軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

218、ルイシュ王子からの手紙

マルティナとナディア、そしてハルカの三人が楽しく笑い合っているところに、荷物を抱えたシルヴァンが声をかけた。

「ナディア、まだ荷物が残っているから頼む」

「あ、分かったわ」

ナディアが慌てて馬車に戻っていくと、入れ替わるようにシルヴァンがマルティナに報告する。

「そうだ、マルティナ」

「はい。なんでしょうか」

「浄化石を運び出すための作戦は着々と進行しているそうだ。霊峰に生息する魔物や、霊峰の植生に関しての情報が早急にまとめられ、そのうち本が作られるらしい」

霊峰に関する本が作られる、何よりも嬉しい話にマルティナの瞳はキラッキラに輝いた。ほぼ無意識でシルヴァンにぐいっと近づく。

「本当ですか!!」

「あ、ああ、本当だ。完成はまだ先だろうが」

「完成がとても楽しみです……!」

マルティナの脳内には、すでに完成した本がイメージされていた。とても分厚くて読み応えのある図鑑だ。

(絶対に読みたい! いつ頃完成するのかな。一年、二年? 待ちきれない……!)

瞳を輝かせた大興奮のマルティナに少しだけ体を引いたが、シルヴァンは嬉しそうに口元を緩ませていた。

「マルティナであれば読む機会もあるだろう」

そう言ってから荷物を運ぶためにマルティナの下を離れるシルヴァンを、ロランがニヤニヤしながら見守る。そしてすれ違いざまに軽く声をかけた。

「シルヴァン、ちゃんと上にも報告するんだぞ」

「もちろん分かっている」

「……先に正式な報告前に情報を漏らすのは褒められたことじゃないが、今回は見逃してやる」

その言葉にふんっと鼻を鳴らして去っていくシルヴァンを見送っていると、他の者たちも次々と荷物を運び始めた。

慌ただしくなり始めたので、邪魔しないようにとマルティナは王宮内に戻ることにする。

「ハルカ、この後って予定ある?」

「うん。ソフィアンさんと話し合いをする約束なんだ」

主にソフィアンが忙しいことでハルカの側にいない時間が増えたため、定期的に会って話す時間を作り、それぞれの近況報告や情報共有をしているようなのだ。

聖女ハルカの側近的な立場として必要なことなのかもしれないが、ハルカ曰くただ楽しく雑談をするだけのこともあるようで、マルティナはソフィアンとハルカの二人が親密だからこその時間なのだろうと思っている。

(二人の気が合うみたいで良かった)

「そうなんだ。じゃあちょっと別行動になるね。私もルイシュ王子からの手紙を読んで返信を書かないといけないし」

「そうだよね。じゃあまた夕方か、明日かな」

「うん。また連絡するね」

「わたしも」

ハルカとも笑顔で手を振って別れ、マルティナはロランとサシャと共に王宮内に戻った。向かうのは王宮図書館ではなく、空いている会議室だ。まずは手紙を確認しなければならない。

「ここなら誰もいないから安心だな」

室内に入ったところでロランの言葉に頷く。読まれて困る内容は全てエルフ語で書かれているだろうが、それでもできる限り中を見られない方が良いだろうとの配慮だ。

「手紙を読んでしまいますね」

「ああ、俺たちが周囲の警戒をしてるから、マルティナは集中しても問題ない」

「誰も入らないように外には俺がいるっすね!」

「サシャさん、ありがとうございます」

サシャが部屋の外、ロランがマルティナの近くで護衛の態勢に入ったところで、マルティナは小さな会議室内にある円卓の椅子を引いて腰掛けた。

結構分厚めな手紙の内容が気になり、気が急いてしまう。エルフの本に関する話があるかもしれないと、ワクワクするのを止められなかった。

(エルフの村にある本の一部を書き写してくれたりしないかな……!)

手紙の分厚さ的にはあり得そうなのだ。しっかりと封がされた手紙を開けて中を確認すると――。

「ルイシュ王子、またエルフの村に行かれたらしいです」

まずはそんな内容から始まっていた。機会があり一度だけエルフの村に向かうことができたそうだ。そこで話したことや食事に関する話が続き、最近のサディール王国の近況についてや浄化石や霊峰についての話も書かれていた。

とても有益な話ばかりで、マルティナは少し冷静になる。

「ロランさん、これってどうすればいいのでしょうか。報告した方が良いと思いますか……?」

手紙はエルフ語で書かれていない箇所もあるので、中を軽く見せながら問いかけると、ロランは難しい表情で考え込んでから首を横に振った。

「いや、エルフ語の部分について聞かれても困るし、あくまでもマルティナ個人に宛てた手紙だ。そしてルイシュ王子が手紙を預けた先も、ラクサリア王国ではなくマルティナの友人であるナディアとシルヴァン個人だった。俺は報告しなくていいと思うぞ」

ロランの意見を聞いてから、マルティナは改めて手紙の内容に視線を落とした。

改めて確認すると、有益な話は多くあるが、エルフ関係以外の部分はおそらく外交官や官吏たちが上に報告するのだろう内容ばかりだ。

そうなると重複するため報告は必要なく、エルフ語の部分については報告できることがない。

「ありがとうございます。あくまでもルイシュ王子との個人間のやり取りということにします」

「ルイシュ王子と個人間の……そう、だな。それがいいだろう」

なんだか歯切れの悪いロランを不思議に思って見上げると、ロランは微妙な表情を浮かべていた。

「何か気になることがありますか?」

「……いや、ない。マルティナは文通を素直に楽しんだらいい。書く内容と手紙の出し方には気をつけてな」

「はい。そこは気をつけます」

ロランから楽しめばいいと言われたことで吹っ切れたマルティナは、また手紙を読み進める。すると少しして、マルティナが興奮する内容が書かれていた。

「ここから先は、私が面白いと思ったエルフの村にあった物語の一節を……!」

ついマルティナが声に出すと、ロランが苦笑しつつ口を開く。

「マルティナ、声は控えめにな」

「あっ……はい。気をつけます」

自分の口を手で塞いでから、深呼吸をしてまた次の用紙に移った。

それからルイシュ王子の綺麗な字で書かれた物語の一節をじっくりと読み、これ以上ないほどに堪能したマルティナは「ふぅ……」と満足げな息を吐き出した。

「素敵な一節でした……ルイシュ王子には本当に感謝です」

遠くにいるルイシュ王子を脳内に思い出して感謝を伝えると共に、ぜひまたエルフの本について教えてくださいと念を送っているマルティナは、側から見たらルイシュ王子のことを思い出してうっとりしているように見えただろう。

そんなマルティナを間近で見ていたロランは、少し噛みながら呼びかけた。

「っ、マ、ルティナ」

声をかけられてさすがに現実へと戻ってきたマルティナは、素直にロランを見上げる。

「なんでしょうか」

首を傾げてロランの言葉を待つマルティナだったが、ロランの言葉は一向に紡がれなかった。ロランは自分でマルティナの名を呼んだにも関わらず、困惑している様子だ。

「……いや、やっぱりなんでもない」

「大丈夫ですか? 疲れてますか?」

心配になったマルティナが椅子から立ち上がってロランの顔を覗き込むようにすると、ロランは何かを振り切るように首を横に振る。

「いや、問題ない。心配かけてごめんな。早く返信を書くといい。……って、紙とペンはあるか?」

「あ、そういえばそうですね。取ってきます」

「いや、俺が行ってこよう。マルティナはサシャとここにいてくれ」

有無を言わさぬ様子でそう告げたロランは、マルティナの返答を待たずに扉を開けてしまった。サシャを中に呼んで、自分は外に出ていく。

マルティナはロランの後ろ姿を見送りながら、まだ少しだけ心配に思っていた。

会議室を足早に出ていくロランは、自らにだけ聞こえる声音で呟く。

「俺はマルティナが心配なんだ。他国の王子と個人的なやり取りなんだから、心配するのも当然だ。俺はマルティナの先輩で護衛なんだから、当然のことだ」

自分に言い聞かせるようなその言葉を聞いている者はいなかった。