軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

影の里

「……」

「……」

月影さんの後について移動中、大和様はじーっと俺のことを見つめていた。

ちなみに、大和様は月影さんの背に背負われているため、わざわざ後ろを振り向いてのことである。

「……」

「……」

「……」

「……あの、何か……?」

「……」

あかん、会話できんタイプや!

いやまあ、月影さんと守神さんの話では、大和様は力と一緒に心も封印しているらしいし、ちゃんとした会話ができなくても仕方ないんだろうけどさ。

それにしても、なんで俺を見てくるんだろう?

……ハッ!? まさか、俺って臭い!?

「な、なあ、アル。俺、臭うか?」

「急に何の話だよ?」

「ちょっと自分の体臭に自信がなくて……」

なんせ体臭で格上の魔物を殺したのでね!

すると、アルは軽く俺に顔を近づけ、鼻を動かすも、首を振る。

「別に臭くねぇぞ? お、オレは好きな匂いだ」

「へ?」

「うん、誠一、いい匂いだよねー」

「い、いい匂い……」

そんなこと、初めて言われたな。

ただ、アルはともかく、サリアはなぁ……。

ゾーラのいたダンジョンでアナコングにも結婚を迫られた際は、俺の体からは本当にゴリラを引き付ける何かが出てるんじゃないかと思ったくらいだからな。

とりあえず、俺が見られる理由なんて今までのことを考えると、臭いくらいしか思い当たるものがなかったんだが……。

「……なんであんなに見られてるんだろうか。穴あきそうなほど見てくる……」

「……何故誠一殿がいきなり臭いを気にしたのかはよく分からんでござるが、ムウ様にとって、誠一殿は引っ掛かる何かがあったんでござろうな」

「引っかかるって……」

「拙者も驚いているでござるよ。ムウ様は、それこそ拙者の知る限り何かに興味を抱くことは今までござらんかった。恐らく、心を封じ込めてから、そんなことは一度もなかったと思うでござる。だが、何故か誠一殿には興味を示した……拙者には分からない、誠一殿の何かを感じ取ったのでござろう。御力を封印したとはいえ、その神秘性に陰りはないのでござる」

「そ、そうなのか……」

そんな神様みたいな人が、俺みたいなただの人間に何を感じるんだろうね。こう、溢れ出る小市民感?

すると、サリアは笑顔で口を開いた。

「誠一は、一緒にいるだけで楽しいからね! 大和様も楽しいんじゃない?」

「え?」

「大和様の心は封印されてるって言うけど、誠一の行動がおかしくて、その封印すらも抑えきれない衝動として現れてるんじゃないかなぁ」

「待って、そんなに俺っておかしいか?」

『うん』

「即答!?」

しかも全員かよ!

会話に参加してなかった月影さんまで頷くとかどうなってるの? 会ってまだ、そんなに時間経ってませんよね? そんな人からも俺、おかしいって思われてるの? うるさい自覚はあるけど!

ほら、常識さんと普通さん。そろそろ帰ってきてもいいんですよ? 俺の体はいつでもウェルカムなんで。

「……着いたぞ」

そんなくだらないやり取りをしていると、どうやら目的地に着いたらしい。

月影さんが促した先に視線を向けると、そこには森の中の隠れ里、といった雰囲気の街が広がっていた。

月影さんの後ろを何も考えずについて移動していたので気付かなかったが、どうやら特殊な道を通っていたみたいだ。

というのも、森で囲まれながら、そこは切り立った崖があり、その崖に突き出す形でいくつもの家が建てられていて、普通であれば多少遠くからでも見えただろう。

しかし、こうして近づくまでその家々に気づかなかったってことは、何か特殊な仕掛けがどこかに施されていたはずだ。

その仕掛けが何なのか分からんが、まあいいだろう。分かったところで俺には使い道もないし。

「うわ~!」

「すっげぇな……」

「……ん。異国情緒あふれてる」

「は、はい。王都やサザーンで見た家とは、違った造りですね!」

サリアたちも目の前に広がる景色に、感動の声を上げていた。

ゾーラの言う通り、この街にある家は、ウィンブルグ王国や他の国のような石造りの建物じゃなく、木造だ。本当に昔ながらの日本って感じだな。

家の見た目も、長屋が多く、見た目もどこか日本人である俺からするとなじみ深い。

街のいたるところから煙が登っており、栄えていることが分かった。

そんな街に感動していると、月影さんが教えてくれる。

「ここは、拙者の故郷である『影の里』だ。本来ならば、大和様はこの国の中心である『栄京』の太陽城にいるはずなのだが、あそこはすでに敵の手によって占領されてしまった。そして、他の諸侯も傘下に降った今、大和様が逃げられる場所はそうない」

「そこで月影殿の故郷である、この『影の里』でござる。誠一殿たちも何となく感じたでござろうが、ここに来るには特殊な方法を使わなければたどり着けないのでござる。だからこそ、敵の追手を心配する必要はしばらくないと思うでござるよ。この里自体も、ムウ様の味方でござるから」

「なるほど……」

いわゆる忍者の隠れ里か。

改めて周囲を見渡していると、戦国時代くらいの日本の町人のような格好をした男が二人、慌てた様子で月影さんに近づいてきた。

「エイヤ! 無事だったか!」

「ああ。幸いなことにな。大和様もここにおられる」

「忍びの務め、ご苦労。しばらくはこの里で過ごすといい。我らの集めた情報も含め、エイヤに渡そう」

「かたじけない」

どうやらこの二人の男性も忍者なようで、月影さんと少し言葉を交わした後、街中に溶け込むように消えていった。す、スゲェ。

その様子を見ていると、月影さんがこちらを振り向く。

「待たせたな。先ほどの者たちは拙者と同じく忍びの者……というより、この里で暮らす全員が忍びだ。そしてこの里の者たちは大和様を支える勢力の一つだ。しばらくはこの里が提供する宿で過ごすことになるだろう。こっちだ」

月影さんの案内に従い、街中を進んでいく。

「いらっしゃい! 団子はいらんかね?」

「この刀はあの名工が――――」

「安いよ安いよー! 今日獲れたての魚だよー!」

あちこちで上がる声はどれも活気にあふれ、この里が栄えていることが分かる。

だが、これだけ栄えていながら中央の都市ほどではないというのも驚きだ。中央はどんだけ栄えてるんだ?

というより、隠れ里っぽいし、もっとしっとりと、静かなイメージがあったが、そんな俺の想像を裏切るような光景だ。もちろんいい意味だけどね。

「ここだ」

「へ?」

街の様子を興味深く観察しながら移動していると、俺たちの目の前にお城と言っても差し支えないだろう、巨大な建造物が飛び込んできた。

だが、入り口には『湯』と書かれた暖簾がかかっており、お城ではないことが分かる。

つまり、目の前の巨大な建造物は旅館なのだ。

イメージとしては、某神様の湯屋にめちゃめちゃ近い。どうしよう、名前取られそう。

これまたそっくりな赤い橋を渡り、俺らが滞在するという宿に向かうと、宿から着物を着た女性が出てきた。

その女性は俺たちの前に来ると、丁寧に頭を下げる。

「ようこそおいでくださいました。お話は伺っております。ささ、どうぞ中でお寛ぎください。私どもが精いっぱいおもてなしさせていただきます」

「は、はあ……」

ついそんな気の抜けた返事をしてしまったが、俺はあることに気付いて慌てた。

「そ、そうだ、お金! この場所って、どんなお金が使われてるんですか?」

こんな高そうな宿に泊まるのに、お金がないんじゃシャレにならない。

もちろんウィンブルグ王国や同じ大陸内なら金銭を心配する必要はないけど、ここまで文化が大きく違う上に、この国の成り立ちを考えると、貨幣も大和様の力で新たに生み出されていてもおかしくないのだ。

なので、場合によっては俺の手持ちのお金のほとんどが無意味の可能性もある。

そんな俺の心配ごとに対して、月影さんと守神さんは顔を見合わせた。

「どんなお金、と言われてもな……」

「誠一殿たちと同じだと思うでござるよ?」

「俺たちと同じというと……」

「あれでござる。魔物を倒した際、お金が出るでござるよね? それをそのまま使っているでござる」

「あ、よかった……」

守神さんの言葉に、俺はひとまず安堵する。どうやらこの国でも使われているお金は金貨や銀貨みたいだ。

でも、よくよく考えれば、魔物からお金が手に入るってどうなってんだろうな?

この世界を生み出した神様が組み込んだシステムだと言われてしまえばそれまでだが……。

あまり気にしてこなかったが、色々と不思議でどう成り立ってるのか謎な貨幣システムだ。国ごとに魔物から手に入るお金と同じ貨幣を作られているのかも実は知らないし。

一般人からすれば、使えるお金ってだけで十分なのは間違いないが、こうして考えると不思議で気になる。まあ今気にする必要はないだろうし、考えれば考えるほどドツボに嵌りそうだから深く考えない方がいい気もするけど。

そんなことを考えていると、宿屋の女性が慌てた様子で口を開いた。

「あ、お代はいただかないのでご安心ください!」

「え? そうなんですか?」

「もちろんです! 大和様をお迎えするというのに、お金をいただくわけにはまいりません。もちろん、お連れ様も同じでございます。大和様の護衛とあらば、丁重におもてなしするのが大和家に仕える我らの務め……ぜひともこの宿でお寛ぎください」

なんという好待遇っぷり。

今日は海にも接待され、人間にも接待されるのか。流行りかな?

「ここで長話も何ですから、どうぞ、中へお入りください。もちろん、お部屋は最上のところをご用意いたしておりますので……」

そう告げる宿屋の女性についていきながら、俺たちは宿に入るのだった。