軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

散っていった夢

「……なるほど。あなたの推しを弊社でサポートしてほしいと」

「はい。朝日ちゃんの可愛さなら、もう人気爆発です」

「どのくらいの収益を見込んでおられますか?」

「え?」

「推定されるフォロワー数は? そしてそれを達成できる期間は?」

「……」

つい、言葉を失う。

しかし橘の声は、優しいものであった。

「大変、失礼いたしました。ですが、これが我々の仕事なのです」

「……いえ」

「驚きました。今のあなたは、昔の私と似た境遇になっていますね」

「似た境遇……?」

「はい。お気持ちは、痛いほどわかります。自分の推しの、輝く姿を見たい。あれをやってほしい、これはダメだけど、こうなってほしい。推しを推すのではなく、自分の中の推しを推しているんです」

「そ、それは」

なにか言おうと思ったが、少し冷静になった。

たしかに、橘の言う通りだ。

(俺は、朝日ちゃんがどういう思いで、どういうことを考えて、今のポジションを始めたのか。探索者を引退したのか。そういうこと、ちゃんと考えただろうか。一度だって、朝日ちゃんの気持ちに立ったことが、あっただろうか)

「影山さん」

「はい」

「私の昔話をしていいでしょうか。きっと、あなたの参考になるはずです」

電話越しだが、影山はこくりとうなずいた。

「……どうぞ」

「もう20年前の話ですが。当時の私は、仕事の調子がとてもよく、それなりの立場へと就任することが出来ました。会社としても、ダンジョン配信 黎明期(れいめいき) ということもあり、多くの配信者がしのぎを削る熱い時代でした。そんなとても忙しく、ハードな時期の心の支えが、当時私が推していた“みゅうチャンネル”でした」

(俺もそうだったな……)

社畜時代。チー牛と呼ばれ、会社でひどい扱いを受けていた日々の支えが、あさひチャンネルであった。

あさひの明るさに、可愛らしさに支えられていた。

暗い日々の中でも、光輝いていた。

そんな彼女の姿を、影山は推していた。

「私は弊社に、みゅうさんを推薦しました。上からは“収益の見込みがない”ということで止められていましたが……当時の私は、みゅうさんを弊社の力でサポートしたいという一心で、無理やり契約を通しました。みゅうさんもやる気十分で、心の底から喜んで、この話を引き受けてくれました。しかし――活動を続けても、思うように数字が伸びませんでした」

橘が息を吐く。

「そして同じ弊社所属の、他のダンジョン配信はドンドン伸びていきました。彼女だけが……みゅうさんだけが、伸びませんでした。2年間は活動してくれましたが、その後は引退を発表。最後に彼女は本社へあいさつに来ました。その時の彼女の言葉は、今でも忘れられません。“期待に答えられなくて、ごめんなさい。こんな私でごめんなさい。今までありがとうございました”そうおっしゃっていました」

当時を思い出し、橘の声は震えていた。

「そんな彼女に、私はなにも言ってあげられませんでした。その後の彼女はどうなったかはわかりません。どうか幸せでいてくれればいいですが……この時の出来事が、今の私の 戒め(いまし) となっています」

「戒め……」

「はい。誰かをプロデュースするということは、その人の人生を左右してしまうことです。責任が伴います。少なくとも私は、あの時のような思いを二度とさせたくありません。影山さんの朝日さんを思う気持ちはわかりますが、朝日さんは探索者としての見込みが低いです。LVが上がっても、ほとんどのステータスが1程度しか上昇しないのです」

「……」

「どうですか。この話を聞いても、彼女を弊社所属の探索者として推薦したいですか?」

影山は首を横に振った。

「いえ……考えが、甘かったです。それに朝日ちゃんの気持ちをなにも考えてませんでした」

「そうですね。彼女も当初は探索者志望でしたが、あなたの存在を知ってから技術者兼オペレーターとしての道を選びました。朝日さんなりにも、 葛藤(かっとう) や決意があると思いますよ」

「はい……」

ふと考えてしまう。

影山から探索者は再会しないのかと言われた時の、朝日の気持ちはどんなものだったか。

「こういった仕事をしているので、全ての夢が叶うという言葉は信じていません。ですが、なにも悲しむべきことではないのです」

「そうなんですか?」

「人は生きている限り、何度も夢を見続けることができる。私はそう考えています」

ふと思う。なし崩し的に、壁破壊二キになった。

ネオ・ファンタジアとの専属契約も、流れだ。

だけど今の話を聞くと、朝日の過去を考えると……今の仕事は、このままの状態で続けていいものなのか、疑問であった。

「活動、支援を続けますよ。またなにかあったら、連絡をください」

「はい。ありがとうございます」

「いえ。では、また」

電話を切る。

明日、なにか朝日に言った方がいいだろうか。

少なくとも、余計なことを言ったのは明らかだ。

だけど、言葉が浮かばない。

また触れていいことなのかも、わからなかった。

(こういう時。陽キャって、どう声をかけるんですか)

答えはなにも、浮かばなかった。