作品タイトル不明
史上最強の金属
「驚きました……まさか、あさひちゃんがいるなんて」
支部の2階の面接室へ移動し、3人で椅子に座った後、影山が汗ダラダラでそんなことを言う。
ネオ・ファンタジアの営業担当取締役、橘 遠矢は少し困ったような表情を浮かべた。
「いえ、あの、驚いたのは我々の方でして……いきなり気絶なさるとは」
(当たり前だろ。引退したはずの推しと、生で会えたんだから)
影山は呆れた。
あさひちゃん――改めて、朝日はえへへ、と笑みを浮かべた。
「あんな過疎チャンネル見てくれる人がいたなんて、嬉しい~。握手でもする?」
「……ぐほっ」(※倒れた)
「朝日さん。あまり影山さんを刺激しないでください。また気絶したじゃないですか」
「ええっ!? ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……あわあわ、大丈夫? 影山さんっ」
推しの声によって、影山の意識が戻る。
目の前で朝日がいる。
声が聴ける。
消えたはずの推しが……元気でいてくれる。
(ああ……最高だ……推しが、この世界にいてくれる。こんな幸せなことはない)
「影山さん。そろそろ本題に入りたいのですが……私の方を見てもらってもいいでしょうか」
「え? ああ……はい」
影山は橘の声で、ようやく現実に戻った。
「今回、影山様が獲得した“オリハルコン”は、結論から言いますとダンジョン産史上最強と呼べるスペックがあります」
「し、史上最強……?」
いきなりスケールが大きすぎて、実感がわかない。
影山はダンジョンの壁を透視して、その中にある宝を獲っただけだ。
「はい。魔力濃度、硬度、耐久性、重量……その全てが、規格外の数値です。値段をつけるのも、とある特殊すぎる特性によって、極めて困難なものとなりました」
「特殊すぎる特性?」
「鑑定スキルによって、メッセージはこう告げたようです。“この金属は採取者にのみ、真の力を発揮する”と」
「えっ」
「つまり、史上最強と呼ばれるSSSランク金属“オリハルコン”を装備品として加工した時、使いこなせるのは世界でたった1人。影山 光さんのみとなります」
思わず、体が震えた。
5億円した金属が、自分にしか扱えない。
しかも史上最強……探索者業界を揺るがすような金属だ。
「オリハルコンをエネルギーとして解体するという道はありますが……正直、それはもったいないと我々は判断しております。この金属はぜひ、影山様専用装備の素材としていきたい。さらに」
橘はちらり、と隣に座る朝日を見た。
「齢25にして、世界基準で見ても最高クラスの“クラフトスキル”を保持する技術者、朝日 ほとりへ我が社精鋭の技術スタッフを送り、最高峰の装備品を用意しようと考えております」
「あ、朝日ちゃんって、そんなすごい人なんですか……?」
えへへ、と朝日は照れ笑いをした。
「クラフトアイテムは、名前も顔も伏せる覆面職人のスタイルだったから。業界でも正体を知っている人は、ほとんどいないんだけどね。ネオ・ファンタジアさんでも、ごく一部の人だけにしか、正体は明かしてないんだ~」
「なるほど……」
「でもこれからは、探索者を支える人として、表舞台に立とうかなって」
朝日は顔を赤くした。
「事務員さんを助ける映像を見て……こんな素敵な影山さんの、力になりたいなぁって。あなたのためにこの技術を使いたいって、はじめて思えたの」
「っ!?」
推しが自分を認知していて、素敵と言ってくれた。
しかも自分のために装備を作ってくれるという。
心臓がバクバクと、破裂寸前のごとく高鳴る。
「専用装備の開発もね、もう終わっているの。これはその、設計図」
朝日は資料を机の上に広げ、それを影山の方へ渡した。
影山は過呼吸になって限界化しつつ、資料を見た。
そこにはガンブレードの絵と、配信で見たようなかっこいい衣装の絵があった。
橘が補足をくわえる。
「そちらの衣装は、シャドウスパイダーの糸をメインに作られています」
(やっぱりあれも、ネオ・ファンタジアが買い占めたのか)
資料を見ていると、橘が最後の一押しをする。
「影山さん。ぜひとも、弊社と専属契約を結んでいただきたいです。我が社の最高峰のバックアップによって、あなたをサポートします」
今まではここで、橘は引いていた。
だけど今回は違った。
「この素材は、世界が欲しがります。ですが扱えるのはあなた一人。もしも断れば、世界中があなたの力を欲することでしょう。そこで弊社の所属となれば、弊社の加護を得られます。大きな影響力がある会社なので、抑止力は高いです」
朝日はあっ、と声をあげた。
「す、すぐに返事しなくていいんだよ? 影山さんが、専属契約に前向きじゃないことは、知っているから」
影山は資料を見ながら、じっと考えた。
(世界中から狙われる、だなんて。そんな……)
なんだか、どんどん自由が失われているような気もする。
だけど同時に、この話がかなり大きいことだということは、わかっていた。
(俺は、どうしようか)