作品タイトル不明
第109話 聖女護衛依頼に向けて
舗装されていない土の道の上を豪奢な馬車が白馬に曳かれて進んでいく。
中にいる金髪に紫の瞳を持った美少女──聖女ヨナは、あまりに酷い揺れの為、馬車酔いに悩まされていた。
神聖術を使えば酔いは覚めるだろうが、ヨナは馬車酔いくらいで使う気はなかった。
開け放たれた窓から心地よい風が入ってくるので、その風に当たって、ヨナは酔いを少しでも治そうとしている。
ヨナは窓の外を眺め、平原の向こうの空に何か黒い点のようなものを見つけた。
その黒い点はだんだんと近づいてくる。
やがて、それがワイバーンだということにヨナが気付いたとき、白馬に乗っている黒髪に青い瞳を持つ壮年の聖騎士が声を上げた。
「ワイバーンだ!皆、警戒せよ!」
壮年の聖騎士は馬を 駆(か) って、ワイバーンの方角へと向かう。
片手剣を抜いた聖騎士は、ワイバーンに向かって剣先を構え、口を開いた。
「【聖なる光の剣】!」
剣が光輝き、剣先からワイバーンに向かって、 眩(まばゆ) い光線が放たれた。
ワイバーンの腹辺りを貫いた光線はやがて、収束し、消えた。
宙から落ちたワイバーンの腹にぽっかりと大穴が開いていた。
「【聖炎】」
聖騎士は屠ったワイバーンの 骸(むくろ) を聖なる炎で燃やし尽くした。
残った魔石をアイテムポーチに入れた聖騎士は馬車の近くに戻ってきた。
ちなみに、魔石を放置すると、他の魔物が魔石を食べて強化されることがあるので、魔石を回収するのはこの世界の常識だ。
まぁ、お金になる魔石を放置する者はいないだろうが。
「聖女様、ワイバーンは討伐いたしましたので、ご安心下さい」
「そう……ありがとう、セラヤ卿」
聖騎士──セラヤは「とんでもございません」と言って一礼し、神殿騎士たちに進むよう指示する。
ヨナは辛抱しなければ、と思いつつ、背もたれに寄りかかった。
まだ見ぬアルヒ王国に思いを馳せて。
一方、アルヒ王国王都にあるクラン自由の翼本部には、団長のルクスと副団長のエドヴィンを中心としたクランメンバーが全員集まっていた。
ルクスが口を開いた。
「皆、集まってくれてありがとう。今日は国王陛下からの依頼に派遣するメンバーを発表するので、集まってもらいました」
ルクスは副団長のエドヴィンに目配せした。
「では、私から国王陛下の依頼について説明します」
エドヴィンがシリウスからの依頼を説明した。
他のクランも参加するとはいえ、聖女の護衛という大役に自由の翼の面々は戦々恐々とした。
「えーっと、こちらで先に選定しておいたメンバーを発表します。これは仮のメンバーなので、追加も可能です。まずは、黄金の導。ちなみに学生のアランとクラーラは今回の依頼は受けられないので、不参加です」
バートは嫌そうな表情を浮かべた。高貴な人の護衛で何かやらかしたら怖いからだろう。
アランとクラーラはメンバーから外れて安堵した表情を浮かべた。
「次に、自由気まま」
自由気ままのメンバーは不安そうだ。
「最後に人それぞれ」
人それぞれのメンバーも不安そうな表情だった。
「風任せと追い風はそれぞれ屋敷でお留守番ね。風任せと追い風の中で今回の護衛に参加したい人がいれば、参加していいよ」
風任せと追い風のメンバーは全員首を横に振った。
「……うん、まあ、聖女の護衛って緊張するもんね。俺たちは聖女から少し離れたところで護衛する筈だから、大丈夫だよ。聖女の一番近くで護衛するのは聖騎士だし」
不安そうにしていた自由気ままと人それぞれの不安の色が薄れた。
離れた場所なら大丈夫だろう、と。
「じゃあ、俺は自由の翼から派遣するメンバーは、黄金の導と自由気ままと人それぞれに決まったって陛下に知らせてくるよ。皆は、護衛するための準備をしておいてね」
それじゃ、と言ってルクスは部屋を出た。
残されたクランメンバーは護衛の準備について、がやがやと話を始めた。
その後、ルクスは国王に選定したメンバーの名前が記載された羊皮紙を提出した。
王国騎士団とクラン『聖なる誓い』の準備に一週間は掛かるため、出発が 礎月(イェソド) 十二日になるということを確認したルクスはクランメンバーに共有して、護衛依頼出発日を待ちつつ、鍛錬に勤しんだ。
鍛錬に勤しむルクスのもとに迷宮都市の商人ギルドから手紙が届いた。
手紙には一枚の設計図が同封されていた。
設計図が問題なければ返信が欲しいという内容の手紙を読んだルクスは、設計図に目を通した。
設計図に問題がないことを確認したルクスは、了承の返事を書いて、商人ギルドに向かった。
商人ギルドは郵便業も行っている。
使い魔のソルに届けさせるという選択肢もあるが、明日にはルクスが聖女の護衛に出発してしまうので、ソルに届けさせる訳にもいかないからだ。
ルクスは郵便の受付で返事の手紙を迷宮都市の商人ギルド不動産部の部長に送る手続きをした。
拠点は聖女の護衛を行う期間の間に完成するかもしれないな、と思いつつ、ルクスは商人ギルドを後にした。