軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

248、家の中へ

「幻星道の研究書! 全部読みます!!」

大きく手を上げたマルティナにロランが呆れた表情だ。

「マルティナ、自分が読みたいだけなのがダダ漏れだぞ」

「ふふっ、マルティナらしいね」

「あ、違うよ。もちろんハルカの帰還の魔法陣のために……」

ハルカのためというのも本心である。ただ新たな本を読めるという事実への興奮が先に出てしまっただけだ。

「分かってるよ。ありがとう」

優しい笑顔のハルカに、自分のダメさを実感して落ち込んだ。

(ハルカはなんて大人なんだろう。私も見習わなきゃ)

グッと拳を握りしめて決意を固めたマルティナである。

「幻星道の研究書か。確かに調べてみるのはありかもしれんな。街の図書館よりも城に行くべきか。確か研究者がいたはずで……」

「街の図書館! お城に研究者……つまりその方々の蔵書が!?」

先ほどの決意が吹き飛ぶまで一瞬だった。キラキラな眼差しを向けられたディアスは、苦笑しつつマルティナの頭に手を置く。

「少し落ち着け。街の図書館ならばいつでも入れるし、城も我がいれば入れるはずだ」

「……ディアス様はこの国? で何か立場をお持ちなのですか?」

ソフィアンの当然の問いかけに、ディアスはサラッと答えた。

「ああ、これも言ってなかったか。この街の長は我の叔父なのだ」

「街の長というのは、私たちの世界で言うと、どのようなお立場なのでしょうか」

「そうだな……この世界では一つの街が一つの国のような形だ。つまり国王のようなものか?」

またしても判明した衝撃の事実に、さすがのマルティナも本から意識がディアスに向く。

「つまりディアス様は、王のご兄弟の子供ということですか……?」

「我の母親が長の妹だ」

マルティナたちの世界で言えば、王妹殿下の子供ということになる。かなりの身分だ。

「なんか俺、すでに疲れてきたな」

「わたしもです……」

ロランとハルカが遠くを見つめ始めた。マルティナもそこに加わりたい気持ちだ。

「ディアス様のお母様とお話しする上で、気をつけるべきことはありますか?」

「いや、特にないな。そもそも我らはあまり身分というものを気にしない。一応、長というまとめ役がいた方が便利だからそうなってるだけだ。貴族のような家臣たちもいるが、まあそんなに気にする必要はないだろう」

軽く笑っているが、本当に気にする必要がないのかは定かではない。ディアスの家が身分を気にしていないだけという可能性もあるのだ。

マルティナはちゃんとこの街の仕組みを理解しようと思った。少なくともこれからしばらくは滞在することになるし、その後もディアスとの交流が続けば何かと関わるはずなのだ。

「かしこまりました」

そう言って緩く微笑みを浮かべたソフィアンも、マルティナと同じように考えている雰囲気だった。

「長のところには明日にでも案内しよう。今日は我の家で休むといい。母も張り切って準備してるだろうからな」

その言葉に少し空気が緩んだ。

「はい。ありがとうございます」

「では我らも行くぞ」

先ほどディアスの母親が入って行った扉へと向かったディアスに四人も続く。自然豊かな屋上庭園を改めて見回してから中に入ると、中も建造物の中という雰囲気があまりなかった。

むしろ、さらに自然の中に足を踏み入れたような……。

「壁は木だが……これは自然の木か?」

ロランの呟きにディアスが答える。

「ああ、我らの家は巨木を元にしている。巨木の中に住んでいる形だな。先ほどの場所は枝の上だ」

つまり、木の枝の上から木の幹の中に入った形ということだ。初めてみる建物の形にマルティナはキョロキョロと辺りを見回した。

確かに言われてみると、木をくり抜いて作られたのが分かる場所がいくつもあった。壁に飾られている花は掛けられた花瓶に花が生けてあるのかと思っていたら、木の幹から直接花が咲いているようだ。

なぜそんなことが可能なのかは分からないが、全ての原理が分からないので、もうそういうものだと理解するしかない。

(この街の図書館に数ヶ月ぐらい住みたい)

切実な気持ちが浮かんできた。ただの新たな本というだけではなく、今まで絶対に触れたことのない事実がたくさん詰まった本が大量にあるのだ。

(想像するだけで、あまりにも、あまりにも幸せすぎる!)

興奮しながら歩いた階段は、木をくり抜いているからこその模様が出ていてオシャレだ。階段を下りた先にあったテーブルのような台も、床や壁と一体化していた。

そしてそのテーブルには――オシャレな布が敷かれ、さらに一冊の本が飾られている。

「なっ、ほ、本が!」

この世界に来て初めて見る本に声を発することを我慢できなかった。マルティナの叫びにディアスが本に目を向ける。

「確かこれは母が気に入って飾ってる本だ。子供向けの物語だぞ?」

「それでもっ、読みたいですっ!」

ロランに肩を掴まれているマルティナの必死すぎる様子に、ディアスは苦笑しつつ頷いた。

「後で頼んでやる。しかし今は先にリビングに行くぞ」

「ありがとうございます……!」

今すぐ読めないことは辛いが、後で読めるというだけで何キロでも走り続けられそうなほどの高揚感だ。ふわふわしているマルティナに、ハルカも手を握る。

「マルティナ、落ち着かないと疲れて倒れるよ?」

「大丈夫! 新しい本があればすぐに目覚めると思う!」

「……確かに」

説得力があったらしい。

「おい、それじゃ体に悪いだろ」

ロランは軽くマルティナの頭に手刀を落とした。

「大丈夫です! 本さえあれば元気です!」

「マルティナは、本当にそうかもって思わせるところが凄いよな……」

そんな話をしているうちに、ディアスが階段を下りた先にある扉を開いていた。

「おい、こっちだ」

「はい。すぐに行きます」

ロランが答えてマルティナは背中を押されて手を引かれる形で先に進む。扉の先には談話室のような空間があり、またその先に階段があった。

「階段を連続させていないのですね」

「ああ、巨木への負担を考えてるらしい」

強度の問題などがあるのかもしれない。

「そういえば、竜の皆さんは基本的に人型で生活するのですか?」

ハルカの問いにディアスは頷いた。

「そうだな。街中では基本的に人型だ。たまに竜の姿になって外を飛ぶこともある。あとは別の街に行く時は竜になって飛んでいくのが当たり前だ。街同士はマルティナたちの世界基準だとかなり遠いからな」

「たとえばどのぐらいですか?」

「そうだな……我が飛んで数日かかる街も普通にある。近いところで半日ぐらいか?」

それはマルティナたちの世界だと簡単に国を跨げるほどの距離感だった。竜たちの世界は一つの国のような街が各地に点在しているらしい。

ただ遠いとは言え、空を高速で飛べる竜からしたらそこまでの距離には感じないのだろう。

「街はどの程度あって、どのぐらいの規模で、交易などはあるのですか?」

ソフィアンの問いかけはさすが為政者目線だ。

「街は数十はあったはずだ。規模はここと同じようなものだろう。基本的に交易などはあまりない。好き勝手に行き来するだけだ。あ、ただ争いは厳禁と定められている。過去に街同士の争いで世界が滅びかけたらしい」

ディアスの攻撃力を思い返せば、竜の街同士が争えばそうなることも容易に想像できた。マルティナはこれからも平和を維持してほしいと心から祈る。

「そこがリビングだ」

話をしながら階段をさらに二階分下りたところで、ついにリビングに到着したらしい。扉を開いた先には――とても広くて温かみのあるリビングがあった。