軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

247、ディアスの家族と竜の世界について

振り返るとそこにいたのは、ディアスとよく似た女性だった。ディアスよりは小さいが、マルティナたちと比べると体が大きくがっしりとしている。手に持っているものからして、庭園の整備をしていたようだ。

『マルティナたちの準備を待っていたのだ』

そう言ってから、ディアスは簡単に女性を紹介した。

「皆、我の母だ」

転移先の指定にディアスの母親を選んだのは知っていたので当然なのだが、こうして対面すると驚いてしまう。

本当に別の世界はあるのだと、マルティナはやっと心から理解できた気がした。

『あ、もしかしてあなたがマルティナちゃん!? ディアスが別の世界で作った子供の子孫だって話は聞いたよ! 会えて嬉しいね〜』

『は、はい』

ディアスの母親は満面の笑みでマルティナに近づくと、頭をガシガシと撫でて上機嫌に笑う。

『随分と小さい種族なんだね』

『いや、マルティナはその中でも小さいんだ』

『確かに他の子たちはそこまで小さくないか。いや、でもそっちの女の子……って、この子はまた違う種族だね? 気配が違う』

『そうなんだ。また別の世界から来てる』

『いいねいいね。一気に賑やかじゃないか。私はさっそく皆に知らせてくるよ』

元気よく自分のペースで話を進めるタイプの母親に押され、マルティナたちはほとんど何も言えずに話が進んでしまった。

ディアスの母親が庭園にある扉の先に消えたところで、マルティナはやっと口を開く。

「えっと……まず、皆さん意味は分かりましたか?」

竜の世界の言葉はマルティナ以外も少しは勉強していたが、ネイティブの会話をそのまま理解できるほどかは分からない。そう思っての問いかけだったが、ハルカとロランは首を横に振った。

「俺は全く無理だな」

「わたしも無理かも」

ソフィアンも少し眉を下げる。

「私はなんとなく分かるけれど、会話を普通に成り立たせるのはまだ難しそうだ」

「では、基本的には私が通訳しますね。ディアス様もできればぜひ」

「分かった。というかあれだな。我の家族にマルティナたちの言葉を覚えさせた方が早そうだ」

ディアスの言語習得速度を思い返したら、それは良案に思えた。

「無理にとは言いませんので、できたらよろしくお願いします」

「分かった」

そこで話が途切れ、マルティナは先ほどの会話で強く感じていた違和感について問いかけることにする。

ディアスを真剣な表情で見上げると、空気が少し引き締まった。

「何か気になるのか?」

「はい。――ディアス様のお母様は、なぜ私たちにあそこまで好意的なのでしょうか」

いくらディアスの血を引いているとはいえ、別の世界の別の種族だ。同族が全くいないと思っていた世界でマルティナと出会った時のディアスの喜びはまだ分かるが、竜の世界で竜の血を少し引いただけのマルティナをあそこまで歓迎してくれる理由が分からなかった。

それに、別の世界という話を簡単に受け入れすぎではないだろうか。ディアスの母親はハルカがまた別の世界の生まれだと知って、それに驚くこともなかったのだ。

まるで、別の世界があることが当たり前で日常のような、そんな印象を――。

「どういう意味だ? 我の子孫ならば家族だろう? 家族を歓迎するのは当たり前だ」

訝しげなディアスの問いがマルティナの思考を打ち切った。

「しかし、見知らぬ世界の見知らぬ種族です」

「確かに竜でない者が家族になることを気にするやつらもいるだろうが、我の家族はそんなことをしないぞ?」

その言い方では、竜でない者が家族になることがよくあることだと言っているようなものではないか。マルティナは混乱して、少し考えてから問いかけた。

「この世界は、私たちの世界以外の別世界とも繋がりがあるのですか?」

その質問は核心に迫れたようだ。ディアスは面食らった様子で少し沈黙してから、申し訳なさそうに頬を掻いた。

「もしかして、話してなかったか?」

「はい」

「話したつもりでいたんだが――我らのこの世界は、いくつかの別世界と繋がってるんだ」

最初から衝撃的な話である。しかしこうして自らが別の世界に足を踏み入れているため、マルティナはそこまで動揺することなく受け入れた。

「幻星道と呼ばれるものがある。この道を通れば隣接する別の世界に移動できるんだ。直接繋がってる世界はいくつかだが、またその世界が別の場所と繋がってることもあり、かなり多くの世界を旅できるぞ」

幻星道。聞いたことのない名前にそわそわしてしまう。絶対にその道に関する研究書などがあるはずだ。

(どこで読めるのかな……!)

今すぐに書物について問いかけたい気持ちをマルティナは必死に抑え、極限の空腹状態で目の前の料理を我慢しなければいけないほどの辛さをなんとかねじ伏せて、今聞くべきことを口にした。

「その、ほ……その、私たちの世界とは、繋がってないんですか?」

「ああ、マルティナたちの世界はかなり遠いのだろうな。幻星道で繋がってるのはこの世界の近隣だけだ。だから最初に向こうへ召喚された時は本当に驚いた。まさか幻星道で繋がらぬ遠い世界があるとはな」

そこで言葉を切ったディアスは少し悩む仕草を見せる。

「つまり真に別世界と呼ぶべきなのは、マルティナたちの世界のような遠い場所なのかもしれない」

確かになんらかの道で繋がっている場所を別世界と呼ぶことの是非については気になるところだ。それに関する研究書も頭に浮かびそうになり、必死に掻き消した。

「幻星道はどのような道で、どうやって通るのですか? 頻繁に人の行き来があるのでしょうか」

「行き来は盛んだ。観光で別世界に行くことも、移住することもある。ただ世界によっては、幻星道を通行禁止にしているところもあったはずだ。今どうなってるのかは知らないが」

話を聞いている限りだと、別世界というよりも違う国の話を聞いているようだ。

「道については、物理的な道が伸びているわけではない。まさに例えるならば転移だな。行き先が固定化されており、魔法陣ではなく自然の中にその入り口があるのだが、入れば一瞬で別の場所――つまり行き先の別世界に移動する」

その話を聞くと、確かに別の世界であるというのも頷ける話だった。とても興味深い内容に、マルティナだけでなくソフィアンも瞳を輝かせており、ロランとハルカも興味深げだ。

「そのように別の世界との繋がりが日常ならば、ディアス様のお母上の反応にも頷けるね……ディアス様、その幻星道については機密情報だったりするのでしょうか」

「いや、そうではないはずだ」

「それならば、幻星道に関する情報を確認することで、ハルカの帰還の魔法陣研究に何か進展があるかもしれませんね」

ソフィアンの言葉に一番に反応したのはマルティナである。

「確かに……!」

先ほど必死に抑え込んだ幻星道の研究書を読みたいという欲求を、抑える必要がなくなるかもしれないのだ。抑え込んだ分、反動が強い。

「幻星道の研究書! 全部読みます!!」