作品タイトル不明
第124話 自由になった鳩
ルクスたちが迷宮都市でダンジョン攻略に向けて準備を進めている一方で、馬車の長旅を終えて、神聖オウル法国に戻ってきた聖女ヨナ。
ヨナは、戻ってきて早々、法王ヨセフからお茶会に誘われ、中庭のガゼボで紅茶を楽しむこととなった。
「ヨセフ様、お招きいただき、ありがとうございます」
「良い良い、固い挨拶はいらぬよ。座りなさい、ヨナ殿」
「はい……」
借りてきた猫のように大人しいヨナを見てヨセフは微笑み、本題を伝えるべく、口を開いた。
「ヨナ殿、そなたを苦しめていた枢機卿ナダブはスキル封じの首輪を付けて魔の森に追放した。安心なさい」
枢機卿ナダブは徹底的な取り調べによって、全てを白状した。
スキル封じの首輪を付けて魔の森に追放する刑は、実質、死刑に等しいので、ナダブがヨナの前に現れることは二度とないだろう。
「ヨセフ様……ありがとうございます」
「それもこれも、謎の少年のお陰だがね」
「謎の少年……(たぶん、ルクス様ですね)」
ヨナはルクスとバートが戯れていた様子を思い出し、微笑んだ。
「ところで、ヨナ殿、何かやりたいことはあるかな?」
「え?」
「ナダブに良いように利用されていたことを、私は今になって知った。その償いとして、ヨナ殿には自由に生きて欲しいのだよ」
「……では」
ヨナは口を開いて自身の願いを口にした。
「ふむ、そうか……残念だが、分かった。私が手配しておこう。それ以外に望みはないのかな?」
ヨナは首を横に振った。
「では、ヨナ殿、私とお茶を楽しんでくれるかな?」
「はい」
ヨナは笑みを浮かべた。
「実はな、聖騎士や神殿騎士からヨナ殿の恋路を応援してくれと言われておってのぅ」
「!!?」
ヨナは紅茶を噴き出しそうになったが、聖女としての 矜持(きょうじ) により、事故は起こらなかった。
「バート君という少年の話を聞かせてもらえるかな?」
「……はい」
ヨナは父のように思っているヨセフに、バートのことを話すこととなり、恥ずかしいような嬉しいような、複雑な気持ちを抱いた。
法王ヨセフとのお茶会を終えて、自室に戻ったヨナは、鳥かごに入った鳩に目を向けた。
この鳩は以前、信徒の一人から献上された鳩だ。
自由のなかったヨナにとって、この鳩は心の支えだった。
「あなたも、自由にならなくちゃね」
ヨナは鳥かごを持って、バルコニーに出た。
そして、鳥かごの扉を開けた。
鳩はそっと、扉から出て、バルコニーの手すりの上に乗った。
一度、ヨナを振り返った鳩は飛び立った。
その姿に、自身を重ねたヨナは涙を流し、微笑んだ。