作品タイトル不明
第130話 トリティクム公爵
厳月(ゲブラー) 二十日の十四時。前日に先触れの手紙が公爵の住まう領主館に届いているので、本日領主城にルクスたちは訪問すべく礼装を 纏(まと) って貴人街に向かう。
貴人街とは王都の貴族街と同じような区画で、貴族以外も尊い人でお金があれば、誰でも住める区画となっている。
貴人街の中心部にある領主城にやってきたルクスたちはそれぞれ身分証明書である冒険者ギルドカードを門番に見せた。
ルクスは、冒険者ギルドカードと伯爵の印章を見せて、先触れの手紙を出していることも門番に伝えた。
「確認いたしますので、少々お待ちください」
門番はもう一人の門番に門を任せて、城に向かった。
しばらくして戻ってきた門番は騎士を連れていた。
「こちらの者が皆様を案内しますので、付いて行ってください」
「分かりました。ありがとうございます」
黄金の導は騎士の後ろに付いて行く。
城の中に入って、階段を上った近くにある一室に案内される。
そこは会議室のような場所だが、調度品は一級品で、絵画も飾られており、貴賓を通すような雰囲気の会議室だった。
黄金の導が着席して、すぐに会議室の扉が開き、貴族らしき初老の男性が騎士を伴い、入ってきた。
「君たちがダイアモンド鉱山を見つけた冒険者だね?」
「はい」
ルクスたちは立ち上がって頭を下げた。
「楽にしてくれ。さあ、座ると良い」
そう言って貴族らしき初老の男性はルクスたちの前に座った。
いつの間にかいたメイドたちが紅茶を人数分出していく。
「まずは自己紹介をしようか。私はこの西部を治める公爵をしているリカルド・フォン・エンゲルス=トリティクムだ。よろしくね」
初老の男性──リカルドはルクスにウインクした。
ルクスは微笑んで立ち上がった。
「私は陛下より元帥と伯爵に任命いただきました、ルクス・フォン・シュトラウスと申します」
次にバートが立ち上がった。
「私はシュタルク公爵より男爵位をいただきました、バート・フォン・フェストと申します」
アランとクラーラ、ラエティティアが立ち上がる。
「アランと申します」
「クラーラと申します」
「ラエティティア・ヴィンター=アルノルトと申します」
ラエティティアの自己紹介を聞いたリカルドは口ひげを撫でて、何かを思い出そうとしていた。
「ああ、そうか。アルノルト殿は魔境とその周辺の土地を持っていた伯爵家のご令嬢だったのでは?」
「え、ええ、借金によって没落してしまいましたが……」
「ふむ……そなたの母君は私の親戚の子爵家の令嬢でな、だから、アルノルト殿も私の親戚だ。だが、それだけで、便宜を図ることは普通、できない」
ラエティティアは分かっていたように頷いた。
「だが、アルノルト殿は、今は 幻金級(オリハルコンランク) の冒険者なのだろう?私が陛下に推薦状を書くことくらいはできる。アルノルト殿だけに推薦状を書くのは贔屓になってしまうから、お仲間と一緒にね」
「良いのですか?」
「ああ、どうせ陛下のことだから成人してから爵位をあげるつもりだろう。それが少し早まっても構わないだろうよ」
ラエティティアは深く頭を下げた。
「ありがとう、ございます……!」
「どういたしまして。さて、本題だが、君たちは魔境でダイアモンド鉱山を見つけたんだね?」
「「はい」」
「現物はあるかな?」
「ここに」
ルクスはアイテムポーチからダイアモンド鉱石を取り出し、机の上に置いた。
「ふむ、本物だね……魔境は三年ほど前まで伯爵領だったが、伯爵家が無くなったことで、一度王領となり、一年前に我が領となっている。確かに私に報告することは間違っていない。間違っていないのだが……」
リカルドは苦い顔をした。
「なにか問題でも?」
「魔境の魔物が強すぎるのだよ。君たちのような 幻金級(オリハルコンランク) の冒険者を長期で雇う訳にもいかないから、どうしたものか、と思ってな……」
「あー、それなら、迷宮都市にある私たちのクラン、自由の翼に依頼をいただければ俺たちよりもランクが低くても丁度良いレベルの者たちを派遣することができると思いますが……」
「迷宮都市に君たちのクランがあるのか……検討してみよう」
「その、魔境の山脈ですが、私のスキルで確認したところ、ダイアモンド鉱山以外にも様々な鉱物が出てくるようです」
「そうか……ありがとう、計画を立てて進めていこう」
リカルドは後ろの騎士に目配せした。
騎士は何かがぎっしり入った大きな革袋をルクスの前に置いた。
「それは情報を提供してくれた礼だ。受け取ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
ルクスは革袋をアイテムポーチに収納した。
「本当は、晩餐を共にしたかったのだが、仕事が立て込んでいてね、またの機会とさせていただくよ」
「はい」
「またおいで、待っているよ」
そう言ってリカルドは会議室から出て行った。
ルクスたちは騎士に案内されて、城を出た。
「ティア」
「?どうしたのですか、ルカ君、そんな難しい顔をして」
ラエティティアはルクスの頬に手を当てた。
ルクスはラエティティアに甘えたい気持ちが湧き上がったが、それを抑え、ラエティティアに聞く。
「ティアは魔境と周辺の土地を持っていた伯爵家の令嬢だったんだよね?その……今更魔境から鉱物が見つかったりして、落ち込んでないかな?って思ってさ……」
「まあ!ふふふ、心配してくださったのですね、ルカ君」
ラエティティアは優しい微笑みを浮かべた。
「大丈夫です、ルカ君。あの魔境に鉱物があると知っていたとしても、伯爵家は没落していたでしょう。だって、魔境の 魔物(モンスター) を倒す術が、あのとき無かったのですから」
「ティア……」
その様子が、どこか痛々しく感じたルクスはラエティティアを抱き寄せた。
「ティアは俺が幸せにするからね」
「まあ、今でも十分幸せですよ?」
「なら、もっと幸せにするよ」
二人は互いの体温を確かめるように、抱き合っていた。
仲間たちは二人のいちゃいちゃぶりを生温かく見守っていた。