軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243、ある王女の主張

「おお!」

「成功したのか?」

「どうなんだ?」

ディアスの姿が消えたことでまたどよめきが起き、マルティナは宣言した。

「帰還の魔法陣、無事に発動しました! ディアス様は故郷に戻られたはずです」

「なんと!」

「あの一瞬で別世界に……信じられないな」

誰もが驚きを露わにする中で、一人の王女がツカツカと靴音を響かせて前に出てきた。カラン王国という小国の第一王女だ。現在十五歳という若さだが、他に適任者がいないという事情から代表者として大陸会議に出席していた。

吊り目の瞳に強い意志を乗せて、ディアスのいなくなった魔法陣を睨む。

「サマヤ王女……?」

彼女の名前はサマヤと言う。マルティナが名を呼ぶも、返答はなかった。何かを決意するようにジッと魔法陣を睨み続けるだけだ。

そんな王女に他の代表者たちも怪訝な顔をする中で、サマヤは右手を前に突き出した。手のひらから生み出されたのは、火球である。

「なっ、なんで!」

マルティナはあまりの驚きに叫ぶことしかできなかった。誰もがサマヤの突然の行動に驚き警戒する中、彼女は静かに告げる。

「この魔法陣を燃やせば竜は戻ってこられないんじゃないの? それなら私は魔法陣を燃やすわ」

発言内容にはそこまでの驚きはなかった。こう考える者もいるだろうと思っていたからだ。そしてその予想は当たっていたようで、サマヤの発言に同調する代表者も現れる。

「確かに選択肢として考慮できる。故郷に無事戻れたことだし、繋がりを断つのは良い方法なのでは?」

「否定はできないな……」

このままでは悪い流れになってしまうと、マルティナは必死に口を開いた。

「ダメです! そんな一方的な……」

「なによ。あんたはあの竜の肩を持つの? そういえば、竜の血を引いてるかもしれないんだったわね。あんたは危険じゃないの?」

大勢の疑惑の眼差しがマルティナに突き刺さる。それに体が竦みそうになったが、必死に拳を握りしめて耐えた。

「私は皆様を危険に晒すようなことはしませんし、ディアス様もしないと約束してくださいました」

「そんなの分からないわよ。過去を考えなさいよ」

「それは、悪いのはこちら側です。ディアス様はこの世界を滅ぼしかけましたが、最初に手を出したのは過去の人間です」

正論にサマヤは少し言葉を詰まらせたが、すぐに感情的になりながら叫んだ。

「そんな昔のことなんか知らないわよ! 今の危険を排除するのがそんなに悪い!?」

「この魔法陣を燃やしたとしても、危険を排除することにはなりません。ディアス様は魔法陣について熟知していますし、この座標がなくても私や他の誰か、またはこの世界を感知して転移可能です」

これは真実だった。すでにディアスは一人で魔法陣を描けるのだ。ただ万が一を考えて事前にこちらへ戻る魔法陣も作っておいただけだ。いわば、向こうで費やす労力を少し減らすためのものだった。

マルティナの言葉に、サマヤは顔色を悪くする。

「じゃあ、竜たちはいつでもこっちに来られるってことじゃない! 竜の大群が転移してきてこの世界を滅ぼしたらどうするつもりなの!?」

その懸念も分かるが、考えても仕方がないことだ。ディアスを召喚した数千年前から、もう竜との繋がりを切ることはできなくなったのだから。

「ディアス様は、本来は優しい方です。私たちの過去の所業については許すと約束してくださいました」

「そんなの分かんないじゃない!」

サマヤは恐怖からか、かなりヒートアップしている。若さもあり視野が狭くなっているのかもしれない。

「帰還の魔法陣なんて作らないで、あの竜を暗殺すべきだったんだわ!」

「そんな酷いこと……」

すでにディアスに対して親愛を抱いているマルティナにとって、ディアスが悪として語られることが辛く苦しかった。しかし、恐怖を覚えることも理解できるので上手く言葉が出てこない。

そんな中で、ソフィアンが助け舟を出してくれる。

「サマヤ王女は、どのようにディアス様へと刃を届かせるつもりなのかな?」

「そ、れは……」

「それが難しい――いや、不可能なことが分からないほどの子供だとは思っていなかったけれど」

暗に若さゆえの暴走を指摘されたサマヤは、それでも引かなかった。ここまで騒いだ以上、もう引けないと思ったのかもしれない。

「私が、私が正しいはずよ! この世界を滅ぼそうとしてた竜とこれからも付き合っていけるとは思えない! なんとか排除する方向で考えるべきだわ!」

そう叫んだサマヤは、おそらく無意識に右手を振った。それによって発動保持状態になっていた火球が、サマヤの手から放たれる。

「っ」

目を見張ったサマヤにとっても、意図していない攻撃だったのだろう。火球は運悪く魔法陣に向かって飛んでいき――。

(守らなきゃ!)

マルティナは咄嗟に火球へと飛び込んでいた。一番近くにいたためなんとか間に合い、素手で火球を止めることに成功する。

「いっっ」

しかし、止めた右手は信じられないほどに熱く痛かった。あまりの衝撃に体から力が抜けて、そのまま倒れ込む。

「マルティナ!!」

各国の代表者たちがいる場であるため端に控えていた護衛のロランとサシャが飛んできた。ロランがマルティナを抱き起こし、サシャがサマヤに剣を向ける。

さらに同時に叫んだハルカも、マルティナの下に飛び込んできた。

「すぐ治癒するからね。気を確かに持って!」

「おい、マルティナ、深呼吸だ。あと自分の右手は絶対に見るな」

ロランの声に辛うじて頷き、マルティナは必死に痛みに耐えた。