軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

234、顔色が真っ白になった代官

代官は子爵の動きを無視して、自分勝手に喋り続ける。

「子爵様に献上しようと思っていたのです! ここからは大きな声では言えませんが、連名で王家に献上するというのはどうでしょうか。二人して叙爵と陞爵となるやもしれませんぞ!」

子爵は代官の興奮に釣られず、極めて冷静だった。むしろ少し怒りを湛えているように見える。

「……もう少し礼儀を弁えろ。それから、シーサーペントはどなたが討伐を?」

ゆっくりと問いかけた子爵に、代官は満面の笑みでハルカを指差した。

「そこにいる女たちを新たに部下として雇いましてね。シーサーペントを倒せるような優秀な部下なんです! いや〜、私ほどになると優秀な者が集まってくるというか」

機嫌良く話し続ける代官を信じられない眼差しで見つめた子爵は、一度目を閉じると鋭い光を瞳に湛え、冷たく低い声で言った。

「――黙れ」

その迫力に、代官は思わずと言った様子で口を閉じる。

「ど、どうしましたか?」

問いには答えず、子爵はその場で跪いた。呆然と立ち尽くす代官を前方向に素早く転ばせると、そのまま頭を砂浜に沈めるようにする。

「この度は私の部下が大変な失態を失礼いたしました……! ディアス様、聖女ハルカ様、そして皆様、我が領地にようこそお越しくださいました。一度ご挨拶をと伺わせていただいたところなのですが、大きな脅威であるシーサーペントを討伐していただいていたとは……心からの感謝を申し上げます」

子爵の言葉を聞いて、代官はブハッと砂浜から苦しげに頭を上げると、砂まみれなのも気にせずハルカたちを凝視した。目を見張り、瞬きさえ忘れているようだ。

「せ、せ、聖女、様……?」

その存在は知っていたらしい。

「いえ、こちらも名乗りませんでしたし、気になさらないでください。ご挨拶をいただきありがとうございます」

「たまたま寄ったらシーサーペントに出会したんですよ。町が無事で良かった」

ハルカとソフィアンの言葉に子爵が感動の面持ちを浮かべる中、隣の代官はみるみるうちに顔色を悪くしていく。青を通り越して白になったところで、突然叫んだ。

「た、た、大変、大変申し訳ございませんでした……!」

しかし誰もが代官は無視である。子爵も黙れと言うようにまた頭を砂浜に押し当てていて、これから代官がどうなるのか、聞かずとも分かってしまいそうだった。

少なくとも代官という地位にはいられなくなるだろう。

「なぜ貴様は我らがいると分かった?」

ディアスが口を開くと、子爵はビクッと僅かに肩を震わせながらもすぐに答える。

「僭越ながら、ディアス様がこの町の近くに降り立たれたという報告があり、こちらまで来た次第です」

竜の姿で降り立ったところが見られていたようだ。

「そういうことか」

納得したディアスはすぐに興味を失ったらしい。シーサーペントの様子を見に行き、顎に手を当てて呟いた。

「シーサーペントとは美味いのだろうか」

思わぬ問いに誰も答えを持たない。シーサーペントの味については今まで読んだどの本にも載っておらず、マルティナも知らなかった。

しかし、とても面白い問いだと思う。

「蛇と考えると、蛇肉は人によっては美味しいと言われていますが……それにしては大きすぎますよね。『肉の旨さを決定づけるものとは』という書物に、その魔物や動物の大きさが肉の旨さに関係するのかという考察がありました。完全な相関はないものの、一定程度は相関があり、あまり体が大きすぎると肉の味は落ちるというのが結論でした。しかし同時に小さすぎても味は落ちるという結果が出ていて、『旨みの真実』という本に、何を人は旨いと感じるのかという問いへの考察がまとめられており、その二つを組み合わせると――」

今まで読んだ本から推測していると、隣にいたロランに肩を掴まれ、少し揺さぶられた。

「マルティナ、それはまた後で聞く。長くなりそうだ」

ハッと意識が浮上して、今の状況を思い出した。

「確かにそうですね」

今はシーサーペントが美味しいかどうかについて議論し合う場ではないだろう。

マルティナが頷いたところで、子爵が神妙な面持ちで言った。

「シーサーペントの扱いについては、皆様に一任させていただきます。もし引き取り手を求められているならば、私が責任もって対処させていただきます。また部下の失態へのお詫びをさせていただけますと幸いです。何かご入用のものなどがあれば、すぐにご用意いたしますが……」

そこまで言った子爵はマルティナを見る。

「貴重な本などもご提供させていただきます」

マルティナの本好きも知っているようだ。ここで喜ぶのは相手の思う壺だと分かっているのだが、マルティナは瞳を輝かせるのを止められなかった。

「貴重な本……!」

子爵はそこまで爵位が高くないにしろ貴族である。その貴族が貴重な本と言うからには、普通ならば手に入らないような本だろう。

(どんな本だろう。何冊かな。どういうジャンルかな。早く読みたい!)

完全に本へと意識が向いてしまったマルティナに、他の皆が苦笑を浮かべた。そしてソフィアンが口を開く。

「では、貴重な本をいただこうかな。そこまで大きな何かをされたわけではないし、それ以上の詫びなどは必要ないよ。それからシーサーペントは少しだけ素材としてもらいたいけれど、それ以外については任せる」

ソフィアンの決定に子爵は深く頭を下げ、マルティナたちも誰も文句は言わなかった。ソフィアンの決定ならば間違いないだろうという信頼があるのだ。

「ソフィアン様、すみません……」

マルティナは自分の反応のせいでお詫びが本になってしまったと思い、小声で謝った。しかしソフィアンは笑顔で首を横に振る。

「全く問題ないよ。特に求めたいこともなかったからね」

その言葉に安堵した。

そうして話がまとまりかけ、まずは場所を移動しようかという雰囲気になったところで、代官がまた叫んだ。