軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

230、横暴な代官と突然の危機

マルティナは牧場主だろう男性のために、さらに言葉を重ねた。

「ハグザ草と一緒に料理をしなければ問題ありませんし、これからは売る時に注意書きを付ければ問題ないはずです。それにちょっと高級になりますが、美味しい下剤としてもしかしたら売れるかも……」

便秘に悩む人も世の中にはかなりいるのだ。もちろん貴族にもいると考えると、基本的に美味しくない薬よりも、美味しい食べ物で問題解決できた方が良いはずである。

「諦めるのは早いはずです。その、代官様もこの町の特産品が増えるということで、今回の失態による罰などはなんとか軽めに――」

恐る恐るマルティナが願うと、何やら考え込んでいた代官がニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

「仕方がないな。貴様のような愚鈍な平民に、男爵家の生まれで子爵様の代官を勤める高貴な血筋の私が慈悲をやろうではないか。今回の失態は水に流してやる」

「ほ、本当ですか……!」

牧場主は顔を明るくする。しかし、すぐに続けられた代官の言葉に固まった。

「代わりにナダ鶏に関する権利は全て私に寄越せ。私が町の特産品として売り出してやろう。そうだな、新たにナダ鶏専用の牧場を作らせるか。まあ、貴様もそこで雇うぐらいは考えなくもない。それかナダの実を育てる方でもいいな」

権利を完全に寄越せというのは、あまりにも横暴である。最初にナダ鶏を作り出した男性には一切の報酬がないということだ。権力で横取りするということである。

「そ、それはさすがに……」

「なんだ? お前が私に下剤を盛った事実は変わらんのだ」

それを言われると弱いのか、男性は俯いてしまった。そのうち代官の提案を飲むことになりそうだ。

男性にも悪いところはあったとはいえ、ほぼ不可抗力であるし、それにしてもこれは釣り合ってなさすぎる交渉だ。

「ロランさん、どうすれば……」

ここは他国であるし、マルティナがあまり口を出すわけにもいかない。そう思ってロランを見たが、ロランも悔しく思いながらも手を出すのは難しそうだった。

「理不尽だが、俺たちにはなにも……」

「そう、ですよね」

牧場主はチラッと木造の建物に視線を向ける。マルティナもそれに釣られて視線を動かすと、そこにはこちらの様子を窺う女性と子供たちがいた。おそらく男性の家族だろう。

男性はその姿を確認してから、諦めるようにギュッとキツく目を瞑った。

「おい、権利は全て私に渡すのだな? 頷かなければお前も、お前の家族もどうなるか……」

「わ! 渡し……」

家族という言葉に慌てて口を開き、悔しそうにしながらもなんとかその先を口にしようとする。

「代官様に、権利を」

ドンッッッ!!

「なっ」

「っっ」

男性が答える寸前に、突然海の方から爆音が響いた。マルティナたちは全員がビクッと体を揺らし、海がある方向に視線を向ける。

しかしここからでは海の様子は窺えない。慌てて牧場の柵から離れて、高台の柵に向かった。下を見下ろすと――。

「あれはっ」

マルティナの目に映ったのは、信じられないほどに巨大な魔物だった。

「シーサーペントです! なんでこんなところに!?」

「強いのか!?」

ロランの叫ぶような問いにマルティナは頷く。

「海の魔物の中ではかなり上位に位置する魔物です! 鱗は硬く水魔法を使いこなし、防御と攻撃どちらにも秀でていると書かれていました!」

シーサーペントは巨大な海蛇だ。しかし蛇と言っても、その胴体は人が数人がかりでやっと抱きつけるほどに太く、さらに百メートル近くの長さを誇る。

その胴体に薙ぎ払われるだけで人は全身の骨が折れ、もし巻き付かれでもしたら全身が砕けておしまいだ。水魔法を上手く使うことで動きは素早く、簡単に家が吹き飛ぶような強い水流を吐き出す。さらに巨大な波も作り出せた。

鱗は硬く剣はほぼ通らないため、目や口の中など弱点を狙うしかない。一応雷は弱点なのだが、海で雷を使うのは諸刃の剣だった。

マルティナとロランがあまりにも突然の強敵出現に固まっていると、代官と牧場主も慌てて駆けてきた。

「なぜシーサーペントなどが現れるのだ! 伝説上の魔物だぞ!?」

さすがに港町の代官はその存在を知っているようだ。しかしここでも伝説扱いの魔物らしい。

こんな岸の近くにいるということはもしかしたらどこかの瘴気溜まりから現れ、川などを伝って海に出たのかもしれない。大きな川ならそれも可能なはずだ。

「グオォォォォォ!!」

シーサーペントはイラつきを抱えているようで、発散するように叫ぶと口をぱかっと開けた。そこからビュンッと水流が撃たれ――。

バリバリバリバリッ!!

海の近くにあった何かの建物が木っ端微塵に吹き飛んだ。

「なっ……」

「あ、あの建物に人は!?」

ロランの問いに牧場主が答える。

「あ、あれは倉庫なので、おそらく誰もいないはずです。ただ、あんな魔物、この町の終わりだ……」

絶望の表情でその場にしゃがみ込んでしまう。あの様子を見ればその気持ちもよく分かる。しかし、今ここにはハルカやディアスがいるのだ。相当な幸運だろう。

「ロランさん」

「ああ、とにかくディアス様とハルカを探して……」

二人の会話を遮るように、代官が怒りを込めて呟いた。

「くそっ、くそくそくそっ、町が被害を受けたら私の金が……それに評価が下がるではないか! あの魔物を倒せるやつはいないのか!? 平民はうじゃうじゃいるくせに、誰も倒せない無能なのか!?」

この期に及んでそんなことを言っている代官に、マルティナはつい冷たい眼差しをむけてしまう。マルティナが怒りを覚えるのは珍しいことだった。

(絶対にこの人が代官じゃない方がいいと思うけど……)

他国の代官のことに口出しはできない。この町の人たちを思うと、なんだか悲しくなってきてしまった。

「――ロランさん、行きましょう。シーサーペントの弱点も魔物図鑑に書かれていた限りなら分かるので、ハルカたちに伝えます」

「さすがマルティナだな。とにかくここを下りるぞ」

二人は代官のことはひとまず放置することを決める。牧場主の男性にだけ安全な場所にいるよう伝え、高台から階段を駆け下りた。

途中でマルティナの遅さにロランが抱えることになり、階段を一段抜かしで走って下りる。

「ふわぁぁぁ」

予想外の怖さにマルティナは変な声を出してしまったが、緊急事態なので頑張って耐えた。地面に着いたところで安堵感から息を吐く。

「はぁ、はぁ」

「大丈夫か?」

「は、はい。なんとか……ありがとうございます」

「俺は問題ない。それよりもまずは海に向かったハルカたちを……」

二人が辺りを見回した瞬間、またシーサーペントが怒りを爆発させるように動いた。