軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レベル8へ

Dランクダンジョンの森の中へ入ると、全長3メートルはある熊――スローベアと遭遇した。

黒い毛並み。どっしりとした筋肉質な体は威圧感があり、見る者に恐怖を与えた。

そんなスローベアの近くには――全長50センチほどの子熊が3体。

あろうことか、スローベアはその子熊の首根っこを掴み――影山めがけ、思いっきりぶん投げた。

「……」

投げられた子熊は悲鳴も上げない。

まるで投げられるために存在していると言わんばかり。

しかしその勢いは凄まじく、時速130キロは出ていそうだ。

『うわ、でた』

『味方を投げるモンスター』

『シュールな戦い方だなぁ』

『ていうか絵面残酷だよ』

『投げられる子熊の気持ちになったことがあるのだろうか』

『ダンジョンのモンスターらしい、自然じゃありえない行動』

『親子なのかな』

『そういう概念あるのか、こいつらに?(笑)』

『でもこの熊、強敵だからな』

『二キ、投擲も肉弾戦も気をつけて。パワーやばいから』

両者の距離は、15メートル程度。

しかし影山は小さく右へ素早く飛び、回避。

投げられた子熊は木に直撃。

どすん、と木が揺れて重々しい音が響いた。

そしてそれが致命傷となり、子熊は消えていく。

だが、魔石は落とさない。

小熊はスローベアの弾丸のような存在だ。

スローベア本体じゃないと、魔石は落とさない。

「グアアアア!!!」

「よっと」

続く2投目も回避。

影山の動きは軽やかで、コンパクトだ。

スローベアの投擲を華麗に避けていく。

「影山さん、最後の1頭は30センチほどで、軽いです。よりスピードが上がるので注意してください!」

「わかった」

朝日のアドバイスに影山は頷く。

昨日は余計なことを言ってしまったが、特にギクシャクはしていない。

朝日からその話題に触れることはなかった。

だけどつい、心配してしまう。

探索者引退に、未練はないのか。

やっぱりどこか、引きずっているんじゃないかと。

(よし。3投目を終えたら、こっちから仕掛ける)

スローベアが右腕を思いっきり振るい、投擲。

朝日の警告通り、小さく軽い子熊な分より速度が上昇。

150キロは出ているだろうか。

しかし最後の3投目も、コンパクトな動きで左に飛んで避けた。

そしてすかさず前へと飛び出し、熊へ近づく。

「――透視スキル、起動」

瞳が青く光る。

高い俊敏で素早く近づき、【大ダメージ付与】の胸を狙った。

しかし熊は瞬時に両腕をクロスさせ、ガード。

両腕を金色の刃が傷つけたが、急所は守られた。

「グアアアア!」

反撃の右腕が振り下ろされる。

爪が木の幹を紙のように裂き、破片が飛び散る。

影山はギリギリで後退し、風圧で髪が揺れた。

ウォールブレイカーを構える。

狙うは――【スタン付与】の頭部。

引き金を引く。

金色の弾丸が一直線に走り、スローベアの眉間へ命中した。

「グっ、グウううっ!?」

どすん、とスローベアが膝をつく。

地面が震え、落ち葉が舞った。

強力なスタン付与により、動けなくなったのだ。

「もらった」

ガラ空きの胸へ向けて、ウォールブレイカーを一閃。

胸の“青白い線”へ金色の刃による斬撃が入った。

「ぐっ、ルゥ……」

どすんっ、とスローベアの巨体が倒れる。

その姿は消え、魔石となっていった。

『お見事!』

『動きにムダがない』

『素人剥き出しの頃と比べると、本当良くなった』

『成長スピードエグい』

『配信外でも努力してそう』

「ありがとうございます」

朝の素振りや体力づくり、自分の戦闘動画を見返すことは、無駄ではなかったのだろう。

1つ1つの努力が、実を結び始めている。

そしてシステム音が、レベルアップを告げた。

『――影山 光のLVが8へ上昇しました。HP+10 MP+6 攻撃+5 防御+6魔力+5 精神+6 俊敏+10』

影山 光 LV7→8

HP 63→73

MP 22→28

攻撃 13→18

防御 18→24

魔力 14→19

精神 16→22

俊敏 53→63

なんだか、今までのレベルアップよりも全身から力が湧くような……そんな手応えがあった。

『3と4中心から、5や6が多くなったね』

『基礎値も高くなってきたよな』

『てか、俊敏の伸びがエグい』

配信アプリを見ると、接続数は19300。

もうすぐ、20000を超えそうだ。

だが――影山の胸は晴れなかった。

(強くなってる。数字も伸びてる。だけど……)

チー牛と呼ばれていた、社畜時代を思い返す。

(俺はあの時、あさひちゃんに救われた)

孤独で、誰にも必要とされていなかった頃。

朝日の笑顔が、声が、救ってくれた。

(この仕事を始めたきっかけだって、あさひちゃんだ)

才能がなくても、関係ない。

あさひは影山の“推し”だ。

(今度は――俺が朝日ちゃんを救いたい)

配信者として。

探索者として。

人として。

(どうすれば“誰かを救える配信者”になれるんだろう)

影山はコメント欄を見つめながら、静かに拳を握った。