軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヘレンの帰郷

「ハアッ! ハアッ!」

誠一がヴァルシャ帝国へと飛ばされ、残ったサリアたちでデストラを国王ランゼルフに引き渡した後、ヘレンは飛び出すようにテルベールを発った。

現在、国をまたぐような馬車はどこも動いておらず、国内を移動する馬車しか利用できるモノがなかった。

その理由はやはりカイゼル帝国にあり、カイゼル帝国が全世界に侵略を行ったからだった。

もちろん、カイゼル帝国が戦争を仕掛ける前は、ヴァルシャ帝国まで向かう便が存在した。

しかし、現在は使えないことと、何より『超越者』となったヘレン自身の移動速度の方が、圧倒的に馬車より早いため、馬車を使う理由がなかった。

「ハァ……ハァ……クッ……!」

それでも、本来なら一日や二日程度でたどり着ける距離ではないのだが、デストラを引き渡す際、ランゼルフの計らいで転移魔法が使える者にヴァルシャ帝国付近まで連れてきてもらえたのだ。

さすがに【封魔の森】の中にあるヴァルシャ帝国に直接転移することはできなかったが、それでも大きな時間短縮になったのは間違いない。もしあのままテルベールから今と同じように走り続けていたとしても、軽く二週間はかかるだろう。

転移して連れてきてもらった場所からは、普通なら歩いて五日ほどのの距離を、ヘレンは休むことなく走り続けることで、一日でたどり着こうとしていた。

そして今、遂にヴァルシャ帝国のある【封魔の森】に辿り着いた。

「はぁ……はぁ……」

その森を前にして、一度立ち止まったヘレンは息を整える。

「……お姉ちゃん」

小さくそう呟くと、ヘレンは再び猛然と駆け出した。

だが、そんなヘレンの前に次々と魔物が襲い掛かる。

「ブモオオオオオ!」

「グルアアアアア!」

「シャアアアアア!」

猪型の魔物、狼型の魔物、蛇型の魔物。

昔なら多少苦戦した相手も混ざっているが、今のヘレンは足を止めることはなかった。

「私の邪魔をするなあああああああああっ!」

誠一たちとダンジョンで……というより、デストラの所持品から強奪した二振りの短刀、『風刃』と『雷刃』を振るい、一瞬にして切り刻む。

「ハア、ハア!」

少しでも早く、故郷に辿り着きたい。

強くなった今、今度は私がお姉ちゃんを助けるんだ――――!

その一心で駆け抜けるヘレンは、途中、【封魔の森】ではなく、普通の木々が生えていることに気付かなかった。

そして――――。

「着いた……!」

森を抜けると、昔見慣れた正門や城壁、そしてカーニャ城が見えた。

「待ってて……今すぐ私が……」

そこまで言いかけ、再び駆け出そうとした瞬間、正門付近にたくさんの人がいることに気付いた。

「まさか!?」

もうカイゼル帝国の兵が、正門まで押し寄せたって言うの!?

そんな絶望が一瞬頭を過り、すぐに走り出す。

……そして、何やらヘレンが想像していた光景とは別の光景が飛び込んできた。

「あ……あれ……?」

徐々に近づくにつれ、正門付近の人たちが見えてきたのだが、どこをどう見てもカイゼル帝国の兵らしき姿は見えない。

それどころか、何故か自身が敬愛する姉や、その側近たちの姿が見えるのだ。

「い、一体、どういうこと?」

よく見ると、皆少し疲れているように見えるものの、笑みを浮かべ、ケガらしいケガは一つもしていない。

ますます訳が分からずに混乱すると、遂にそんなヘレンを集まっていた人の一人が気付いた。

「あ、おい! あれ!」

「ん?」

「あ!」

「ヘレン!?」

すると、その集団の中にいた一人であるヘレンの姉――――アメリアが目を見開いた。

そして、目を見開くことになったのは、アメリアだけでなく、ヘレン自身もだった。

「せ、誠一先生!?」

「あ、ヘレン。ダンジョンぶり?」

誠一はヘレン程驚いた様子もなく、ヘレンを見ると普通に挨拶をしてきた。

「だ、ダンジョンぶりって……何でアンタがここにいるのよ!?」

ヘレンは正門付近に集まっていた集団に接触すると、その勢いで誠一に詰め寄った。

だが、それは別の存在によって阻止された。

「ヘレン! 何でアンタがここにいるの!?」

「お、お姉ちゃん!」

「お姉ちゃん!?」

勢いよくヘレンに抱き着いたアメリアとヘレンの言葉に、誠一は驚きの声を上げる。

だが、そんな誠一など目にも入っておらず、二人はただ抱きしめ合っていた。

「お姉ちゃん……ケガは? ケガはないの?」

「それは大丈夫だけど……アンタこそ、どうしてここに? 外に飛び出してから全く帰ってこなかったのに……」

「そ、それは……」

アメリアの質問に言葉を詰まらせるヘレン。

すると、そんな二人を見ていたリエルが提案した。

「お二人とも。再会が喜ばしいのは分かりますが、ひとまず中に入りましょう。もうカイゼル帝国も【魔神教団】の脅威もないとはいえ、魔物はいますからね」

「ええ、そうね」

「わ、分かったわ……って、誠一先生がいるのは訳が分からないんだけど!?」

「いやあ、俺も驚いた。ははは」

頭をかきながら笑う誠一に、ヘレンは何も言うことができない。

ただリエルの言う通り、外にいても仕方ないため、門番以外は一度中に入ると、それぞれが自身の家に帰って行った。

そしてアメリアやリエルたちはもちろん、誠一とヘレンはカーニャ城へと招待され、その道中に誠一はこのヴァルシャ帝国にやって来た経緯を説明した。

「つまり、あの水晶が割れて飛ばされた先が、このヴァルシャ帝国だったってこと?」

「まあそうなるな」

「そういうヘレンと誠一殿はどういう関係なの? なんか先生って言ってたけど……」

「あ、私は……その……通ってた学校の先生だったの」

「とはいえ、少しの間だけどね」

誠一はそう言って笑うと、リエルたちは感心した様子で頷いた。

「なるほど……誠一殿が先生なら、さぞ素晴らしい講義なのだろう」

「そうだね。どんな授業をしていたのか気になるくらいだ」

「……アンタ、一体何をしたのよ?」

「何で何かをした前提なワケ!?」

ジト目でヘレンに睨まれた誠一は、思わずそうツッコんだ。

そうこうしているうちに、気付けばカーニャ城まで辿り着くと、アメリアの私室へと招かれ、そこで詳しい話をすることになった。

ヘレンとアメリアが並んで座り、机を挟む形で誠一が座る。

そしてリエルとスインはアメリアたちの背後に控えた。

「それで? 説明してくれるのよね?」

「えっと……説明って言っても、何を説明すれば?」

「全部よ、全部!」

「あ、はい」

あまりの剣幕に誠一は素直に頷くと、ひとまず飛ばされてからのことを話し始めた。

「最初は飛ばされた場所がどこかもわからなくて、おまけに魔法も使えないしで面倒な場所だと思ってたら、なんか気持ち悪い芋虫の大軍に襲われて、逃げてる最中に崖から落ちたんだ」

「もうすでに普通じゃないんだけど?」

いきなり普通じゃ有り得ない出来事に遭遇している誠一にヘレンは頭を押さえた。

「落ちた場所から川の音が聞こえたから、その方に向かったんだけど……そこで出会ったのが、水浴び中のアメリアだったんだ」

「ねえ、忘れてって言ったわよねぇ!?」

「説明するんだから仕方なくね!?」

アメリアと誠一が色々言い合ってる横で、再びヘレンは頭を抱える。

「え、どうしてそう連続でトラブルに巻き込まれるの? おかしくない?」

「ヘレン様……ヘレン様も苦労されたのですね……」

「え、何でそんな目で見られるワケ?」

リエルやスインから妙に生温かい目で見られていることに意味の分からないヘレンは眉をひそめた。

そこからさらに誠一がしてきた行動を聞き、木との対話や正門でのひと悶着。そして大量の最上級回復薬に欠損部位再生レベルの回復魔法を国全体まで行き届かせた話。

そこまで聞き終えて、ヘレンは一つ頷く。

「うん。やっぱり誠一先生おかしい」

「何で!? 人助けしただけだよ!?」

「大助かりだったけど、私たちの常識の範疇を超えた助けだったもんねぇ……」

思わず遠い目をするスインに、ますますジト目になるヘレン。

「……アンタ、まだおかしなことしたの?」

「まだって……元々そんなにおかしいことしてないぞ?」

「え、本気で言ってる?」

「真顔は辛いッ!」

無表情で訊いてくるヘレンに、誠一は思わず顔をそむけた。

そしてついに、カイゼル帝国の兵士と【魔神教団】の『使徒』がいない理由を説明した。

「そのぉ……カイゼル帝国の兵士と【魔神教団】の『使徒』がいるから戦争があるわけで……それを俺なりに解決できないかなぁって考えて、それじゃあついでに【封魔の森】も邪魔だし、カイゼル帝国の兵士たちや『使徒』ごとその場所だけ切り取って、海に捨てちゃえって……」

「ちょっと何言ってんのか分かんない」

ヘレンはまったく理解できなかった。

というより、恐らく誰もが誠一の考えを理解できないだろう。というより、何故そんな考えが浮かんだのか。それは誠一以外は分からない。

あまりにも誠一がぶっ飛んだことを口にしたので混乱したヘレンだったが、すぐにあることに気付いた。

「え? じゃあ……もしかしてだけど、今敵はいないワケ?」

「まあ……そう言うことになるわね?」

「……」

ヘレンの問いにアメリアがそう答えると、ヘレンはそのまま黙ってしまった。

「へ、ヘレン?」

「……私が強くなった意味よ……」

思わずアメリアが声をかけると、ヘレンはそう言いながら机に突っ伏した。

「私がどれだけ心配して、どんな思いで強くなったと思ってんのよ……」

「ご、ごめんなさい……」

「ヘレン……アンタも私と同じ思いをしたのね……」

「え? 同じ思いって……お姉ちゃんも?」

「そうよ。分かる? 兵たちが皆ボロボロで、今にも死にそうだったのに、それを一瞬で治して……それでも負けることには変わりないと思ったから、私の命と引き換えにしてでも皆を守ろうとしたの。でもリエルたちも一緒に最後まで戦ってくれるって言ってくれて……」

「そうなんだ……」

「……まあ、その決意もむなしく、なんか気付けばその敵は皆して海に捨ててきたって言うじゃない? どんな顔すればいいのよ……」

「誠一先生……」

「いや、マジでごめんなさい」

誠一は本当に居た堪れなくなりながらも頭を下げた。

するとヘレンもアメリアも溜息を吐いた。

「はぁ……まあ誠一殿に怒るのはお門違いだし、何なら感謝しかないくらいなんだけどね」

「そうよね……話を聞く限り、例え私がたどり着けたとしても、守り抜けなかったと思うし……誠一先生、本当にありがとう」

「お、おう? ど、どういたしまして?」

突然ヘレンに感謝され、誠一は申し訳なさを感じつつ、改めて被害を出さずに済んでよかったと思うのだった。

そして――――。

「ヘレン。そういえば言ってなかったわね」

「え?」

驚くヘレンを無視し、アメリアは優しく抱きしめる。

「おかえりなさい、ヘレン」

「……ただいま、お姉ちゃん」

ヘレンもまた、アメリアを優しく抱き返すのだった。