作品タイトル不明
第108話 国王の依頼
国月(マルクト) (十月に相当)二十五日。
ルクスは第一騎士団の訓練場に遊びに来ていた。国王との約束の一年がすでに経過しているため、第一騎士団顧問としてではなく、元帥としてだ。
ちなみに第一騎士団顧問の補佐官として派遣されていたアレキサンダーは、期間終了したため、第一騎士団所属の見習い騎士に戻っている。
ルクスのもとにいたほうが絶対強くなれると、最後の最後まで戻るのを拒んでいたが、正式な騎士になって国のために働くという初心を思い出し、戻った。
訓練を眺めていたルクスに向かって、一人の近衛らしき白い騎士服を 纏(まと) った騎士がやってきた。
「フォルティス閣下、陛下がお呼びです」
「あ、はい、行きます」
ルクスは訓練場にいる騎士たちに挨拶してから、騎士と共に国王の執務室に向かった。
コンコン、と騎士が執務室をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
騎士が扉を開いた。ルクスは部屋に入って国王シリウスの元までやってきた。
「ルクス殿、掛けてくれ」
シリウスに促され、ルクスはソファに座った。
「今日はな、依頼があって呼んだのだ」
「なんでしょう?」
シリウスは真面目な表情で言葉を紡ぐ。
「実はな、神聖オウル法国が聖女をこの国に派遣してきたのだよ。その護衛をルクス殿のクランにお願いしたいのだ」
「はぁ……何故、我々に?」
「ルクス殿のクランは 緋金級(ヒヒイロカネランク) で、黄金の導にいたっては 幻金級(オリハルコンランク) ……この王国で最も等級が高い冒険者だ。これ以上の護衛はいないだろう」
「なるほど……ちなみに、何故、聖女様はアルヒ王国に派遣されるので?」
「ふむ……実はな、アルヒ王国の各地の領主から要請があったのだ」
シリウスは暗い表情を浮かべた。
「各地には、魔物によって傷を負った者たちが多数いる。主に、冒険者や貴族の私兵たちが多い。彼らは、薬や自然治癒では治せない魔障と呼ばれる病に侵されている。これは、聖女や聖者にしか治せないと呼ばれる病なのだ」
「なるほど……(エリクサーなら治せそうだけど、数が多くないから黙っていよう)」
「というわけで、多額の献金と引き換えに聖女を派遣してもらったという訳だ。四カ月後には聖女が国境に着くから、国境から護衛して欲しい。王都から国境までは三ヶ月掛かるから、一週間後までに護衛を見繕ってくれると有り難い。勿論、報酬は 弾(はず) む」
ルクスは一も二もなく頷いた。
(陛下には、お世話になっているしね)
アルヒ王国で、穏やかに暮らせているのは、シリウスがルクスたちを縛ろうとしない姿勢によるものだとルクスは思っている。
強欲な王がいる国にもし、ルクスたちが所属していたなら、どんな手を使ってでも戦力になるルクスたちを縛り付けようとするだろう、ということは想像に 難(かた) くない。
だから、ルクスはシリウスに感謝していた。
「聖女様の護衛、自由の翼が引き受けます」
「ありがとう……それでな、護衛なのだが、他のクランにも受けさせたいと思っておる」
「あ、もしかして、そのクランって、『聖なる誓い』ですか?」
クラン『聖なる誓い』は、アルヒ王国で最も規模が大きい有名クランで、百年前から続く 老舗(しにせ) クランだ。
王都の冒険者は殆どクラン『聖なる誓い』に所属しているほどだ。
迷宮都市にも進出していて、迷宮都市の有名なクランの一つでもある。
「ああ、他にもクラン『栄光の 階(きざはし) 』にも参加してもらう。本当は自由の翼だけでも良いのだが、他のクランを差し置いて自由の翼だけを護衛にする訳にもいかなくてな」
「ははは、そうですね」
「まぁ、聖女の一番近くで護衛するのは聖騎士と決まっておるから、自由の翼や聖なる誓いにはその周辺を警戒して貰えればそれで良い」
「ふむ……聖騎士ですか」
「ああ、神聖オウル法国では、聖女に必ず聖騎士を護衛につける決まりがある。聖騎士は騎士千人程の強さがあると言われておるから、賊ぐらいは一人で殲滅してしまうだろうな」
「それは、頼もしいですね」
「ああ、まあ、 幻金級(オリハルコンランク) のルクス殿には負けるだろうがなぁ」
「さぁ、どうでしょう……戦ってみないと分かりません」
「……他国の聖騎士に戦いを挑んだら外交問題に発展しかねないから、絶対に止めてくれよ、ルクス殿」
「あははー、大丈夫ですよ、陛下。流石に分かりますって」
ルクスは冗談ですよ、と言って笑った。
「ちなみにだが、護衛には勿論、王国騎士団も派遣する。くれぐれも聖騎士と戦うなどという真似はしないでくれよ?」
「はい、分かりました」
釘を刺してくるシリウスにルクスは苦笑した。