作品タイトル不明
ウォールブレイカー
「……条件があります」
影山が言うと、橘はこくりとうなずいた。
「なんでしょうか」
「これまで通りの、自由な活動を約束してほしいです。案件やコラボなどは、やるつもりはないので。それでも良いというのであれば、契約します」
「ありがとうございます。影山さんの配信は見ております。これまで通りの活動で、我々としてもかまわないので、ぜひともよろしくお願いいたします」
渡された契約書や書類へと目を通す。
しっかりとその1つ1つの内容を確認した。
重要なところをまとめると、このようなことが書かれている。
・今後、ダンジョン攻略による報酬はネオ・ファンタジアへ売却する。
・探索者管理義務は一部、ネオ・ファンタジアへ完全移行。
(※AIなどで協会は保護していたが、今後の管理責任はネオ・ファンタジアになるという意味。
契約した探索者が問題行為をした場合、ネオ・ファンタジアにも責任が問われる。)
・ライブ配信の制約はなし。アカウントの運営権限も影山氏が主導となる。
まだまだ細部に内容はあるが、こんな感じである。
芸能人とタレント事務所に近い関係性だろう。
サインをし、影山は正式にネオ・ファンタジアの所属となった。
(大丈夫だろうか……)
正直、勢いで引き込まれた感じはある。
なによりも……。
「?」
じっと見られた朝日が小首をかしげる。
影山とて男。
正直、推しに近づきたいという、そんな下心がないわけじゃない。
見守っているだけで満足だったのに、いざ目の前にいるとなると、話が変わってくる。
(でも話を聞く限り、朝日ちゃんもネオ・ファンタジアの人間ってわけじゃないよな)
あくまでも開発アドバイザーなので、ネオ・ファンタジアと連携している、フリーのクリエイター……といった感じなのだろう。
「では、さっそくですが。ネオ・ファンタジアの開発支部へ移動しましょう」
「え? なにかあるんですか?」
「はい。専用装備の試着・試運転です。とても素晴らしいクオリティなので、必ず気に入ってくださると思います」
橘の言葉に、朝日はこくこくと頷いた。
「影山さんのために、がんばって作ったから! えへへ、これからよろしくね!」
☆
橘の運転する車によって、20分ほど移動。
やがて8階建てのビルへと到着した。
駐車場に車を停め、3人で降りる。
橘は途中で別れ、朝日は5階のテストルームへと移動した。
無機質な白い床と壁が広がる、生成されたアイテムの試運転を行う部屋だ。
かつて影山がお店で壊した、毛皮人形も置いてある。
そして更衣室に案内された影山は、新たな衣装、装備に身を包み――朝日の待つ、テストルームへと入った。
「ど、どうも……」
「わ~! 似合っているよ、かっこいい!」
顔を赤くして、瞳をキラキラさせる朝日だが、影山は落ち着かなかった。
中々に、派手なデザインの衣装なのだ。
前が開かれている、ワインレッドのジャケット。黒のシャツに、白のズボン、黒い靴。
腰のガンベルトには、魔石の入った黒色のマガジンが4つ装着されている。
(こういう服は着ないからな……でも、驚くほど着心地が良い)
最高峰の技術を使われているだけあり、服はびっくりするほどフィットして、着た瞬間に体が軽くなった。
靴に関してはどういう理屈なのか、足音がほとんどしない。
それでいて地面をしっかりと踏ん張れるグリップ力があり、動きやすかった。
「どう? サイズはピッタリ?」
「ああ。どうして……?」
「何度もアーカイブを見返して、何度も解析したからね~。影山さんのパフォーマンスを200%引き出せる衣装になっているはずだよ」
(に、200%……?)
最大どころか、上振れている。
そして最大の目玉は――これからだ。
アイテムボックスから、受け取った特注のガンブレードを取り出す。
その刃の素材は――オリハルコンだ。
「……っ」
剣を取り出し、握った瞬間から――感じた。
大きな、大きな力だ。
剣のグリップを手に取っただけで、体の中へ力が流れてくるような熱さがある。
そしてガンブレードはそのデザインからも、威風堂々《いふうどうどう》たる豪華な印象を与えた。
刃の部分は鋭く、金色に輝いている。銃の部分も金色を基調としており、グリップとスライド部分は黒色となっていた。
(手に取っただけでわかる。これはとんでもない武器だ)
手応えを感じている影山に、朝日はにこりと笑みを浮かべた。
「――ウォールブレイカーって、名づけようと思っているんだけど。どうかな?」