軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

238、美味しい食事と応接室へ

「美味そうっす……!」

サシャが満面の笑みで言った。最初の料理は魚介のスープのようだ。それにパンも並べられ、付けて食べてもいいらしい。

熱いうちにとさっそく口に運ぶと、魚介の濃厚な味わいが口の中に広がり、それからトマトを中心とした野菜の旨みも広がった。香辛料も使われているようで、味が複雑だがまとまっている。

「美味しいです」

目を輝かせたマルティナに、目の前の席に座っているハルカが言った。

「凄く美味しいね。日本で食べたブイヤベースに似てるかも」

「同じような料理があるんだね」

「うん。日本の料理ではないんだけどね。これ絶対にパスタを入れても美味しいよ。あとはお米を入れてリゾットとか」

嬉しそうに頬を緩めるハルカは、日本の食事を思い出しているようだ。

「……想像するだけで美味しそう」

「でしょ?」

マルティナの言葉に、ハルカは嬉しそうな笑顔である。

そうしてスープの後は、前菜、メインと食事が続いた。メインで出てきたナダ鶏の香草焼きは、最高に美味しくて驚くほどだ。

「これは肉の質がいいっすね!」

「確かに美味い」

サシャとディアスにも好評である。ソフィアンやフローランも少し驚く様子を見せていた。

予想以上に柔らかくて、少しのフルーティーさが旨みになっているのだ。噛めば噛むほど肉本来の味がして、次々と口に運んでしまう。

さらにパリッと焼かれた皮が最高に美味しかった。

「ナダ鶏、これはいい特産品になるな」

子爵の呟きにマルティナは安心した。これで牧場主は安泰だろう。

メインも食べ終える頃になると少し食事も落ち着き始め、子爵が代官に問いかけた。

「そういえば、先ほどの書物はなぜこの町で保管されていたのだ?」

代官は問いの答えを持たないようで困惑しているが、それにはマルティナが答えられた。

「先ほどお伝えした著者の方が、人魚の恋人と出会ったのがこの町の近くだったようです。そこでこの町で研究していたとか」

「まさかそんなことが……人魚の町としても売り出せるか?」

子爵の呟きはマルティナの耳に届く。確かにそれは可能だろうが、かなり難しいだろうとも思った。書物には人魚の下に向かう魔法陣も残されていたのだが、個人を識別するそれは、もはや発動しないだろうと予想されるからだ。

さすがに何千年も人魚が生きているとは思えない。人より長寿だとしても数百年だろう。ディアスは別世界から来た存在だから例外だ。

「そうだ、先ほどの書物を読み終わったら、翻訳版を作りましょうか?」

ふと思いついて問いかけると、子爵は頭を下げる。

「ありがとう。できるならば、ぜひ頼みたい」

「分かりました。では……すぐには無理ですが、時間を見つけて作りますね。完成したら後でお送りする形でよろしいでしょうか」

当然頷かれるだろうと思っていた提案に、子爵は首を横に振った。

「いや、その翻訳本についての判断は国に委ねたいと思っている。そもそも少し前に魔法陣に関する書物を集めたときに、提出していなければならなかったものなのだ」

子爵の言葉に代官の顔色が悪くなったのが分かる。今までその事実に思い至らなかったのだろう。大陸会議で各国から書物を集め、提供した情報に応じて浄化などの優先順位が決められた。

もしこの町の本があれば、おそらくこの国の優先順位はもっと上がっていただろう。

「したがって、翻訳本についてはまず貴国にいる我が国の代表に渡していただけたらと思う。――私は陛下への謝罪と、今回のことをどうお詫びをすればいいのか……」

難しい顔で胃を摩る子爵が不憫だった。しかし他国のことにあまり口出しはできない。マルティナはあまり大きな罪にはならないようにと祈るしかなかった。

代官は……先ほどまでの元気さを完全に失っている。

(でも多分、世界中にこの町の本のような書物はあるよね)

為政者が集めようと努力しても、全ての貴重な書物を集められるはずがないのだ。意図して隠す者もいるだろうし、その希少性を全く理解しておらず、隠してる意図もなく献上されないものは多々あるはずだ。

(そういう者も全部読みたい……!)

マルティナは世の中の本を全て読むにはどうすれば良いのかと真剣に考えたが、答えが出るはずもない。

それから少しして夕食は終わりとなり、マルティナたちはまた応接室に戻った。今度はそこで休憩すると共に、マルティナは読書の時間である。

「では、読みます!」

じっくりと新しい本が読めることに満面の笑みのマルティナが宣言すると、誰もが微笑ましげな表情や困ったような笑みで頷いてくれた。

「我も共に読もう」

先ほどまでと同じようにディアスが隣に座った。

「ページを捲るのが早かったら言ってください」

「了解した」

そうしてさっそく本の世界に入り込み始めたのだが――数ページ読んだところでディアスが口を開く。

「ちょっと待て」

目の前に大きな手をかざされたことで本が読めなくなり、マルティナは顔を上げた。

「何かありましたか?」

「これでは読みづらくてダメだ。こうして……」

「わっ」

マルティナはお腹を掴まれ、幼子のように持ち上げられた。そして着地したのはソファーに座るディアスの膝の上である。ディアスはマルティナを後ろから抱き込む形にしたのだ。

「な、なんで……」

「これなら読みやすいだろう?」

そう言われると、横を向くよりも圧倒的に読みやすく、マルティナは頷くしかなかった。完全な子供扱いに少しだけ悔しさを感じるが、すぐに本が読みやすいならいいかと開き直る。

「ではこれでいきます」

「そうしてくれ」

また本を読み始めた二人を見て、ソフィアンが呟いた。

「普通なら恋人に見えるのだろうけど……親子にしか見えないのはなぜだろう」

その呟きに数人が吹き出す。幸いにも本に夢中なマルティナには聞こえていなかった。

「まあ、ディアス様がとても大きいですからね」

そう言ったロランだけは、面白がるというよりも少しだけ複雑そうな笑みだ。

「そしてマルティナは小さくて可愛いですからね」

ハルカの言葉である。それに皆が頷いた。