作品タイトル不明
休日。切り抜き動画を見る。
ネオ・ファンタジア所属となって初の配信を終えた次の日。
休日をとることにした。
ここ最近は色々なことが一気にありすぎたので、リフレッシュしたいと思ったのだ。
朝食を摂り、トレーニングを終えた後、自宅のアパートでフォロワーの数を確認する。
「……フォロワー88901!?」
10000人ですごいと思っていた数字が、一気に8倍へ膨れ上がっている。
これがネオ・ファンタジア所属による補正といったところだろう。
大手所属だから、という理由でなんとなくフォローする人も多いらしい。
10万人突破も夢ではない。
「実感が湧かないな……」
少し前までチー牛と呼ばれた、冴えない社畜であった。
「人生、わからないものだな……」
そんなことを呟きつつ、エゴサというものをしてみた。
すると壁破壊二キの切り抜き動画があがっているのを見る。
ライブ放送したものを編集して、20分の短い動画にまとめられているので、とても見やすい。
冒頭で披露した三点倒立から動画は始まる。
改めてみると変なことをしているなと、自分のことを冷静に見てしまう。
(にしても、朝日ちゃんの喋りはほとんどカットされているな……)
配信の主役はあくまでも冒険者。
オペレーターやスタッフはあくまでもサポートで、裏方なのだ。
逆にそういった者達が自己主張してしまうと、荒れがちになる。
“配信者が面白いのであって、そこの社員はオモロくない”なんてコメントは、よくある批評であった。
ダンジョン配信がエンタメ化した昨今、探索者はタレントのような扱い。
サポーターの朝日が目立たないのは、チャンネルとしてはプラスだ。
しかし影山としては、納得がいかない。
(こんなにも推せる存在なのに……)
ちなみにオペレーターとしては結構やらかしていて、3時方向と言って実際には9時方向であったりと、視聴者にツッコミを入れられていたのだが、切り抜きではカットされている。
というか、コメントにめちゃくちゃ怒られていたのを思い出す。
(ドジなところが可愛いのにな……永遠に方向を間違えてくれ……)
技術者としてはすごいらしいが、オペレーターとしては中々アレな朝日であった。
影山的にはとても幸せそうだが。
(というか朝日ちゃんって、本当に探索者はもういいのだろうか)
そんな疑問が脳裏をよぎる。
エンジョイ勢になった朝日だが、最初からそうだったわけではない。
むしろ初期は、フォロワー100万人を目指すとか、そんなことを言っていたのだ。
(まだ夢を諦めるような年でもないし、未練があるのでは。大体、絶対に才能があるはずなのにもったいない。ぜひとも輝いてほしい)
そしてネオ・ファンタジア繋がりで配信すれば、いくらでも人気なんて出そうな気がする。
(現に俺のような地味な冒険者がこんなに伸びている……ちょっと、話をしてみようかな)
なんてことを考えながら、ボーッと動画を見ていると、内容は後半戦へ突入した。
「俺が俺を見るのは変な気分だな……」
戦っている姿は自己分析になるから良いが、しゃべっている時の映像を見るのは恥ずかしかった。
そして動画の最後に――スパチャに答え、ウインクしている自分を見た。
顔真っ赤で、不格好なウインクである。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~~~~~~っ!!!」
恥ずかしさのあまり、影山は悶絶した。
☆
「か゛わ゛い゛い゛~~~~~~~~ぃ!!!」
切り抜きのウインク映像を見て、朝日は自宅で悶絶していた。
ちなみにリピートでもう10回は見返していて、10回ともシャウトしている。
マンション住まいなのだが、隣人による壁パンチが炸裂しそうな勢いの声量だ。
幸い、この時には出かけていたようだが。
「影山さん……これは沼る……あっ、よだれ出た。ジュルリ」
限界化で出たよだれを服の袖で拭きつつ、はぁ、一息つく。
「きっと影山さんは、私と違ってすごい人になるよね……」
実は朝日も、人生が後ろ向きになり始めていた時期があった。
現在の年齢は25歳。
元々は冒険者志望で、ダンジョン配信に憧れていた。
可愛くて、人気で、強い。
そんな女の子の冒険者になりたいと思った。
だが……絶望的に、才能がなかった。
ネオ・ファンタジアから話が来た時も、技術者ではなく冒険者として契約を結びたいと、橘に申し出た。
しかし橘は首を縦に振らなかった。
『あなたには、才能がありません』
はっきりと、告げられた。
(……わかっているよ、そんなこと)
女の子友達と共に、華々しい冒険者を目指した。
だけど、大成はしなかった。
途中から、自分達には才能がないとわかり始めた。
年を重ねるごとに、友達は徐々に他の夢を追いかけた。
結婚して、家庭を作り始めたのである。
普通の女性としての、幸せを欲しはじめたのだ。
しかし朝日は、まだそんなことを考えられなくて。
副業として、技術アドバイザーをやっていた。
そんな時に見つけたのが、DQNを成敗したあの動画なのだ。
影山をサポートしたい。
かっこいい彼が輝くのを、支えたい。
それが朝日の、新しい夢となったのだ。
「……未練なんて、ないよ」
素敵な夢だ。
やりがいもあるし、影山のこれからを考えるとワクワクする。
そこに関われることに、誇りを感じる。
それなのに。
どこか胸の奥に、引っ掛かるものがあった。
「未練はない、はずなのに」