作品タイトル不明
231、頼もしい仲間
シーサーペントはグルンッと胴体の下半分を鞭のように振り、おそらく水魔法も駆使して弾丸のような水弾を無数に放った。
「くそっ」
今は昼間であるし、影がほとんどない海岸ではロランの闇魔法はそこまでの威力が出ない。街に向かった水弾でどれほどの被害が出るのか――。
なにもできないマルティナが悔しさに唇を噛み締め、その場でつい目を閉じかけたその瞬間。
ピカッと眩い光が辺りを満たした。咄嗟に目を瞑ってしまいすぐに開くと、街に被害はない。水弾もなくなっていた。
そしてシーサーペントの目の前には。
「ハルカ!」
「良かったな……音で気づいたのか」
あまりの安堵感に、マルティナは力が抜けてへたり込みそうになる。別世界から喚んでしまったハルカに頼りすぎるのは良くないと分かっていても、その頼もしさは大きかった。
「マルティナ、俺たちも行くぞ。頼りきりはよくないだろ」
「はい。すぐ行きましょう」
改めて気合いを入れ直し、砂浜をハルカたちの近くまで走った。たまに飛んでくるシーサーペントの攻撃の流れ弾は、ロランが的確に処理してくれる。
マルティナがハルカの近くに着く頃には、町の方からサシャとディアスも姿を現していた。
「随分とデカい魔物がいるではないか」
「こいつなんすか!?」
「シーサーペントです! かなり強い魔物で、特徴は――」
全員が揃っていたので、マルティナは前置きなく声を張って皆に情報を届ける。特徴から、シーサーペント特有の弱点まで叫んだ。
「牙が折れるとバランスが悪くなると書かれていました! まずは口を、それも牙を狙うといいかもしれません!」
マルティナからの情報に、ハルカが笑顔で振り返った。
「了解! あとは任せて!」
「ハルカさん、私からあまり離れないでください」
「俺も戦闘に参加するっす。ロランさんはマルティナさんを頼みます!」
「おう、任せとけ」
シーサーペントと戦うのは三人になった。ディアスは大量に抱えた屋台飯をマイペースに食べており、ソフィアンは安全な場所へということで、マルティナの隣に下がってくる。
「我も参加すべきか?」
ディアスの問いにマルティナは悩んだ。ディアスの力は頼もしいのだが、とにかく強すぎるのだ。
あまりにも強くて弱める方向性は苦手なようであるし、シーサーペントを倒せたのはいいが、その余波で巨大津波が発生したなんて、そんな事態にもなりかねない。
(でも、ハルカたちも心配だから……)
悩んだマルティナは少し遅れて答えた。
「……皆が危険になったらお願いしてもいいですか?」
「了解した。ではこれを早めに食べておこう」
美味しそうに串焼きを頬張るディアスは、少し面倒な頼みも気にしてないようだ。マルティナはそれに対して感謝と共に、ハルカたちの勝利を心から願った。
隣では、ソフィアンが小さく呟く。
「ハルカ、頼んだよ」
切実さを含んだ響きから、マルティナと同じ心配をしていることが分かった。
皆が見守る中で、ハルカたちの戦闘が開始される。先陣を切ったのはサシャだ。
「いくっすよ!」
剣を抜いて、砂浜をものともせず身軽に駆けてシーサーペントに近づくと、剣の間合いに入る直前で右に飛ぶ。目の前の獲物であるサシャを巨大な牙のある口で噛みつこうとしていたシーサーペントは、一瞬サシャを見失ったようだ。
大きく開かれた口をそのままに、戸惑うように頭を振った、その瞬間。
「ギャオゥゥゥゥ!!」
シーサーペントが苦悶の声を上げる。サシャはシーサーペントの右側から、開かれた口内に突き立てるような形で剣を振っていた。
バチッ!!
雷撃の音が辺りに響き渡り、シーサーペントが小刻みに震えて動きを鈍らせる。
「お願いっす!」
叫んだサシャは無事なようだ。しかし海の近くだからか雷撃の威力をあまり高められなかったようで、シーサーペントはすぐに本来の動きを取り戻す。
ただ完全に元通りになる前に、サシャの声を受けたハルカが動いた。ハルカの指先から放たれた光線が、ヒュンッとシーサーペントの急所を貫いていく。
いくつかは避けられたり、少し外れて硬い鱗に阻まれたが、シーサーペントの動きが鈍っていたこともあり、右目を潰して左の牙を折ることに成功した。
「ギャオォォォォォ!!」
今度は苦悶というよりも、怒りの感情が濃いような叫び声を上げる。
シーサーペントは水弾を作り出すと、無差別に周囲を攻撃していった。体を捩り、砂浜に叩きつけ、大量の水飛沫が上がると共に地面が揺れる。
「わっ」
「マルティナ、俺の後ろにいろ」
ロランに腕を掴まれ、背中に庇われた。自分の弱さは自覚しているので大人しく隠れさせてもらう。
「ありがとうございます」
ソフィアンは風魔法を使えるので、自らの身を守るぐらいならできるようだ。ディアスは――シーサーペントが暴れる中でまだ串焼きを頬張っている。
その様子に少し体から力が抜けた。竜であるディアスを見て平和を感じ安心を覚えるなど、誰が想像しただろうか。
マルティナも未だに、あまりにも奇跡的な今が夢ではないかと思ってしまうことがある。
「ハルカさんっ、防御は私が!」
フローランが風魔法を駆使してハルカを守る中、ハルカはシーサーペントの攻撃に集中するようだ。
「ありがとうございます!」
シーサーペントの癇癪のような攻撃の雨が収まると、すぐに一旦退避していたサシャが動き出した。