軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

腕試し

「かたじけない……またも、誠一殿たちに助けられてしまった……」

「いや、オレたちは何もしてないし、誠一が暴走しただけなんで……」

「否定できないよね!」

侍たちをひとまず全員気絶させた俺だったが、そこからは忍者さんや守神さんの行動は素早く、侍たちを次々と頑丈そうなロープで縛りあげてしまった。

そして、改めて守神さんが俺たちにそう頭を下げたのだが……アルたちが何もしてないんじゃなくて、する暇がなかったというのが正しい。俺もこうなるなんて予想できなかったんでね!

守神さんはここに来るまでの間にもある程度会話をしたことで、特別警戒されることはなかったが、忍者さんは違うようで、和服姿の女性を背に庇いつつ、俺たちに鋭い視線を向ける。

「守神殿。何故外の者を連れて来た! 今の状況が分かっておらぬのか!?」

「もちろん、理解しているでござる。だが、拙者はここにいる誠一殿たちに助けてもらえなければ、今こうしてここに戻ってくることは不可能だったのでござるよ。それはつまり、エイヤ殿もムウ様も、今のように無事ではなかったはずでござる」

「それは……」

守神さんの言葉通り、中々厳しい状況だったことは間違いないようで、忍者の女性は悔し気な表情で口を噤んだ。

そんな様子を見ていると、守神さんはため息を吐きながら頭を下げた。

「はぁ……申し訳ござらん。ひとまず紹介させていただくが、こちらにおわす御方こそ、拙者が仕える主である大和ムウ様でござる。そして、そこの黒装束はムウ様に仕える忍者……いわゆる密偵と思っていただければ問題ないでござる。名は月影エイヤでござるよ」

改めて紹介された二人を見るが、守神さんが仕えているという大和ムウ様は変わった女の子だった。

年齢は予想以上に幼く、だいたい12歳くらいだろうか。

服は十二単ほどではないにしろ、素人目に見ても豪華だと分かる素材の和服で、ここまで逃げてきたからか、少し汚れてしまっている。

長髪の真っ白い髪に、青い瞳はどこか虚ろでぼーっとした印象を受ける。

何て言うか……お人形さんみたいだな。生気を感じられないというか、無機質というか……。

それに対して月影さんは、オリガちゃんのように全身黒の忍者装束を身に纏っており、頭もすっぽりと黒い頭巾で覆われていて、目元しか顔で分かる部分はない。

そのため、どんな顔なのかは分からないが、俺たちを警戒しているのだけは理解できた。

そりゃそうだよなぁ。

いきなり現れたかと思えば、海から水の柱が立ち上り、そのまま触手のように動いて侍たちを蹴散らしたのだ。

しかも、海だけでなく陸でも次々と岩が鎖のように繋がり、これまた触手のように動いて侍たちを吹き飛ばしたのである。

もうどうしようもないほど不審者だよね! 俺が月影さんの立場なら逃げてるよ! 意味が分からなさ過ぎて!

守神さんの紹介を受け、俺たちも軽く自己紹介を終えると、守神さんは真剣な表情を浮かべる。

「誠一殿たちには、とても助けられたでござる。おかげで、こうして再びムウ様のもとに戻ることができた……誠に、感謝申し上げる。ありがとう」

「そ、そんな……こちらとしても、お力になれたようでよかったです」

「……かたじけない。そして、ここまで拙者は助けられたからこそ、誠一殿たちはぜひともここから脱出してもらいたい。今この国は、外つ国の者にとっては非常に危険である故……」

「それはまあ、さっきの様子で何となく分かりますが……」

事件の全容は分からないが、少なくともあんな感じで刺客に襲われる事態が日常とか、危険すぎて観光もできないだろう。

ただ……。

「よければ、お話を聞かせてもらえませんか?」

俺は自然とそう口にしていた。

俺の言葉に、守神さんどころか月影さんも目を見開く。

「……いいのか? 誠一」

すると、黙って成り行きを見ていたアルが口を開いた。

「ここで話を聞けば、たぶん、もう後には引けねぇぞ?」

「それはもう、今さらでしょ。アルたちには迷惑をかけるけど……あんな風に襲われてる人がいるのに、見て見ぬふりはできないよ」

「……そうか」

アルは俺の答えに、どこか満足そうに少し笑った。

すると、サリアたちも口を開く。

「私も大丈夫! 困ったときは、助け合わないとね!」

「……ん。助け合い、大事」

「そうですよ! 私の力が役に立つのなら……!」

「私はただ、主様の意向に従うのみだ」

本当にルルネは成長したね。

ついルルネの言葉にホロリと来ていると、守神さんが慌てて口を開く。

「ちょ、ちょっと待つでござる! 分かっているでござるか!? 話を聞いてしまえば、もう無関係とは言えないでござる! だから、今のうちにこの島を出れば……」

「大丈夫ですよ。それに、そこに縛られてる人たちを倒した時点で無関係とはとても言えないでしょうし」

「う……」

もうね、これ以上ないほど綺麗にぶっ飛ばしちゃったからね。

これで俺は無関係……とはとても言えないだろう。

「なので、気にしないでください」

「そうか……そこまで言ってくださるのなら――――」

「待て、守神殿!」

すると、ついに我慢の限界といった様子で、月影さんが口を開く。

「私はその者たちをすぐに信用することはできん! 特に外つ国の者は!」

「月影殿……確かに言わんとすることは分かるが、何故そこまで外つ国の者を?」

「何故も何も……! ……いや、あれが分かったのは守神殿の行方が分からなくなってからだったな」

「拙者が不在の時に……何かあったのでござるか?」

守神さんの言葉に、月影さんは忌々し気な様子で頷く。

「ああ……今この国で起きているすべての黒幕が判明したのだ」

「なっ!?」

「だが、それ以上に厄介なことになっている。その黒幕によって、もはやこの国の有力者は一掃されたのだ。今のこの国は、もはやその黒幕の天下と言っても過言ではない」

「ど、どう言うことでござる!」

月影さんの言葉に驚く守神さん。

確か、守神さんの話では、まだ国としてまとまっておらず、大名みたいな有力者たちが覇権争いをしているってことだったが……それがどうも違うらしい。

「今回の黒幕は、外つ国の者だ。どこの国かまでは判別つかぬが……とても強大な力を持っており、たった一夜にして、大和家を除く他の有力者たちをすべて傘下に加えたのだ」

「そんな!?」

「……何だかずいぶんきな臭ぇことになってんな」

話を聞いていたアルも、月影さんの言葉に眉をひそめる。

同じように月影さんの話を聞いていたオリガちゃんも、一つ頷いた。

「……ん。こういう状況で真っ先に頭に浮かぶ国と言えば、カイゼル帝国だけど……」

オリガちゃんの言う通り、今までのことを考えれば、真っ先に疑う外国と言えばカイゼル帝国になるだろう。ろくなことしないし。

ただ、オリガちゃんはどうも腑に落ちないようで、首を捻っていた。

「……カイゼル帝国にいたから少しはあの国の事情を知ってるけど、カイゼル帝国から見てこの国を侵略する優先度は低かったはず。少なくとも、ウィンブルグ王国やヴァルシャ帝国、魔王国といった同じ大陸にある国を征服しない限りは、外に手を伸ばすことはない。それだけ戦力が分散して、本国が手薄になるから」

「なるほど……」

すると、俺たちの話が月影さんたちにも聞こえたようで、微かに目を見開いている。

「……貴殿らもこの国を乗っ取ろうとしている国がどこなのか分からぬようだが、それと貴殿らを信用するのは話が別だ。どのような理由であれ、外つ国の者への疑念は変わらぬ。何より、もし貴殿らが本当に我々の力になるというのなら、生半可な実力では足手まといだ、先ほども言ったが、今のこの国を支配している外つ国の者たちは強大ゆえな」

月影さんの心配ももっともだな。

俺たちが力を貸すって言っても、何もできないんじゃ意味ないし。

それにしても……カイゼル帝国じゃないなら、どこの国なんだろうな?

ヴァルシャ帝国はこの前の襲撃から国を安定させるのにもう少し時間がかかるだろうし、魔王国もルーティアのお父さんである、先代魔王のゼファルさんが戻ったことでドタバタしてるだろう。

俺たちが暮らしてるウィンブルグ王国は――――うん、あそこは色々な意味で忙しいからな! そんな真面目なことをしてる暇はねぇだろう。兵隊さんたちも変態の相手で大忙しだし。

となると、ウィンブルグ王国のある大陸とも、この東の国とも違う、また新たな大陸からの侵略か?

実際、どれくらい他の大陸があるのかも分からないし、可能性としてはなくはないだろう。

「月影さんの心配は分かりました。では、どうすれば力を貸すだけの実力があると判断してもらえるでしょうか?」

「そうだな……幸い、今は守神殿が戻ってきている。貴殿らも我々の仲間だと仮定した上での提案となるが……」

少し考え込む様子を見せる月影さんは、しばらくすると何かを思いついた様子で口を開いた。

「では、こうしよう。現在我々はその外つ国の者の傘下に降った、諸侯の手の者たちから追われている。それらを警戒するためにも、まずは敵を見つける力を試したい」

なるほど、索敵能力を見るわけか。

確かに索敵能力が高ければ、不意打ちの心配もないし、何なら敵を先に見つけたうえで遠回りして逃げることもできるもんな。

「そこで、今から拙者が一度、そこの森に紛れる故、隠れた拙者を見つけ出してほしい」

「え?」

「拙者は忍者だ。だが、もちろん相手にも忍者はいる。そう言った手合いからの襲撃が一番怖い故な。ここで拙者を見つけられぬようであれば、不意の一撃でいつムウ様が命を落とすかは分からん。だからこそ、この試練だ。よいな?」

俺たちは顔を見合わせるが、全員問題はないようなので、頷く。

すると、月影さんも一つ頷き、守神さんに視線を向けた。

「ということだ。守神殿には、少しの間ムウ様の護衛を頼む」

「それはもちろん、頼まれるまでもなく護衛はするでござるが……」

守神さんは言葉にこそしなかったが、俺たちのことを不安そうな目で見ていた。

そりゃそうだろうなぁ……月影さんは見た目通り忍者なわけだし、俺なんかよりも隠れるのは上手いだろう。

俺たちの中で索敵という意味で優れているとすれば……オリガちゃんとサリアだろう。

オリガちゃんは言うまでもなく、暗殺者として活動していた。

サリアは森の中での生活で、狩りをしたりと気配を消したり、探ったりするのは上手いはずだ。……まあ、あれだけ強けりゃ気配を消す必要はなかったかもしれないが、少なくとも気配察知は最低限出来ると思う。

アルもそこら辺は冒険者として活動していく中で培っているだろうし、大丈夫だろう。

問題は、俺とゾーラ、そしてルルネだ。

俺は一応、冥界に行ったときに、悪霊を倒すための技術として、生命力を扱う術を身に付けた。

そのおかげで、生きている物であれば、それらを察知することはできる。

果たして、それがどこまで月影さんに通用するのかは、始まるまで分からないが……。

だが、ゾーラは今までダンジョンで生活していただけあり、このメンバーの中で一番戦闘や索敵などは不慣れだ。もちろん、ゾーラ特有の能力もあるので、戦うのは問題ないだろうけど、索敵は完全に素人だろう。

そして一番の頭の悩みどころは――――ルルネだ。

ルルネは索敵できるのか?

まったく分からん。

なんせ、元はただのロバなのだ。

だが、その実力は邪神を食べ、全身宇宙になったとのたまう、ロバ要素はどこに消えたのか分からない存在だ。

戦闘でも、強力な魔物を蹴り一発で消し飛ばす力を持っている。

そんなルルネに、果たして索敵能力があるのか……分からない。全然予想もつかない。

ついついルルネに視線を向けると、そんな俺の視線に気づいたルルネは不思議そうに首を傾げるだけだ。

……まあでも、ルルネに頼らず、俺たちが頑張ればいいだけの話か。

自分の中である程度考えをまとめていると、月影さんが一応捕まえた侍たちが逃げないようにと、さらに念入りに縛り上げ、守神さんの目の届く範囲に転がす。

「ふぅ……これで拙者が少し離れても安心だ」

「あの、大丈夫なんですか? 俺たちの試験をするのは分かったんですが、こんなところで試験をして……」

「その点は心配ない。ここにいる襲撃者以外、あの場にはいなかった。つまり、相手が我々が殺されたかどうかを確認するまで多少の猶予がある。……とはいえ、長々とやっている時間もない。ルールを説明するが、誠一殿たちが三十数えている間に拙者はこの近くの森に身を隠す。身を隠す範囲は……まあ適当ではあるが、そんな非常識な距離まで移動するつもりはない。ムウ様に万が一があっては困るから、なるべくこの近辺に隠れるつもりだ。その拙者を、誠一殿たちが見つけたら誠一殿たちの勝ちとなる。制限時間は……一刻ほどでいいだろう。その間に見つけてくれ。準備はいいか?」

俺はサリアたちを見渡すと、全員気を引き締めた様子で頷いた。

「よし。では……始めッ!」

月影さんはそう言うや否や、素早く森の方に移動し、一瞬にして姿を消してしまった。

そんな中、俺たちは十数える間に少し話し合う。

「それで……どうする? 見つけられるかな?」

「んー……大丈夫だと思うよ?」

「……ん。私もサリアお姉ちゃんと同意見。さすがに三十秒じゃ遠くに行けない」

「だが、ここから見た範囲でも結構森は深そうだぞ? オリガちゃんみたいに森でも目立たなそうな格好してるし、探すのは骨じゃねぇか?」

「そ、そうですね。もうすでに、気配も感じませんし……」

皆あれこれ意見を出すが、特にまとまることもなく、三十数え終わる。

「まあ何はともあれ、探しに行くか。これに認められねぇと、オレたちは守神さんの手助けもできないんだしよ」

アルが肩を回しながらいざ森に行こうとしていると、俺はふとあることを思いついた。

「もしかして、いけるのかな?」

「あ? 何が?」

アルだけでなく、サリアたちも不思議そうな表情で俺を見つめる中、俺は地面に向かって声をかけた。

「あの……陸さん。さっき移動した月影さんを捕まえられます?」

「……おい、誠一? お前何やって――――」

「――――きゃああああああああああ!?」

アルが俺に訊く前に、女性の悲鳴が聞こえた。

思わずその方向に視線を向けると、侍たちをなぎ倒した岩の触手が、月影さんを捕まえて空高く掲げていた。

そして、その岩の触手はスルスルと俺のもとに移動してくると、そっと月影さんを俺たちの前に降ろす。

「……」

『……』

沈黙が、痛かった。

◇◆◇

――――これはまだ、誠一たちが守神ヤイバと出会う前。

東の国の中央に位置する、最も栄えた都市――――『 栄京(えいきょう) 』。

その栄京には東の国一番の巨大な【太陽城】が存在する。

その城をもし誠一が見れば、五重塔と日本のお城が合体したような見た目だと感じるであろう様相だった。

そんな太陽城の大広間で、一人の男が優雅に座り、酒を飲んでいた。

大広間は畳であり、周囲には日本の戦国時代のような意匠を感じられるが、所々に何故か、ハイテクな基盤や謎に光る回路などが張り巡らされており、非常にちぐはぐとした印象を受ける。

まるで戦国時代に未来の技術を無理矢理組み込んだかのような、そんな不思議な部屋になっていた。

すると、その男のもとに、部下の一人がやって来る。

「ご……ご報告申し上げます……例の大和家当主の誘拐に……失敗、いたしました……」

「――――ほう?」

部下の報告を聞いた男は、どこまでも冷たい声音で一言、そう口にした。

そんな男の様子に、報告した部下は頭を下げたまま震える。

「そ、その……一人残った【天刃】の反撃にあい、その隙に大和家当主は……」

「貴様はわざわざ、己の無能さを我に伝えに来たのか?」

「め、滅相もございません……!」

部下はただただ額を地面にこすりつけ、男に頭を下げ続ける。

そんな部下を男は冷たく見下ろすと、酷薄な笑みを浮かべた。

「まあいい。我は寛大だ。貴様にはもう一度チャンスをくれてやろう」

「……」

「――――今すぐ、我のもとに【無有】を連れてくるのだ」

「は、はあっ!」

部下はもう一度頭を下げると、すぐさま男の前から立ち去った。

その姿を見送ることもせず、男はただ静かに外を見つめる。

「ふふふ……まさか、こんな辺境の 星(・) に、あのような存在がいるとはな……」

男がニヤリと笑った瞬間、その姿は歪み、背中から触手が現れ、顔は人間とはとても呼べない、別のナニカへと変貌した。

それこそ、地球ではグレイと呼ばれるタイプの宇宙人的な顔立ちに、少し魚類の面影も混ざった、とにかく人間でないことに間違いはなかった。

そんな変貌した姿の男は、ますます笑みを浮かべる。

≪ヤツを手に入れれば……この我が、宇宙の覇者に……ククク……ガハハハハハ!≫

もはや自身の計画が成功することを信じてやまない男は、その先に起こる出来事を何一つ予想できないのだった。