軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

244、マルティナの思い

マルティナが必死に痛みに耐えていると、少ししてハルカの治癒によって、痛みが和らいでいくのが分かった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

荒くなった息をなんとか整えようとしながら、うっすらと目を開けると、険しい表情のロランとハルカが見える。

「ありがとう、ございます」

「無理に喋らなくていい。まだ痛いか?」

「治癒は間に合ってるからね。心配しないで」

「もう、痛みは和らいできてて……」

二人と話している視界の端に、動揺して顔色を真っ青にしたサマヤが映る。剣を抜いたサシャは一国の王女であるサマヤに容赦をする様子はなさそうだ。さらにサマヤの護衛騎士も覚悟を決めた表情を浮かべている。

「サシャ、さん。私は大丈夫、です。剣を下ろしてください……」

この場で争うのは絶対に悪手だと、必死に伝えた。するとサシャは少し躊躇ってから剣を鞘に納めた。サマヤはそれと同時に、その場にへたり込んでしまう。

「サマヤ様!」

「わ、私、人に当てるつもりなんてなくて……」

サマヤはかなり動揺している様子だ。マルティナはやっと痛みがかなり引いてきたこともあり、なんとか自力で起き上がった。

「おい、大丈夫なのか?」

ロランの問いにしっかりと頷く。

「はい。かなり良くなりました」

安堵したように肩の力を抜いたロランから、まだ必死に治癒をしてくれているハルカに視線を移した。

「ハルカ、本当にありがとう」

「ううん、マルティナは悪くないから。でも、もうあんな無謀なことは絶対にやめて……!」

顔を上げたハルカの目には、涙が溜まっていた。

「ごめん……」

素直に謝罪の言葉が出る。ハルカの涙など久しぶりに見た。胸が痛くなり、先ほどの行動を後悔はしていないが、次は自分が傷つかない方法を考えようと誓った。

「なんで、なんであんなことしたの! さっきあんたが言ったんじゃない。魔法陣が燃えたって竜はこっちに戻れるんでしょ!」

サマヤが動揺を必死に吹き飛ばそうとするように、マルティナに向かって叫んだ。

マルティナは治癒の終わった手を見て、グーパーと動かし、問題ないことを確認してから立ち上がる。そして伝わりますようにと祈りながらサマヤに告げた。

「もう争いは終わりにしたいんです。魔法陣が燃えていたら、ディアス様は自分への攻撃と同義だと思われるかもしれません。せっかく和解できたのに……一度でも相手に手を出したら、また過去に逆戻りです」

理想論だと分かっているが、マルティナはできる限り皆が仲良く、互いに尊重して共生できたらと思っている。争いのない世界を望んでいた。

「それに……」

マルティナは悲しさと、押し込めてきた怒りを少しだけ表に出す。

「ハルカがいる場で、そんなことを言わないでください。ディアス様を排除することを主張されていますが、ハルカのことも同じように考えているのですか? 強い力を持っていて、怖いから排除しようと? 私たちが勝手に喚んで、ハルカはこの世界を恨んでもいいのに、救うために必死に動いてくれたんです。ハルカのおかげで救われました。それなのに、排除を主張するんですか?」

マルティナは言葉を紡ぎながら、感情が溢れて泣いてしまった。悲しさや悔しさや怒り、様々な感情が入り混じって自分でもよく分からない。ひたすら溢れる涙を雑に拭っていると、ハルカがマルティナの手を握る。

「マルティナ、ありがとう。泣かないで」

マルティナの顔を覗き込んだハルカは、優しい笑顔だった。

「ハルカ……っ」

その笑顔にマルティナはさらに泣いてしまう。そんなマルティナの肩を抱くようにして、ハルカはまっすぐサマヤを見つめた。

「わたしは――」

少しだけ言葉を途切れさせてから、ゆっくりと告げる。

「この世界が、好きですよ。別の世界から来ましたが、皆さんと違う存在だとは思っていません。ディアス様も、少なからずわたしと同じ気持ちだと思います。過去に色々あったことは分かりますし、恐怖を感じる皆さんの気持ちも分かりますが――排除ではなく繋がりを深める方向に向かえたら、素敵だなとわたしは思います」

それだけ言ったハルカは、またマルティナに視線を戻した。必死に涙を止めようと努力しているマルティナは過呼吸気味で、ロランが背中を撫でてくれていた。

「落ち着け、焦らなくていいから息を吐け」

そんなマルティナの下にナディアが駆けてきて、ハンカチを渡してくれる。

「ちゃんとハンカチで拭かなければいけないわ。あんまり擦ったら痛くなってしまうじゃない」

いつものように心配してくれるナディアに、マルティナは少し落ち着くことができた。

そうこうしているうちに、へたり込んでいたサマヤは護衛の手を借りて立ち上がる。完全に納得している様子ではなかったが、もう暴れるつもりもないようだ。

「……大変失礼いたしました」

代表者たちに向けて頭を下げて謝罪をすると、素直に下がっていく。その様子を見て、ラクサリア国王が告げた。

「一旦休憩としよう。少し休んだら普段通りの大陸会議を開催することにする。そこで先ほどのサマヤ王女の主張についても議論を行う」

国王がまとめてくれたことで、その場はなんとか収拾した。