな……かわいそう……」

サリアは純粋に思ったままを口にした。

今の大和様だけでなく、ゼアノスや黒龍神も、同じように人間によって苦しめられたのだ。

……本当にどうしようもない種族だなぁ、人間って。それを言えば俺もだけど。

「そんじゃあ、今までの大和様の立ち位置ってどんな感じだったんだ? 一種の建国神だろ?」

「御心を封印される前は、女王としてこの国をまとめておられたが、封印以降は、一種の国の象徴として、ただいるだけの存在になっていたでござる。それ故に国が分裂し、ムウ様の後を狙った諸侯が台頭、戦乱の世に突入といった形でござる」

「なるほど……」

大和様は、日本でいう天皇陛下みたいな立ち位置だったのか。

それも、どちらかと言えば戦国時代の帝に近い……のかな?

となると、一つ疑問が浮かぶ。

「なんでまた、今になって大和様を狙うように? 大和様自身がその力を封印したんですよね?」

「……ああ。だが、今回の首謀者である者は、どうやらムウ様の封印を解く力を持っているようだ。だからこそ、ムウ様を狙っている」

「そんな……つまり、何でも生み出せる力を?」

「いや。相手は、ムウ様のその力を狙っているのではない」

「え?」

「……ムウ様には、もう一つの側面があるのでござるよ」

より深刻な表情でそう告げる守神さん。

もう一つの側面って……まだあるのか?

「ムウ様はには、二つの面があるでござる。一つは【無から有みだす者】……そして、もう一つは【無を有みだす者】でござる」

「無を有みだす?」

「つまり、すべてを無にする力だ」

『!?』

とんでもない力の内容に、俺たちは再び言葉を失った。

す、すべてを無にするって……。

すると、アルが先ほどと同じように顔を引き攣らせながら訊いた。

「まさかとは思うが、その力も……」

「何でも、でござる」

「……」

言葉が出ない。

何でも無にできる。

つまり、人間ですら、無かったことにしてしまうということだ。

「創造と破壊を併せ持つ存在――――つまり【無有】。これこそがムウ様の正体であり、相手が狙うすべてだ」

一つ言わせてほしい。

ルーティアのお父さんである、ゼファルさんを助けた時も思ったが……規模がデカい!

何!? あの【夜王】を相手にした時も大概だなって思ったけど、こっちはこっちでとんでもねぇ力の持ち主がいるじゃん!

本当に魔神の付け入る隙あったの!? この世界に!?

どう考えても魔神が何かできるような世界じゃないじゃん!

いや、もしかしたら、魔神はもっとすごいのかもしれないけどさ。

やっぱり俺なんかより全然ヤバいじゃん!

俺は人間を消すなんて――――お? これ以上は不味い気がするぞ?

か、考えるな。大丈夫。俺は人間だ。

「どこでムウ様の御力のことが外つ国に漏れたのかは分からぬ。だが、ムウ様を私欲のためだけに狙おうとする外道に、ムウ様を渡すわけにはいかんのだ」

月影さんは真剣な表情でそう締めくくった。

「……話が少々長くなったな。そろそろ移動しよう。さすがに我々を襲った者たちが帰ってこないことで、相手も異変を察しただろうしな」

「分かりました」

俺たちは頷くと、そのまま月影さんの後を追い、その場を去るのだった。