軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話

「それにしても、エリカは一気に強くなったわね。中堅どころの騎士だと、少し物足りなくなってきているでしょ?」

「いえ、レベルが上がったおかげか、自分でも以前よりは強くなったと感じますし、格上だった相手にも勝てるようになってきましたけど、流石にまだ技術が付いてきていませんから安定して勝つことが出来ません」

久々のフランベルジュ家との合同練習の後で、俺とエリカはボルスさんのところに注文している武器の様子を見に行くことにした。

その護衛としてついてきているのは、ディンドランさんとガウェインだ。

二人も護衛はいらないと言ったのだが、ディンドランさんは自分の分の武器も見に行きたいからと言い、ガウェインはディンドランさんばかりが護衛について行き、その度にいい思いをしてずるいと言い返し双方が譲らなかった為、二人共護衛としてついてくることになったのだった。

なお、ディンドランさんの言う中堅どころの騎士とはヴァレンシュタイン家の基準であり、他の貴族の騎士団だとトップクラスにいるような強者ばかりな為、安定して勝てないとは言うものの、エリカの実力はこの短期間で一気に上がっていることが分かる。

「普通はレベルと強さは比例するのにな。それがジークときたら、レベルの低い時から俺たち相手にそれなりに戦えていたし、今では倍以上の差があるディンドランを手玉に取るようになってきちまって……この化け物が!」

「そのディンドランさんがいつもやられている攻撃を食らっても、平気で突っ込んできて攻撃してくるお前の方が化け物だろうが!」

ここ最近、魔法ありだとディンドランさんには勝ち越しできるようになっているが、まだまだ純粋な技術ではかなわず、魔法無しだと負け越しているのだ。

まあ、負け越しと言っても僅差ではあるし、レベルの差を考えれば普通ならあり得ないことではある。

ちなみに、魔法ありの模擬戦で俺が勝つ時の多く場面で活躍するのが、ダインスレイヴとシャドウ・ストリングを組み合わせた技なのだが……ディンドランさんは何度も見ているはずなのに、何故かこの攻撃をよく喰らっている。

余程苦手意識があるのかもしれないが、面白いくらいに効果的なので、俺としてもついつい使う頻度が高くなってしまっているのは自覚している。

なので最近、ディンドランさんは俺がその技を使って勝つたびに、「底意地が悪い」だの、「技に性格の悪さが出ている」だの、挙句の果てには「そんな育て方をした覚えがない」だの言いたい放題なのだ。

なお、俺としては育てられた覚えはないのだが、少し前に一度、「俺の性格に多大な影響を与えた内の一人が何を言う。性格が悪いとすれば、それはあなたのせいでもあるでしょ?」と言ったところ、しばらくの間ものすごく機嫌が悪かった。

それはもう、ディンドランさんから変なオーラが出ているかのように錯覚する程で、ついにはランスローさんから、「ジークが悪くないのは重々理解しているが、ここはジークが大人になってくれ」と頼まれて頭を下げたくらいである。

「言っておくが、全然平気じゃないぞ! ディンドランが言っていた通り、底意地の悪い魔法だと俺も思っているくらいだ! ただまあ、いくら以前より魔力を吸い取る力が強くなったとはいえ、吸い取られるまでわずかながら時間があるからな。それまでにあの黒い糸を引きちぎるついでに接近戦に持ち込めば、割と何とかなるというだけだ!」

「だから、それがおかしいと言ってるんだ!」

こんな脳みそまで筋肉な男だが、実際のところ出来るのならそれが一番手っ取り早くあの技を破る方法ではあると理解している。

まあ、どんな強力な技でも、発動する前に対処してしまえば意味が無くなるといういい例だろう。腑に落ちない点は大きいが。

そんな話をしながら王都の大通りを通っていると、

「おじさん、次はあっちですよ!」

「ちょっと待て、嬢ちゃん! お前、金持ってないだろ! 先に行っても食えない……ぞ?」

遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思うと、その内の一人と目が合った。

「ここは人通りが多いし、何かあった時に対応が難しくなるから向こうの道を使うか」

「そうだな」

「そうね」

俺が脇道を指先ながらそちらへと体の向きを変えると、ガウェインとディンドランさんもすぐに同意した。

「え? 急に何?」

気が付いていないのはエリカだけだ。

そして、そのせいでエリカの動きが止まり、

「あ! ジークさ~ん!」

嬢ちゃんと呼ばれていた 白(・) い(・) 女(・) に見つける隙を与えてしまった。

「ちょっ! 人が多いです! ジークさ~ん! お~い、ジークさ~ん! 親友のクレアですよ! ジークすゎ~~ん! ……聞こえてないのかな? エリカさ~ん! あなたの親友のクレアですよ! あっ! お姉さんもいる! お~い!」

いつの間にか俺とエリカはクレアの親友に認定されているが……俺たちは周囲の視線に耐えながら聞こえないふりをして、その場から逃走を図ろうとしたが……

「ちょっとそこの 加(・) 齢(・) 臭(・) のきつそうなおじさん! 聞こえていませんか~?」

「誰が加齢臭がきつそうだ、こら!」

ガウェインがうかつにも反応してしまった。

「この馬鹿が!」

「空気読んでください!」

ようやくこちらから反応が返ってきたからなのか、クレアは笑顔で強引に道を遮る人々をかき分けて近づいてくる。

「……逃げるか」

「ちょ、ちょっと!」

このままではかなり面倒なことが起きるのは確定なので、俺はこの場から逃げだすことを決め、エリカの腕を掴んで脇道に逃げることにした。

その際、

「ぬおっ!」

ガウェインの足にシャドウ・ストリングを絡みつけていけにえにすることにした。

「ジーク、ナイスよ!」

ディンドランさんも便乗して逃げ出そうと、ついでとばかりにガウェインを押して転ばせ……ようとしたのだが、

「お前らだけ逃がすか!」

信じられないことにガウェインは、ディンドランさんに押された勢いを利用して側転をすることで体勢を立て直し、一瞬でシャドウ・ストリングを引きちぎって俺たちを追いかけてきた。そして、

「うぉらぁ!」

俺の背後から飛びついて押し倒してきた。

「ぐふっ!」

「エリカ、ジークを置いて逃げ、うきゃ!」

さらに、俺を押さえつけながら強引に手を伸ばしてディンドランさんの足を掴んだことで、ディンドランさんは顔から地面に叩きつけられていた。

「はっはっはっ! そう簡単に俺から逃げられると思うなよ!」

右手で俺を押さえつけ、左手でディンドランさんの足を掴んだガウェインは、勝ち誇るかのように笑って……いたが、

「ていっ!」

「んごっ!」

背後からクレアに殴られ……いや、蹴られたようだ。尻を。

「ジークさん、お姉さん、大丈夫ですか! あの加齢臭のおじさんは、 親(・) 友(・) の(・) 私が退治しましたよ!」

「あ、ああ、助かった……」

この様子だと、逃げ出そうとしたことには気が付いていないみたいだな……と思っていたら、

「それで、どうして逃げたんですか? 絶対に聞こえてましたよね?」

そうは問屋が卸さなかったようだ。

そう言えば、普段は あ(・) れ(・) なクレアだが、ちゃんとよそ行きの顔は出来るし、妙に勘が鋭いところがあるんだった。

さて、どう誤魔化そうかと思っていると、

「あなたは今回ファブール側の味方として王国に来ているんでしょ? 王国の貴族としては、非公式とはいえそんな相手と気軽に会うことが出来ないのよ」

「成程! そう言う事情があったんですね!」

エリカが美味いこと誤魔化してくれた。

「そう言うわけだ。こちらとしても、王国の貴族としてのメンツがあるし、他の貴族に誤解を与えかねないことは出来ないからな。そう言うわけで、ここは会わなかったということで……」

「でも、それなら大丈夫ですよ! 別に私たちは、ファブールの味方をする為に来たわけではありませんし! どちらかというと、王国の偉い人と会う為に私たちがファブールを利用したという感じです! ……と、 お(・) じ(・) ち(・) ゃ(・) ん(・) が言っていました!」

クレアの言うおじちゃんが誰かは知らないが、カレトヴルッフ公爵の考えていた通り、天聖教を王国に広める為の布石が聖国の目的なのだろう。

「そ、そうか。ただ、王国は聖国がファブールの味方をして戦争の賠償をうやむやにする為に来ていると考えているし、ファブールもそのつもりらしいんだが、そこのところはどうなっているんだ?」

クレアの考えと聖国の使節団の考えは違うだろうが、それでも今ここでこの答えだけは聞いておかなければならない。

何故なら、その答えによってはここでクレアの身柄を確保し、聖国の使節団に対して何故クレアを王都に忍び込ませたのかを問いたださないといけないかもしれないからだ。

まあ、クレアのことだから、言ったことのないところを早く見て回りたかったとか言いそうだけど。

「ファブールですか? アレックスさんのところですよね? そうですね~……ん~……何でファブールの方が戦争を仕掛けたのに、聖国が味方をするとかいう話になっているんでしょうか? 悪いのはファブールとアレックスさんですよね? アレックスさんがごめんなさいして、お金を払うのは当然なんじゃないですか?」

なんか、思っていたよりも王国寄りの考えだった。

これが他の聖国の人間なら、その場限りの誤魔化しで言いそうなところだが、クレアのことだから本心から言っていると思われる。

「成程な……それじゃあ、俺たちは行くところがあるから、王都観光を楽しんでくれ。じゃあな!」

「はい、分かりました! ……じゃなくて、一緒に遊びましょうよ! せっかく親友が尋ねてきたんですよ!」

それじゃ! という感じで、片手を上げてその場を離れようとしたのだが、クレアは一瞬乗っかったものの、すぐに正気に戻り俺の服を掴んできた。

「ガウェイン……は、ケツの痛みでそれどころじゃなさそうだな。ディンドランさん、護衛対象が襲われているんですが?」

「ええ、だから護衛対象予定のエリカの護りについているわ。それに、敵意は感じないから、ジークなら自分でどうにか出来るはずでしょ?」

ディンドランさんもクレアに関わりたくないのか、エリカの護りだとっか言って、さりげなく俺たちから距離を取ろうとしている。

「ジークさん、せっかくですから美味しいものが食べたいです! 連れて行ってください!」

俺が足を止めたから遊ぶのを了承したと思ったのか、クレアはおすすめのところへ連れて行けと笑っているが……どうする? と言った視線をエリカたちに向けると、

「……いいんじゃないかしら?」

エリカが諦めたような感じで許可を出した。

まあ、ここからどうあがいても逃げ出すのは無理だろう。

仮に俺だけなら逃げるだけなら可能ではあるが、エリカはクレアから逃げ切ることは無理だろうし、何よりもここで無理に逃げ出そうものならば、クレアのことだから大声で俺とエリカの名前を叫びながら探し回る可能性が高い。現に先程俺とエリカの名前を叫んでいたし。

ただ、

「俺が行く店は お(・) っ(・) さ(・) ん(・) 向けの店が多いぞ。おしゃれなところはエリカに連れて行って貰っている状態だし……」

俺はどちらかというと、がっつり食べられる店やお酒に合いそうな味の濃い店に行くことが多いので、デートで行くような女性が好みそうな店に関してはエリカに任せきりなのだ。

まあそんなことよりも、

「ようやく俺に触れてくれたか……ジークはやっぱり意地悪だよな」

「ですね~」

クレア以上に、何故スタッツの冒険者であるおっさんがここにいるのかが不思議である。

もっとも、こちらからすぐに反応するのは何かに負けた気がしそうだったので、ギリギリまで触れないようにしていたけれど。

「それで、スタッツのギルド長を捨てて、クレアの親衛隊にでも入ったのか? 柄じゃないな」

「んなわけあるか! 仕事だ、仕事。スタッツはジュノーにベラドンナや商業組合がジークの情報を集めているから、割とバルムンク王国関連の話が入ってきたりするんだが、聖国はそうではないらしくてな。嬢ちゃん関連でジークが男爵を持っていてファブールとの戦争で活躍したという話は知っていても、その後の陞爵の話なんかは知らなかったらしくてな。その情報を聖国側が手に入れたのは、今回の話し合いの場に参加する使節団がスタッツに来た時で、そこから急遽俺が雇われたというわけだ。まあ、情報の入手というよりは、一人でも多くのジークの顔見知りから道中で話を聞きたいという目的の方が強いけどな。それと、今回使節団に雇われているのは俺だけじゃなくて、フリックとチーも一緒だ」

まあ、クレアが同行するということはその使節団には親衛隊も参加しているだろうから、護衛は足りているのだろう。もっとも、それはそれとして信用できる戦力は多いに越したことは無いということで、三人が雇われたと言った感じかもしれない。あと、ギルド長の思惑も絡んでいるかもだけど。

「それで、そのフリックとチーに、親衛隊の面々はどこだ?」

フリックとチーは別行動中だとしても、親衛隊の隊長とフレイヤがどちらもクレアのそばにいないというのは考えにくい……と思っていたら、

「なあ、それはだな……」

「えへへ……置いてきちゃいました!」

実にクレアらしく、とても困った状況のようだ。

「いやだって、私は早くジークさんたちに会いたかったのに、おじちゃんが寄り道ばかりするんですよ。まあ、確かに行く途中にある教会によって顔を出さないといけないというのは分かりますけど、人のいない壊れかけのところまでお祈りに行く必要はないと思いません? それが無かったら、王都にはもっと早く着くし、何なら他の人たちに手分けして教会を回ってもらって、後で合流した方が楽じゃないですか!」

という理由から、クレアはおっさんと二人で先に王都に来たようだが……仮にも男のおっさんをお供に、未婚の女性が旅をするのはどうなのだろう? ましてやクレアは、聖国の切り札のような存在で聖女と呼ばれている人物でもあるのだし。

という思を込めておっさんを見ると、

「あ~……何となく何を言いたいのか分かるが、これには致し方のない事情があってな。簡単に言うと、嬢ちゃんが暴走して自分に回復魔法をかけながら全力で走ったせいで、神具をまとった俺以外はついてくることが出来なかったというわけだ。まあ、行き先は分かっているし、明日か明後日くらいには何人かの親衛隊が到着するとは思うが……それまでは、俺一人で護衛をしないといけないというわけだ。そう言うわけで、協力を頼む!」

などと言って頭を下げたが、

「断る。それはおっさんの仕事だろ? 仮にも王国の貴族がするようなことではないし、情勢的に無理だ」

俺は即座に断った。

何せ、王国の貴族の大多数は、聖国はファブールに肩入れしている敵性国家であるとみなしている節があるし、ファブールと戦争をした連合軍の中心人物である俺とエリカが下手に関わると、最悪裏で繋がっているのではないかという疑いを掛けられるかもしれない。

ここは互いの為にも、最低でも親衛隊が到着するまでは関わらない方が無難だ。

と、もっともらしいことを並べてみたのだが……おっさんは不敵な笑みを浮かべて、

「そんなことを言ってもいいのか? もしもここで嬢ちゃんを突き放して好きにさせると、嬢ちゃんが何をしでかすか分からないし、俺には止める権限も方法もないんだぞ。そうなると、嬢ちゃんの知り合いであり、王都に来ているということを知っているジークの立場が悪くなるとは思わないか? ん?」

などと反論してきた。

「その場合は、スタッツ所属の冒険者も関わっていると陛下に報告しなければならないんだが……まあ、事件が起きる可能性を放置するよりは、未然に防ぐ方向で動いた方が言い訳はしやすいか」

「だろ、だろ!」

おっさんは、上手く俺を巻き込めたと思っているようだが……俺としては、完全に責任を持つ気は無いしその義理もない。

なので、

「費用はおっさん持ちということで、少しの間クレアの相手をすることしようか? ただし、夜は知らん。流石に俺たちのところで寝泊まりさせるわけにはいかないから、夕方には解散だな」

「え~」

「そりゃないんじゃないか⁉」

二人は揃って抗議の声を上げるが、そもそもこうやって会っているだけでも問題が起こりそうなに、夜も一緒だったとなれば問題しか起こりそうにない。

これがまだ王都以外の街で俺しか頼る者がいないとなれば仕方がないかもしれないが、近々聖国とファブールが戦争のことで 謝(・) 罪(・) に(・) 来(・) る(・) のに、話の中心に近いところにいることになる俺とエリカが聖国の中心人物の一人であるクレアと夜まで馴れ合いをしていたとなれば、ファブールは文句をつけてくることは目に見えているし、聖国も何か言ってくるかもしれない。

そして、味方の足を引っ張るのが好きな王国の貴族も、張り切って参戦してくるだろう。

だから俺としては例え三方から何か言われたとしても、その条件であれは追及をかわすことが出来るので譲歩は出来ないし、相手をしている間の費用をおっさんが持てば、そう言った報酬があったとウーゼルさんにあげる報告書に堂々と書くことも可能なのだ。

まあ、二人の反応が良かったので、それは秘密にしておいた方が面白くなりそうだから教えないけど。

「どうせおっさんのことだから、クーゲルあたりから報酬の先払いをしてもらっているはずだろ? 追いついてきたら、必要経費だったと口添えしてやってもいいぞ」

「……本当だな? 言うだけ言って無理だったは無しだからな?」

ちゃんと伝えはするが、支払われるかまでは俺の責任外の話だ。

「大丈夫ですよおじさん。私もちゃんと言ってやりますから!」

クレアから言えば、クーゲルが支払いを渋ったとしてもどうにかなるかもしれないが、クレアが逆に言いくるめられないとも限らない。

ただまあ、

「嬢ちゃんがそこまで言うのなら……まあ……」

おっさんとしては、このままだと完全自腹になりかねないので、それならまだ支払われるかもしれないという希望に賭けた方がましだと思うしかないだろう。

「じゃあ、そうと決まれば、エリカさんおすすめのお店に行きましょう! その後はジークさんおすすめのところで、その次がお姉さん、加齢臭のおじさんは……いいです!」

「おい! 加齢臭じゃ……ねぇよ!」

勝手に行く順番を決められたが、それで大人しく……暴走しないでいてくれるのなら納得するしかない。自分の臭いを確かめてから反論したガウェインのように、悪口を言われたわけではないし。

「はぁ~……こっちよ」

今日はもうボルスさんのところへは行けないなと思いながら、ため息をつきながら先導するエリカと、その後ろを散歩を喜ぶ犬のようについて行くクレアを見ながら、俺は逃げられないようにガウェインとおっさんに見張られながら後に続くのだった。