軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

217、ナディアとシルヴァンの帰還

ディアスの持つ感知魔法によって、帰還の魔法陣研究に進展の希望が見えた日から数日後。ついにナディア、シルヴァンたちが乗る馬車がラクサリア王国の王宮に戻ってきた。

「ナディア……!」

マルティナは馬車から降りたナディアのところに、つい駆け寄ってしまう。

「マルティナ!」

ナディアも嬉しそうな笑みを見せてくれて、マルティナは思わず勢い余って抱きついた。しかしナディアは驚くことなく、むしろ当たり前のように抱き止めてくれる。

「無事に着いて良かった。なんだか凄く久しぶりな感じだね」

体を離してから笑顔で伝えると、ナディアはマルティナのことを頭のてっぺんから爪先まで確認した。

「マルティナこそ無事で良かったわ。竜に乗って国に帰ったなんて内容を突然聞かされたら、どれだけ心配するか……!」

「そうだよね……ごめん」

自分がその報告を受けた側だと考えたら、心配でいても立ってもいられなくなるだろう。ディアスの勢いに呑まれて不可抗力での帰還だったとはいえ、ナディアたちには申し訳ないことをした。

「ううん、謝罪は必要ないわ。仕方がないことだとは分かっているの。マルティナはちゃんと連絡もくれたし……でもやっぱり心配だったわ」

複雑な心境を吐露したナディアは、顔を上げて周囲を確認する。

「それで、ディアス様は?」

「ここにはいないからあとで紹介するよ。今は王宮図書館の書庫で研究してる」

もう皆がディアスの存在に慣れてきて、マルティナが常に近くにいる必要もないのだ。最近のディアスは真剣に研究に励んでいる。

「お願いね。ちゃんとご挨拶をしなければ」

二人がそこまで話したところで、馬車から降りてきたシルヴァンが手紙のようなものをマルティナの額にペタリとぶつけた。

「マルティナ宛だ」

久しぶりの再会で気恥ずかしいのか視線を合わせないシルヴァンに、マルティナは手紙を両手で受け取りながら視線を向ける。

「シルヴァンさん、ありがとうございます。シルヴァンさんもご無事で良かったです。久しぶりに会えて嬉しいです」

ナディアに向けたのと全く同じ笑顔でそう伝えると、シルヴァンの耳が赤くなったのが分かった。それにマルティナがさらに口元を緩めていると、ロランがシルヴァンの肩に手を置く。

「シルヴァン、なに照れてるんだ? 俺たちに会えて嬉しいのか?」

ニヤニヤしながら顔を覗き込むようにしたロランに、シルヴァンは噛み付くように言った。

「ち、違う!」

「ほら、素直になれって。シルヴァンもマルティナの抱擁がほしかったのか? それはさすがに難しいだろうから、俺が代わりにしてやるよ」

シルヴァンに対してはふざけるロランである。近くで両手を広げたロランに、シルヴァンは眉間に皺を寄せて叫んだ。

「だから違うと言っているだろう!?」

「はははっ」

楽しそうなロランに怒っているが、僅かに口元を緩めているシルヴァンだ。そんないつも通りの光景に、マルティナも笑顔になった。

(二人って仲良しだよね!)

なんだか自分まで嬉しくなるマルティナである。ナディアは少し呆れた表情を浮かべていた。

「もう、子供のように騒いではダメよ」

「なっ、私は騒いでいないぞ!」

シルヴァンがすぐに反論したが、ナディアは完全に無視してマルティナが受け取った手紙に視線を向ける。

「マルティナ、その手紙はルイシュ王子からよ」

慌てて手紙を確認すると、確かに差出人はルイシュ王子になっていた。

「確かに渡して欲しいと頼まれたわ。マルティナはいつルイシュ王子と文通する仲になったの? 他国の王子殿下から手紙が来るのは凄いことよ」

マルティナはエルフの生活や本の内容について教えてもらえると、ルイシュ王子との文通を二つ返事で了承して大喜びしたが、客観的に見たら一官吏と王子の文通だ。普通ならばあり得ないことだろう。

「えっと……サディール王国の王宮にいる時に、色々とお世話になったから。それでかな」

エルフの村のことは秘密なので、曖昧な返答になってしまった。無意識に助けを求めようと、秘密を共有しているロランとサシャに視線を向けると、ロランはなんだか複雑そうな、難しい表情で手紙をじっと見つめていた。

そこでサシャが明るく口を開いてくれる。

「早く内容を確認して、返信しないとっすね。サディール王国の美味い料理について書かれてたら教えてくださいっす!」

食いしん坊なサシャの言葉に、ナディアの意識は逸れたようだ。

「そういえば、サディール王国の特産品などで日持ちするものをもらってきているわ」

「え、本当っすか!?」

「ええ、お土産にといただいたの」

特産品の土産という話にサシャの瞳はこれ以上ないほどに輝いた。マルティナと似た表情にナディアは苦笑を浮かべつつ、マルティナの後ろに目を向ける。

そこにいるのはハルカだ。ハルカはマルティナたちと共にナディア、シルヴァンの迎えに来ていたが、再会を喜ぶ輪からは一歩離れた場所にいた。

マルティナ達のことを羨むように、少しだけ寂しげに目を細めていたハルカは、ナディアの視線を辿るようにマルティナが振り返ると、すぐにいつもの笑顔になる。

「ナディア、お帰りなさい」

「ハルカ、本当に久しぶりね。元気そうで良かったわ」

「うん。わたしは元気いっぱいだよ」

「……ハルカ、大丈夫?」

ハルカのいつもと違う表情は見ていなかったものの、マルティナは少しだけハルカにいつもと違うものを感じた。心配して小さく問いかけると、ハルカはグッと言葉に詰まってからマルティナの肩に自らの額を当てた。

「うぅ……うん、うん。大丈夫。ちょっとどうしようもないことというか、余計なことを考えちゃっただけだから」

「そっか」

深く聞かない方がいいのかもしれないと相槌だけにしたマルティナに、ハルカが至近距離で視線を向ける。

「マルティナがいい友達すぎる……!」

激情を少しだけ溢すように小さく叫んだハルカだ。

「ありがとう?」

突然のことに、マルティナの返答は疑問形になってしまった。

そんな二人のやりとりを見て、ナディアが少しだけ拗ねたように唇を尖らせている。

「なんだか前よりも仲良くなっていない?」

「本当? そう思う?」

ハルカとの距離が縮まったと思っていたマルティナは、周囲からもそう見えるのだと分かって嬉しかった。「えへへ」と照れたように口元を緩めるマルティナに、ナディアが拳を握りしめて小刻みに震える。

「やっぱりマルティナって可愛いわ……!」

マルティナの手をギュッと握って、ナディアが言った。

「今度時間をとってお茶会でもやりましょう。わたくしがお菓子を作るわ」

「え、本当? 実はハルカと、ナディアが帰ってきたら皆で女子会をしたいねって言ってたんだ」

「そうなの? それならすぐにやりましょう!」

嬉しそうに表情を明るくしたナディアは、マルティナから片手を離してハルカの手も握る。繋がれた手を少し見つめたハルカは、何かを吹っ切るように明るい笑顔を見せた。

「ナディアのお菓子楽しみ」

「とびきり美味しいものを作るわ」

「わたしも手伝うね」

「私も……新たなレシピ本を読んでおくね!」

マルティナの宣言にナディアとハルカは同時に笑い、三人は楽しく笑い合う。

そうしているところに、馬車から荷物を下ろしたシルヴァンが声をかけた。