軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

246、竜の世界へ

「良かったです! 問題はありませんでしたか?」

無事に故郷に戻れたというディアスに安堵しながら、マルティナは問いかけた。

「ああ、家族も元気だった。街もほとんど変わってなかったな。我が突然帰ったことには驚かれたが、経緯は軽く説明してきた。何も問題はない。マルティナたちも向こうに行けるぞ」

数千年という時が経っているのに街が変わっておらず、家族も元気だったという報告にはやはり驚きを感じる。しかし竜の時間感覚でも様々なことが変わってしまう前にディアスが故郷に戻れて良かったと、心から思った。

「本当に良かったです。その、私たちへの怒りなどは大丈夫でしょうか」

「ああ、その辺は適当に誤魔化しておいた。我はこちらの世界が気に入ってしばらく滞在したことにしてあるぞ」

ニヤッと笑ったディアスに本当に感謝だ。

「ありがとうございます。では話を合わせますね」

「そうしてくれ。我の子孫がいると言ったら、皆が会いたがっていたぞ。早く連れてこいと急かされたのだ」

まさか急かすほど会いたがってくれるとは予想外である。竜とは思っていた以上に親しみやすい種族なのかもしれない。それにディアスを見ていたら分かるように、同族を大切にするのだろう。

「もう向こうに行けるか?」

「え、今からすぐですか?」

「そうだ。準備は?」

「えっとですね。まだ全然進んでなくて……」

マルティナは慌てて立ち上がる。思っていたよりもディアスが戻ってくるのが早かったのだ。まだ色々な騒動があり、その後の大陸会議が終わったところである。ディアスが竜の世界に戻ってから、ほとんどこの大ホールから出てもいない。

「ちょっとだけ、数時間待ってくれませんか?」

「そんなに待つのか……?」

不満げなディアスだったが、竜の世界に行けばしばらく向こうに滞在する可能性もあるのだ。荷物の整理や各所への報告など、それぐらいの時間があっても全く足りない。

「できるだけ急ぐのでっ」

必死なマルティナにディアスが頷いたところで、大陸会議の終わりの挨拶は有耶無耶なまま、その場は解散となった。マルティナはハルカとロラン、ソフィアンと共に急いで大ホールを出る。

「ナディア、シルヴァンさん、サシャさん、後のことは頼みます!」

「分かったわ。任せておきなさい」

「仕事については心配する必要はない」

「マルティナさんがこっちにいない時に、もっと強くなれるように鍛錬しとくっす!」

三人の言葉にマルティナが笑顔を浮かべると、ギュッと唇を引き結んだナディアがマルティナの下に駆け寄り、手首を掴むと自らの下に引き寄せた。

「マルティナ、絶対に無事に戻るのよ」

切実な響きの言葉に、マルティナはナディアを見上げながら真剣に頷く。

「うん、絶対に。約束する」

「……信じて待ってるわ。ハルカも、無理はしないこと。そして必ずマルティナと一緒に無事に戻ってくるのよ」

「もちろんだよ」

心配そうなナディアに安心してもらおうと努めて笑顔を浮かべ、マルティナたちは準備のためにその場を去った。

それから慌ただしく準備を終えて、四人は数時間後にまた大ホールに集まっていた。四人の他にはディアスもいるが、その他には離れた場所に見張りの騎士がいるだけだ。

最初の転移こそ、様々な目的から皆が見ている中で行われたが、これからは安全面や転移に巻き込まれる可能性なども考慮して、転移発動時には周りに人を置かないことになったのだ。

「ではさっそく行くぞ」

「はい。よろしくお願いします……!」

マルティナの心臓はこれ以上ないほどに激しく動いていた。これから別世界に行くのかと思うと、あまりの緊張に気持ち悪くなりそうなほどだ。

ロランも緊張の面持ちで、ソフィアンでさえ完全には緊張を隠せていなかった。ハルカは顔色を悪くして、マルティナの手を強く握りしめている。

「大丈夫、だよね」

「うん、大丈夫なはずだよ。ディアス様は成功してるし、魔法陣に問題はないから」

二人がそんな会話をしている中で、ディアスが魔法陣に魔力を注いだ。

またしても魔法陣が強い光を帯び始め、マルティナたちはその光の中に囚われていく。とうてい目を開けていることはできず、ギュッと強く目を瞑っていると――。

突然、周囲が賑やかになった。

明らかに匂いも変わり、転移が成功したことを確信してマルティナが目を開けると――目の前に広がっていたのは、あまりにも巨大な発展都市だった。

「なに、これ」

見たこともないほどに高い建物がひしめいていて、宙を飛ぶ馬車のようなものや、明らかに物理法則を無視した針金のような細い土台に巨大な家が乗っている建物など、見たことがないものがたくさんあった。

そんな景色が一望できる転移先の場所も、建物の高層階だ。周囲を確認すると、屋上庭園のような場所だった。

「凄いね……!」

「これは、言葉が出ないな」

「ここまで文化に差があるとは……世界が違うというのを、一目で理解させられる光景だね」

驚いているマルティナたちに、ディアスが嬉しそうに言った。

「我の故郷はいい場所だろう?」

そんなディアスの言葉に続けて、女性の声がマルティナたちの耳に届く。

『あ、やっと戻ってきたのかい。遅かったね。待ちくたびれたよ』

マルティナがディアスに習った竜の世界の言葉だ。慌てて振り返ると、そこにいたのはディアスによく似た女性であった。