作品タイトル不明
第二話
(さっさと終わらないかな……いい加減無理なことに気づけばいいのに……まあ、立場的に無理なんだろうけど)
俺はあくびをかみ殺しながら、目の前で見苦しい言い訳でこの場を切り抜けようとしている男を見ていた。
(クレアなんか、堂々とあくびしているな。まあ、クレアに関してはここに来た時から眠そうだったから、どうせ昨日夜遅くまで説教でもされていたんだろう)
などと思っていると、クレアの横にいたオーエン枢機卿がクレアの脇腹を小突いた。
「ふひっ! ……くしゅん」
脇腹を小突かれてたまらずに声を出したクレアだったが、すぐにまずいと思ったのかくしゃみをした振りをして誤魔化していた。
まあ、何人かは嘘臭いくしゃみだと思っているだろうが、未だに言い訳を続ける男よりは何十倍もましなので気にはしないだろう。
もっとも、クレアの横にいる枢機卿はため息をついていたので、あくびをしたことと合わせて後で小言くらいは言われるだろうけど。
この場であの男に味方をする者は一緒に来た数人しかいないが、そいつらもこの場の雰囲気に呑まれて助け舟を出せずにいる。
まあ、もしかするとすでに諦めているからかもしれないけれど。
「ふぅ……そちらの言い訳は聞き飽きた。かなりの譲歩をしているというのに、それに納得できないというのならこちらにも考えがある。オーエン枢機卿はどう思われるか?」
ウーゼルさんがイラついた様子でオーエン枢機卿に意見を求めると、
「致し方のないことでしょう。バルムンク王国の要求は至極まともであったと思われます。それに納得できないというのなら、ファブール国がバルムンク王国に や(・) り(・) 返(・) さ(・) れ(・) た(・) としても仕方のないことでしょう」
オーエン枢機卿がウーゼルさんに同調したのを見て、ついに男はどうにもできないと理解したのだろう。
「どうやら、ファブールからの旅の疲れが出たようだな。先程の控室にお連れして差し上げろ」
白目をむいてひっくり返りそうになり、床に倒れる前に仲間に支えられた男を見て、カレトヴルッフ公爵が指示を出した。
「他の者たちも、同様に疲れておるだろう。続きは少し時間を空けてからにするとしよう」
ウーゼルさんが、他のファブールの関係者も追い出すと、
「さて、次はそちらとの交渉だな」
「ええ、お手柔らかにお願いします」
オーエン枢機卿と笑いあった。
まあ、交渉と言っても、すでにどうなるかは話し合って決めているので、ここでは皆の前で最終確認する感じだ。
(本格的に眠くなってきたな……)
何も言わずにずっと立っているだけだったので、いっそこのまま寝てしまおうかと思っていると……視界の端に、一足先に夢の世界に旅立っているクレアの姿が見えた。しかし、
「ふぐっ!」
またもや横にいたオーエン枢機卿に、脇腹を突かれ……というレベルではない一撃を食らい、床に膝をついてしまった。
流石にそのまま床に膝をつかせたままというわけにはいかないので、後ろに控えていたフレイヤが手を伸ばしかけたが、その前にオーエン枢機卿に腕を掴まれて立たされていた。
聖国の枢機卿というくらいだから、会う前はどんな堅物でうるさい人かと思っていたが、割と俺たちに近い常識を持っていて話しやすい人だった。
(まあ、そうでないとあのクレアがあそこまで懐くことは無いだろうな)
「ヴァレンシュタイン子爵殿、今回もクレアが迷惑をかけてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
オーエン枢機卿がシスターマルゲリータの教会に到着したという知らせを受けた俺は、ファブールの使節団が来る前に俺と話がしたいという枢機卿の要望を受けて教会に足を運んだのだが、枢機卿は俺の顔を見るなり頭を下げて謝罪してきた。
いきなり枢機卿に頭を下げられるとは思っていなかった俺と、俺の護衛としてついてきたガウェインとランスローさんはかなり焦ったが、それ以上に枢機卿に付いてきていた聖国の関係者たちは驚いていた。
「それに加え、スタッツのダンジョンの時にも、私どもの関係者が迷惑をかけてしまったと聞いております」
「いや、まあ……確かにそうですね」
それに関しては俺は完全に巻き込まれた方なので、どう考えても否定できない。
そんな俺の態度が不満だったのか、クレアが口を開きかけたが、
「お前は少し黙っていなさい」
「いひゃい!」
枢機卿がクレアのほほをつねって引っ張り、強引に黙らせた。これに関しては枢機卿のお付きたちが驚いた様子を見せなかったので、いつものよくある光景なのだろう。
ただ、今回の一行の中にはオーエン枢機卿の敵対派閥の者も紛れていると言っていたので、俺に謝罪しているところを見せても大丈夫なのかと心配になったが、
「ああ、そう言えばこの場には私の対立派閥のものはおりませんので、安心してください。ここにまだ来ていない私の派閥の者を監視に付けて、別の教会に向かわせております」
すでに手を回した後だった。
それなら少しは安心できるが……流石に思考を読まれるとは思っていなかったので驚いてしまった。
もっとも、俺と枢機卿では経験も年期も比べ物にならないので、仕方のないことかもしれないけれど。
「それで、子爵殿に来ていただいた理由ですが……ウーゼル国王陛下と秘密裏にお会いできませんでしょうか?」
「無理です。俺にその権限はありません」
やはりそう言った目的があったのかと思ったが、事前にその可能性については考えていたので、即座に断った。
まあ、実際にかなり目をかけてもらっているし、カラードさんとサマンサさんのおかげでかなり親しい関係であると言えるが、それとこれとは別問題だ。
バルムンク国王とその家臣という関係上、そんなことを勝手にやっては下手をすると俺の爵位を返上するだけではすまず、カラードさんたちにも迷惑をかけることになる。
「まあ、確かにそうでしょう。ただ、これは互いの為になる話です。具体的に言うと、少し調子に乗っているファブールを抑える為に、共同戦線を張りたいと言うものです」
「共同戦線?」
「ええ、今回ファブールは、バルムンク王国との戦争をなかったことにしたい、もしくは 侵(・) 略(・) による損害賠償を出来る限り少なくしたいという狙いがあります」
それに関しては王国側も十分に承知していることだ。
「そして、その為に聖国に仲裁を求めてきました。その代価として、天聖教を正式にファブールの国教とし、国内に教会を出来る限り多く建てるなどの優遇措置を取ると言っております」
「その条件を聖国が飲んだからこそ、オーエン枢機卿猊下はここにいるのではないですか?」
「正直に申しますと、一部の派閥がその条件に魅力を感じ、その手の者が名乗りを上げる前に私が立候補したのです。そして、私が立候補した時点では私と同格の者は名乗りを上げていなかったので、早い者勝ちということで私が選ばれたのです」
それでも、普通は枢機卿と呼ばれる人が選ばれるとは思えないのだが……もしかすると、聖国の上層部はそれだけ迷っているのかもしれない。
そうだとすると、もしもオーエン枢機卿の提案を断った場合、聖国は完全にファブールの味方になってしまう可能性がある。
「少し考える時間を頂けますか?」
「ええ、構いません。我々も旅の疲れが残っているので、少し休憩にしましょう」
「それで、これからどうするつもりだ?」
「まあ、ジークの持つ権限を越えている話ですから、まずはカラード様に相談ですね。私がカラード様を呼んできましょう」
控室として提供してもらった部屋で俺たちは緊急の会議を行い、ランスローさんがカラードさんを呼びに行こうと立ち上がったが、
「ランスローさん、カラードさんは俺が呼んでくる。裏道を使えば俺の方が早く着くし、気が付かれる可能性は低い。二人はカラードさんが来るまでここで待機」
「了解」
「了解しました」
枢機卿たちならともかく、あまり他の人たちに急いでカラードさんを呼びに行っているところを見られるのはまずいので、陰に隠れながら移動できる俺がこの中では一番適しているだろう。
二人もそれは理解していたので、緊急事態ということで俺だけで行くことに納得したのだろうが……
「あっ! ジーク、行く前にお菓子をいくつか出しておいてくれ!」
ガウェインは休む時間が出来たくらいにしか思っていないのかもしれない。
流石に少し頭に来たので、無視してこのままヴァレンシュタイン邸に向かおうとしたところ、
「ジーク、 私(・) は(・) クレア嬢対策の為にお菓子が必要かと思います」
ランスローさんがそう言うので納得し、クレア用のお菓子をいくつかランスローさんに預けることにした。
そして、お菓子を渡した後で影に潜って移動を開始したのだが、潜る寸前に「俺の分は?」というガウェインの声と、そのすぐ後にランスローさんがガウェインを殴る音が聞こえた。
「成程、よく知らせに戻ったな。確かにジークでは荷が重い話だ。ただ、陛下に近い立場にいるとはいえ、伯爵でしかない私にも対処が難しい話ではあるが……」
屋敷に戻った俺は、すぐにカラードさんに枢機卿との話を報告したが、カラードさんは難しい顔で考え込んでしまった。
これが個人的な話なら、すぐにカラードさんはウーゼルさんに話を持って行っただろうが、陞爵したとはいえ伯爵家でしかないヴァレンシュタイン家が、直接国王であるウーゼルさんに政治的な話を持っていくのは流石にまずい。
せめて枢機卿が誰にも知られずに王都に入って来ていたのなら話は別だが、今回は予定が少し早まったとはいえ前々から来ることは分かっていたのだ。
すでに何人もの貴族が来ていることに気が付いているだろうし、何ならすでに見張りを付けていることだろう。
実際にヴァレンシュタイン家に戻ってくる間に、街中には警備兵や見回りの騎士をいつもより多く見かけたので、この状態で大きな動きを見せればすぐにバレるだろう。
「状況的には、すぐにでも陛下に話をした方がいいのは事実だが、陛下と懇意である我が家が他の貴族を無視して動けば、後から必ず問題視され批判の的にさらされるだろう。ここは我が家より上の地位の……出来れば公爵家辺りに手を貸してもらいたいところだが……」
俺たちと一番縁のある公爵家と言えば、間違いなくカレトヴルッフ家ではあるが、あそこの当主と俺たちは仲がいいとは間違っても言えない間柄である。
こんな時にそんなことを気にしても仕方がないのは理解しているが、出来るならあまりカレトヴルッフ公爵を頼りたくないというのが俺の本音だ。多分、カラードさんも。
そんな感じで少し考えて、
「カラードさん、スノールソン侯爵家は頼れませんかね? 一応書類上の話とはいえ、俺とスノールソン侯爵家は縁戚ということになっていますし、確か今回のファブールの件で侯爵が王都に来ていると聞いています」
「確かに、ジークが縁戚であるスノールソン侯爵を頼るというのはおかしな話ではない。それに、スノールソン侯爵なら陛下の義理の父親だ。あまり付き合いはないが、頼むだけ頼んでみるのもいいかもしれないな。ただ……問題は、侯爵家を訪問するとなるとそれなりの手続きが必要になるということだが……」
これが親しく付き合いのある貴族なら、そう言った手順を飛ばして会うことも可能かもしれないが、俺はスノールソン侯爵家とはアナ様を通じてでしか付き合いがないし、カラードさんもそこまで親しい間柄ではないとのことだ。
どうしたものかと思っているところに、
「話は聞かせてもらいました。それなら、私が侯爵家に行きましょう」
サマンサさんがディンドランさんを引き連れてやってきた。
まあ、少し前からドアの前に張り付いて俺たちの話を盗み聞きしていたのは気が付いていたけれど。
「いやまあ、確かにサマンサの親戚ではあるが、君もそこまで親しい間柄ではないだろう?」
「確かにここ数年……いえ、十年以上お会いすることがありませんでしたが、親戚であることは間違いありませんし、小さな頃はかわいがってもらった記憶があります。例え前触れなしに出向いたとしても、無下にされることは無いでしょう」
確かに、スノールソン侯爵を頼るにはサマンサさんいた方が話は早く進むだろう。
「確かにそうだな。それでは、サマンサが侯爵家に向かい、私とジークが教会で時間を稼ぐか」
と言ってカラードさんが立ち上がったが、
「あら? ジークはスノールソン侯爵家に私と向かうわよ。大体、ジークがいないと詳しい説明が出来ないから、侯爵を説得できないじゃない」
「え?」
「なるべく早く侯爵を説得するから、それまで枢機卿の足止めをお願いね。行くわよ、ジーク」
そう言うとサマンサさんは、俺の手を引っ張って部屋を出て行った。
流石にカラードさんだけではあの枢機卿の足止めは難しいと思うが……俺が居てもあまり大差はないので、そう考えるとスノールソン侯爵の説得に回った方が結果的にカラードさんの助けになるかもしれない。
そんな感じで、後ろ髪をひかれながらもサマンサさんに連れられて、王都のスノールソン侯爵家の屋敷に来たわけだが、
「ヴァレンシュタイン伯爵の妻のサマンサと、息子のジークです。侯爵様にお目通りをお願いします」
「侯爵様は忙しく、すぐに会うことは出来ません。お越しいただいたことをお伝えいたしますので、日を改めてお願いします」
と言って、門番に断られてしまった。
言い方は丁寧であったが、明らかに迷惑そうな顔をしている。
「へぇ~……見たところ、新人のようね。それならばこう言いましょう。侯爵様の姪であり、アナ王妃殿下の従妹でもある、サマンサ・ヴァレンシュタインが参りました。今すぐ、侯爵様にお取次ぎをお願いします」
それを見たサマンサさんは、静かにキレた。
よくよく考えれば、サマンサさんがアナ様の従姉妹ということはスノールソン侯爵の姪になるので、普通に考えれば最低でも侯爵に報告に行くくらいはしなければいけないところだ。
まあ、姪だからと言ってすぐに侯爵に会うことは難しいだろうが、今回はアナ様の名前も出しているので、先程のように無視することは出来ないだろう。
「おい! 何をもめている! ……って、サマンサ様ではないですか! お久しぶりです!」
遠くから門のところでもめているのが見えたのだろう。
サマンサさんに近いくらいの年齢の騎士が走ってやって来て、すぐに相手が誰だか気が付いて頭を下げた。
「確か、アナ様の護衛についていた騎士でしたね。お久しぶりです」
サマンサさんもその騎士に見覚えがあったようで、すぐに先程までの怒気を収めて笑顔を見せた。
そして、何があったかをその騎士に説明すると、
「お前、お名前を聞いてもお相手が侯爵様のご親戚であると気が付かなかったのか!」
その門番を怒鳴りつけた。
確かに顔を知らなくとも、ヴァレンシュタイン家はかなり有名な部類に入る貴族だから、名前を聞いた瞬間に態度を改めるべきだったな。
そして、自分で判断が付かなければ、この場に俺たちを待たせてでも誰かに報告するべきだった。
「ただサマンサ様、すぐに侯爵様にご報告は致しますが、侯爵様はここ数日お忙しく、今日会えるかは分かりません」
対応を変わった騎士が申し訳なさそうにそう言うが、
「それは困ります。今日は……少しこちらへ……実は、本日の目的は国際的な問題に直結することに関してでして、伯爵家でしかない我が家では手に負えないくらいの大問題です。ですので、侯爵様にお力を貸していただこうと思い参りました……恐らくは、侯爵様がお忙しくしていることと関係があると思われます」
サマンサさんは、顔見知りの騎士を門番の騎士から少し遠ざけてから、小さな声で訪問の理由を聞かせた。
これであの門番は、侯爵の親戚であるサマンサさんが重要な目的でやってきたというのにけんもほろろに扱い、そのせいで重要な案件から遠ざけられるような人物だということになってしまった。
寄りにもよってアナ様と親しいサマンサさんにやらかしてしまった以上、この先の出世に大きく響いてしまうかもしれない。
そんなうなだれる門番の横を通り、顔見知りの騎士は俺たちを屋敷の応接間へと案内した。
ここまで侯爵家の許可を取らずに俺たちを案内できるということは、この騎士は侯爵家でかなり上の立場にいるのだろう。
「侯爵様にお知らせしてまいります。少々お待ちください」
そんなことを考えているうちに、騎士が部屋を出ようとしたが……どうやらスノールソン侯爵は、フットワークの軽い人物のようだ。
「久しぶりじゃないか、サマンサ。元気にしていたか?」
騎士が部屋を出るよりも早く、スノールソン侯爵が部屋に入って来た。
「ご無沙汰しております、伯父様」
「うむ、十何年ぶりかな? 小さな頃はよく遊びに来ていたのだから、アナ殿下がいなくても顔くらい出しに来なさい。まあ、私の方も領地に引っ込んでいることが多いから、お互い様かもしれないがな。それで、そちらがジークだな?」
数秒前までサマンサさんに向けていた笑顔が一瞬で鋭い視線に変わり、俺を値踏みするかのようにじっと見つめてきた。
「ふむ、アナ殿下から侯爵家筋の没落した家を探してくれと言われた時は驚いたが、あれだけの活躍をしていて人間的にも問題がなさそうなら、苦労したかいがあったと言うものだな。おお! そう言えば忘れていた! ドラゴンの肉や孫への贈り物ありがとう。肉は家族で美味しくいただいたし、孫も贈り物を大変喜んで、次の日から剣術の訓練を張り切っていたぞ」
「喜んでいただけたのなら幸いです。こちらこそご挨拶が遅れてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
人間的な部分に関しては自分では分からないが、侯爵から見て俺は後見するのに値する人物だと判断されたようだ。
「それで、今日の目的はなんだ? まさかこのタイミングで、久々の挨拶とジークの紹介だけと言うことは無いのだろう?」
やはり侯爵は俺たちの目的に感付いているようで、先程までのにこやかな雰囲気が一変し、少し部屋の中が重苦しい空気に変わった気がした。
「ええ、そのことですが……ジーク、侯爵様に説明をお願い」
サマンサさんからではなく俺からの説明と聞いて、侯爵の目が一瞬だけ俺とサマンサさんの顔を行き来したが、すぐに俺に体を向けて話を聞く体勢になった。
「成程な。確かにいくらカラード殿と言えども、少し荷の重い話だな。何とか話をまとめることが出来たとしても、その後のやっかみがすごいことになるだろう。分かった、私が請け負おう。今すぐに行くぞ。案内を頼む」
そう言うとスノールソン侯爵は、着替えている間に騎士に馬車の用意をさせて、俺たちと共に乗り込んだ。
「侯爵様、この馬車だとかなり目立つと思いますが、大丈夫でしょうか?」
あまり目立つと、他の貴族の妨害があるのではないかと思ったので聞いてみたが、
「すでに耳の早い貴族の間では、枢機卿がヴァレンシュタイン家と接触したという情報は出回っているだろう。それと、カラード殿が向かっているという話もな。もしこれがヴァレンシュタイン家から枢機卿に接触したのだとすれば、他の貴族からの横やりがあるだろうが、今回はその逆で枢機卿からヴァレンシュタイン家に接触したのだ。いわばヴァレンシュタイン家は、枢機卿から窓口として期待されているということだ。その状態で下手に割り込もうものなら、それこそ国際問題になりかねん。いくら陛下の対立派閥やヴァレンシュタイン家を面白く思っていない同派閥の貴族であっても、下手な手出しはできない。一歩間違えると、家が無くなってしまうからな」
などと笑う侯爵だが……そうだとすると俺は、スノールソン侯爵家にとてつもない面倒ごとを押し付けてしまったのかもしれない。
そのことを謝罪しようとしたところ、
「まあ、危険な分だけ成功させれば利益は大きいからな。それに、今回はよほどのことがない限り失敗することは無い話だ。むしろ侯爵家としては、よくぞうちに話を持ってきたと感謝するべきところだ。ここ最近、何かあればカレトヴルッフ公爵家ばかり目立っている状況であったしな。先々のことを考えれば、私の引退前に侯爵家として大きな仕事をこなしておくべきだ」
逆に侯爵から感謝されてしまった。
「ただ、侯爵家が請け負うと言っても、引き続きヴァレンシュタイン家には補佐という形で関わってもらわなければならないから、枢機卿が王国を出るまで気は抜くなよ。特にジークは、聖国の聖女に懐かれているらしいからな。期待しているぞ」
ただ、侯爵としてはヴァレンシュタイン家……というよりは、俺をこき使うつもりらしいけど。