軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話

「感心して損した」

「とりあえず、ベッドを離しましょうか」

俺が呆れていると、エリカも同じようにため息をついた。

そして二人でベッドを離そうとしたが、

「くそっ! ご丁寧にベッドの足をガチガチに縛って取れないようにしている!」

こんなところまで悪知恵を働かせているなんて……と思ったが、

「それなら切ればよくない? ジークなら刃物をマジックボックスに入れているでしょ?」

よくよく考えてみれば、簡単な話だった。

「……確かにそうだな。いくらガチガチに固めていたとしても、最悪ダインスレイヴを使えばディンドランさんがいくら馬鹿力で硬く締め付けたとしても、切れないということは無いだろうし」

エリカに割れて冷静になった俺は、早速ダインスレイヴで紐を切ろうとしたところ……背後でディンドランさんが怒っているような気配がした。

(やっぱり狸寝入りか……俺たちの反応を楽しんでいたな。それなら……)

「ジーク、どうしたの?」

「いや、せっかくだから、これはこのまま使おうかなと思ってな。せっかくディンドランさんが広くなるように工夫してくれたんだし」

俺がニヤリと笑うと、

「……ジーク、一体何を考えているの?」

エリカがいぶかし気な顔で俺を見てきた。

その声色は、『ふざけるな!』ではなく、『何を企んでいるのか?』といった意味合いを持っているように聞こえる。

「まあ、気にするな……よっと!」

「んなっ! くっ!」

俺はダインスレイヴを握ったままの状態で勢いよく振り向き、寝たふりをしていたディンドランさん目掛けてシャドウ・ストリングを放った。

ディンドランさんはすぐに反応して逃げようとしたものの、寝たふりをする際に布団を頭まで被っていたせいで逃げ切ることが出来ず、布団ごと黒い紐に絡めとられ、

「力が……抜け……」

ダインスレイヴの能力で動くことが出来なくなった。

そして俺はそんなディンドランさんを床に転がして、

「じゃあ、エリカはその広くなったベッドを使うといい。俺は丁度空いた あ(・) そ(・) こ(・) を使うから……ああ、そう言えば布団が無くなったから、こっちのを一枚を借りるな」

片方のベッドから布団を回収し、ディンドランさんが使っていたベッドに布団を敷きなおした。

「いやちょっと、ディンドランさんはどうするのよ?」

床に転がるディンドランさんを心配するエリカだが、俺は出来るだけにこやかに、

「これはヴァレンシュタイン家の問題だから、エリカは気にしなくてもいいぞ。それに、これくらいでディンドランさんがどうにかなることは無い。あと、念の為もう少し強めにしっかりと縛っておくから、俺が寝ている間に抜け出して暴れることは無いはずだ」

と言って、布団に潜りこんだ。

「いやそう意味じゃなくてね……」

エリカの呆れたような声が聞こえたが、俺は気が付かないふりをしてそのまま狸寝入りを決め込むことにした。

「お疲れのようね、ディンドラン」

「ええ、ひどい目にあいました。薄々気が付いてはいましたが、ジークがここまで鬼畜だったなんて……」

「俺も薄々気が付いていたけど、まさかディンドランさんの常識があそこまで欠けているなんてね……サマンサさん、俺の知らないところでいつも苦労していたんですね」

さらに次の日、またエリカの様子を見に来たサマンサさんとエンドラさんにより、エリカの体調は完全に回復したようだと伯爵に報告がされ、ついでに伯爵の許可を取って俺たちは王都の外へと馬車で移動している最中だ。

ちなみに、今回は二人がフランベルジュ家に来る前から俺とエリカを連れ出すことを決めていたようで、馬車は全員が乗っても余裕があるくらいの大きさのものだった。

なお、そんな馬車の御者はランスローさんが担当しており、俺とディンドランさんの言い合いの最中に頷くようなそぶりをしていたが……俺とディンドランさんのどちらの意見に同意しているのかまでは分からなかった。

「ランスロー、この辺りでいいわ」

「了解しました。もう少し馬車を止めやすいところまで進みますので、少々お待ちください」

エンドラさんが窓から外の様子を確かめてランスローさんに指示を出すと、しばらくしてから馬車は周囲に何もない原っぱに停車した。

「それで、俺とエリカをこんなところに連れ出して何をするつもりですか?」

こんなところまで連れてこられたというのに、俺とエリカはその理由を一切教えて貰えていないのだ。

まあ、人気の全くないところで、誰かが近づけばすぐに分かるようなところに来たということは、関係者以外誰にも知られたくない話か、魔法に関する実験的なものをする為だろうとは思っているが……いくつか思い当たることはあるものの、これだというような確信するものはない。

「別に取って食おうとか言う話じゃないから安心しなさい。まあ、ちょっとした実験と言うところね」

エンドラさんは、安心しろと言いながらウインクするが……

「ランスローさん、すぐに引き返してください。下手をするとフランベルジュ家との外交問題になりかねません」

逆に安心できないので、すぐに引き返すように言うと、ランスローさんは一瞬手を動かしかけたものの、エンドラさんの圧力に負けて馬を動かそうとはしなかった。

「ジーク? それだと、私が非常識の塊みたいに聞こえるのだけど?」

エンドラさんは、 笑(・) 顔(・) で俺に圧をかけてくるが、

「殺すような攻撃はしないと言いながら、一撃で数百人は殺せそうな魔法を俺に放ってきたのは、一体どこのどなただったんでしょうかね?」

と尋ねると顔を逸らした。

「そう言うわけでランスローさん、戻ってください」

エンドラさんが大人しいうちに、さっさと戻った方がいいだろうと思いランスローさんに頼んだが、

「ジーク、少し落ち着きなさい。まあ、確かに師匠のいうことを信用できないのは仕方がないことだけど、今回のことに関して言えば危険は極めて低いと言えるわ。それは私が保証します」

サマンサさんがそう断言したことで、ランスローさんの腕の動きはまたしても止まった。

俺としても、サマンサさんがそこまで言うのなら大丈夫なのだろうと信じようとしたが……俺がエンドラさんを信用しきれない原因の一つが、未だに何をするのか教えてくれないことなので、まずは何をするつもりなのかを話してもらうことにした。

「こほん……まず、実験というのは新しい魔法を 他(・) 人(・) で試してみたいからよ。最近とある筋から仕入れた情報で会得した魔法だけど、自分自身だとそれが成功しているのか確証が持てないから、信頼できる人物の協力が欲しかったというわけ。まあ、 五(・) 人(・) もいれば、その魔法の信ぴょう性はかなり高くなるでしょうし」

と言ったところで、

「え? 私もですか⁉」

と、自分は実験と関係ないと思っていたらしいディンドランさんが驚きの声を上げた。

なお、サマンサさんとランスローさんは自分も数に含まれているだろうと予想していたらしく、ため息はついていたものの驚いた気配はしなかった。

「本当ならもっと幅広く人を集めたいところだけど、この魔法を人前で使うと 大(・) 騒(・) ぎ(・) になる可能性もあるのよ」

ディンドランさんを無視して話を進めるエンドラさんだが、また怪しい単語が出てきた。

正直、このままエンドラさんを無視して帰りたいところだが、ここまで来たら最後まで話を聞いてから判断した方がいいと思うので、これ以上話がそれる前に、

「それで、何の魔法の実験をするつもりですか?」

話の核心に迫ることにした。

するとエンドラさんは、その言葉を待っていたとばかりにニヤリと笑い、

「ズバリ、道具を使わずにレベルを知る魔法よ」

と答えた。

「そんな魔法があるんですか⁉」

「ちょっと師匠! 初耳なんですけど!」

その答えに対し、真っ先に反応したのはエリカとサマンサさんだ。

声を出さず反応が薄いように感じたランスローさんとディンドランさんもかなり驚いた様子なので、それほどエンドラさんの言う魔法はすごいものだろう。

ただ……俺からすると、実際に見たことも聞いたこともなくとも、前世の記憶にある創作物ではおなじみのもので、レベルを図る道具がある以上はどこかに存在するだろうとは思っていたせいもあってか、驚きよりも よ(・) う(・) や(・) く(・) の(・) 登(・) 場(・) かと言った感想の方が強かった。

「あら? ジークは驚かないのね? ……まさか、すでにその情報は仕入れていたというのかしら?」

俺が驚かないことが余程悔しかったのか、睨むような視線を向けてくるエンドラさんだったが……急にハッとしたような顔になったかと思うと、何故か勝手に納得したように頷いていた。

「とにかく、新しく覚えた魔法は自分と相手のレベルを知ることが出来るの。ただ、今のところ私は自分自身にしか使っていないから、もしかすると無意識のうちに自分の知っている情報を反映させていた可能性がある。そこで、あなたたちにその魔法を使ってみて、どれくらいの制度があるのか確かめてみようという実験なのよ。もちろん、レベルに関しては他人に知られてはいけないという考えは理解できるから、 エ(・) リ(・) カ(・) さ(・) ん(・) は(・) 嫌なら断ってくれても構わないわ」

ということらしいのだが……エンドラさんの中で、エリカには拒否権と言うものが存在するが、ヴァレンシュタイン家の人間に関してはすでに参加が決定事項となっているということらしい。

まあ、自身のレベルを道具を使わずに魔法で調べることが出来れば色々と便利なので、いい機会ととらえて参加してもいいのだが……いまいち納得できないところがあるのは確かだ。

もっとも、それを言ったところでエンドラさんは口先だけの謝罪で済ませるだろうから、言うだけ無駄だろうけど。

「ええっと……危険がないのなら、興味もありますしお願いしたいです」

エリカが遠慮がちに承諾したので、エンドラさんは満面の笑みを浮かべ、真っ先に馬車を降りていった。

「それで、まずはどうしたらいいんですか?」

「そうね。まずは……ディンドラン、私の前に立ちなさい」

「私からですか⁉」

いきなり指名されるとは思っていなかったであろうディンドランさんは驚いた声を上げ、どこか腰が引けているようにも見えたが……ランスローさんに背中を押されて、渋々と言った様子でエンドラさんの前に移動した。

「力を抜きなさい。魔力を流すわよ」

「ん……」

エンドラさんが手を握ると、ディンドランさんは体に流れた魔力に少し驚いたようで小さな声を出したが、特に痛みなどは無かったようだ。

そしてすぐに、

「これで終わりよ。ちょっと待ちなさいね」

ディンドランさんのレベルが分かったらしく、エンドラさんはポーチから紙とペンを取り出して何かを書き始めた。

「これが今の魔法で分かったディンドランのレベルね」

「これが……ですか?」

ディンドランさんは渡された紙を見て不思議そうにしていたが、不意に、

「はい」

といって、その紙を俺に渡してきた。

その内容は、

「レベル69、赤2、緑3、土3」

だった。

「それで、何かおかしいところはあるかしら?」

「前に道具で調べた時よりも、レベルが5上がってます。ただ、魔法の方は前と同じですね」

「そう……ちなみに、前に調べたのはいつなのかしら?」

「一年前くらいです」

前回が一年前というのなら、上がっているのは成長分かもしれないが……これだけではまだ分からない。

「次はランスローね」

「了解しました」

同じようにランスローさんも調べると、

「レベルは79で、青が6、緑が3ですか……レベルが3に、青が1上がっていますね。ちなみにですが、私は半年程前に調べております」

「成程ね……じゃあ、サマンサ」

という感じでサマンサさんも調べられ、レベルが62、黒が9、青が4に緑が2だった。

そして俺はというと、

「ジークはレベル25……25!? ちょっと低くないかしら? 予想では、最低でも50くらいはあるものだと思っていたけれど……」

「確かに、ちょっと低すぎますね。仮にもソウルイーターを倒し、その後もアラクネの群れやドラゴンといった魔物に、ダンジョンの主を倒したと聞いています。今レベルが25ということは、倒した当時はまだ低かった可能性があるということで……ジーク、前回はいつ調べたのかしら?」

「確か、三年……いや、四年前だったかも?」

学園に通っていた頃は何度か調べはしたが、最後に調べた時のレベルは確か17くらいだった気がする。

ソウルイーターの事件の後で王国を出てからは、下手な場所で調べると俺が今代の黒だとバレる可能性が高かったので一度も調べていない。

そのことを話すと、

「そうだとすると、この数年間でジークはレベルが8しか上がっていないことになるわね……これまでの三人でかなり精度に自信がついていたというのに、ジークのせいで一気に分からなくなってしまったわ……ああ、残りは黒が10に白が6、赤6に青6に緑が7で土が4で……黄が3ね」

いくつか記憶にあるよりも上がっている気がするな……と言うか、

「黄が3? 俺、雷の魔法は使えませんけど?」

「そうは言っても、私の魔法では黄の属性が使えると出ているのよね……」

レベルの上りが遅いk十よりも、これまでなかったものがいきなり 生(・) え(・) て(・) く(・) る(・) のが一番の謎だが……思い当たることがあるとすれば、

「もしかして、今代の雷と戦ったことが原因……とか?」

それくらいだ。

「無い……とは言い切れないわね。ジークだし」

エンドラさんがかなり失礼なことを言っているが……実際にエンドラさんの魔法が正しかった場合、それくらいしか思いつかないので否定が出来ない。

「まあ、確かにジークだからという可能性はあると思うわ。ジーク、あなた今代の雷と戦っている時に、ダインスレイヴは使っていたのよね?」

「ええ、使わないで勝てる相手ではありませんでしたし、そうでなくても使わない理由はないですから……って、もしかすると、ダインスレイヴで今代の雷の魔力を吸い取ったことが原因とか……ですかね?」

「成程……確かに、そう言う考え方も出来るわね」

記憶にある中で、上がっていると思われるのは赤と緑と新たに生えた黄だ。

どれもこれも、ダインスレイヴを使った対人戦で戦った相手が得意としている属性であり、その人物の魔力を吸い取ったから上がったとすれば辻褄は合う……気がする。

まあ、赤に関しては対人戦というよりはエリカの看病ではあったが、魔力を吸い取ったという点では同じだろう。

ただそうなると、ダンジョンで戦ったゴーレムを倒した際に土が上がっていてもおかしくはないのだが……もしかするとあいつは、土属性というよりはただの魔力の塊であり、たまたま体を作るのに身近にあった土を使っただけだったのかもしれない。

(だとすると、経験値のようなものは俺のレベルに使われたということか? それなら本当に 効(・) 率(・) の(・) 悪(・) い(・) 体だな……)

「レベルが高いからと言って必ずしも強いというわけではないけれど……ここまで低いとなると、レベルという概念自体が揺らぐわね。まあ、もしかすると私たちのレベルとジークのレベルでは、 幅(・) に違いがあるということなのかもしれないわね」

「それはつまり、ジークの 1(・) は、私たちの 2(・) かそれ以上と言うことですか?」

エンドラさんの仮説にサマンサさんが食いつき、そのまま俺のレベルの話で盛り上げかけていた二人だったが、

「エンドラさん、エリカをほったらかしにしているけど?」

完全に忘れ去られようとしていたエリカの名を出すと、二人は慌てて話を打ち切った。

「そ、それじゃあ、エリカさんもやりましょうかね!」

「お、お願いします」

エンドラさんは、忘れかけていたことを誤魔化すかのように、やや強引にエリカの手を掴むと、

「ふんふん……なるほどね……これが結果よ」

一人頷きながら、さらさらと紙に結果を書いてエリカに渡した。

「本当ですか⁉」

エリカの驚く声に反応して、ついその紙を覗き込みそうになるが……流石に許可なく見るのは駄目だろうと自重していると、

「ジーク、これ」

エリカの方から見せてくれた。

その紙を受け取ると、

「レベルが34で、赤が8か……」

という結果だった。

正確には緑も4あるのだが、正直に言うと俺にはレベルが俺と比べるとだいぶ上だなくらいにしか感じなかった。

「いまいち分かっていないみたいね。まあ、ジークはうちに来た時から格上ばっかりと訓練してきたから、基準が分かっていないのかもしれないわね」

サマンサさんが呆れたように言うが、実際にその通りだとは自分でも思う。

何せ、初めての訓練の時から王国で上澄みと言える強さを持つ人物を相手にしてきたのだ。

しかも、その内の二名には実際に死ぬ寸前まで追い詰められることが何度もあったせいで、レベルの差を気にする前に動かなければいけなかった為、いつの間にかそんなものを考えることが無くなっていた。

「まあ、いいわ。別に必ずしも知っておかなければならないと言うものでもないし、ジークには当てはまらないようだから、必要のないものでもあるしね」

と言いながらも、それなりの訓練をしていれば二十歳でレベルが20くらいになり、そこからだんだんとレベルは上がりにくくなっていき、大体四十歳を超えた辺りでレベル30くらいになるらしい。

まあ、それはあくまでも平均的な人間が平均的な訓練をした場合の話であって、ヴァレンシュタイン家のように、高レベルの者同士が年がら年中厳しい訓練をやっているようなところは例外中の例外らしい。

「そうなると、二十前にレベルが30を越しているエリカは、かなり特殊な例と言うことですか?」

「まあ、特殊と言えば特殊ね。ただ、ジーク程珍しいということではないわ。実際に、私たちも二十前に全員レベルが30を超えていたし」

と言ってサマンサさんは、頷くエンドラさんとランスローさんに、ドヤ顔をしているディンドランさんに視線を向けた。つまりは、

「俺だけ仲間外れというわけですか」

ということになる。

流石にレベルのことを気にしていないとはいえ、一人だけ達していないというのは気になるし、何よりもニヤニヤと笑いながら俺を見ているディンドランさんがうざい。

「いや、別にそんなことを言っているわけではないわよ。それに特殊と言えば、ジークの方が珍しいしね」

「まあそんなことよりも、レベルの高さもだけど、赤が8もあるのが気になるわね。エリカさん、前に測った時の数値は覚えているかしら?」

エンドラさんは俺のレベルを『そんなこと』と切り捨てて、エリカの方に話を戻した。

「確か、ジークを迎えに行く前だったと思いますから、数か月は経っていると思います。その時はレベルが28で、赤が6、緑が3でした」

エリカは定期的に調べに行っていたようで、前の数値をちゃんと覚えていたらしい。

「成程……なら、今回エリカさんが体調を崩したのは、急激にレベルが上がったからで間違いなさそうね。それも、エリカさん自身のレベルではなく、赤が一気に2上がったことが原因だと思うわ。もしかすると、赤の方が先に上がって増えた魔力が肉体に収まり切れなくなってしまい、それに対応する為に肉体がレベルを上げたのかもしれないわね」

もしそうだとすると、俺の治療がなくてもエリカは回復していたかもしれないが……その場合は、フランベルジュ家の屋敷が大火事になっていた可能性が高いだろう。

「そうだとすると、今後私と同じような症状を起こす人が出て来るんじゃないですか?」

「そうでしょうね。というか、これまでの不審火の中には、火の属性レベルが上がったことで引き起こされた可能性もあるわね。今回はたまたまエリカさんが貴族だったことで初期の対応が早く、なおかつジークという特殊で最適な技を持つ人物がいたことで事なきを得たと言えるでしょうね」

エンドラさんの言う通り、貴族の屋敷は昼夜問わず常に誰かしらが起きているので、火の手が上がればすぐに駆けつけて消火に当たるだろう。

しかも、そう言った火事に対応する為に、水の魔法を使える者を一定数雇っているところが多いので、火事が起きても小火で済む可能性は高い。

だが、一般家庭ではそうはいかず、昼は家に誰もいないということも多く、夜は全員が寝ているというのが普通だ。

おまけに貴族の屋敷と違い、建物自体の耐火性が低いことも多い。

そんな中で魔力が暴走すれば、たとえ小さな火を生み出してしまったとしても対応が遅れ、大火事になってしまうこともあるだろう。

「改めて、国を挙げての注意喚起が必要ね。なるべく詳しく情報をまとめて、陛下に提出した方がいいわね。そう言うわけで、サマンサとジークとエリカさんには、この後も手伝ってもらうわよ」

またしても参加が決定事項になっているが、こればかりは他人ごとではいられないし、今後身近な人が同じ目にあわないとも限らないので、協力するのは当然だろう。

それはエリカとサマンサさんも同じらしく、すぐに頷いていた。

「情報をまとめるのだったら、フランベルジュ伯爵にも協力を要請した方がよくないですか? 情報をまとめるのに消火に当たった人たちの証言も欲しいですし、現場の状況も調べておいた方が今後の役にも立つでしょうから」

「確かにそうね。私の方から正式に協力を要請することにしましょう。それにフランベルジュ家が参加すれば、不注意から火事を起こしたのではなく、貴族であってもこういったことが起きるから気を付けなさいと、平民にも分かりやすく伝えることが出来るでしょう」

恐らく、事情を知らない人たちの間ではフランベルジュ家が不注意で火事を起こしたという話も出ているだろうし、それを利用しようとする輩も現れるはずだ。

それに対処する為にも、不注意ではなく特殊な状況における不可抗力の事態だったが、適切な対応をしたおかげで小火で済み、その後も被害は出なかったと周知させる必要がある。

まあ、どのみち貴族の屋敷で小火騒ぎが起きたのだから、王城にその時の状況やその後のことを報告しなければならないだろうから、伯爵が拒否する理由はないはずだ。何より、エリカがやる気になっているし。

「ちなみにだけどね」

速く戻って報告しなければ! ……という空気になっていたというのに、エンドラさんが水を差すかのようにニヤニヤしながら、

「レベルが上がる一つの要因として、肉体面の充実と精神面の充実があると言われているのよ。つまり今回エリカさんが体調を崩す程にレベルが上がったのは、肉体面の充実というよりは精神面の充実……早い話、ジークと婚約したことで心が満たされたということが原因だと、私は考えているわ」

「えっ⁉」

「はぁ!?」

いきなり変なことを言い出したエンドラさんに俺とエリカが同時に驚くと、それが面白かったのかエンドラさんたちは声を出して笑い出した。よく見ると、ランスローさんまで声を殺しながら笑っている。

「もしかすると、この話も報告書に書く必要があるかもしれないわね!」

そのエンドラさんの言葉で、一層笑い声は大きくなり、ついにはランスローさんまで声を出して笑い出した。

このままでは本当に報告書に書かれかねないので、俺とエリカは必至になってそれだけはやめるように頼んだが……なかなか聞き入れてくれなかったので、ついにはダインスレイヴとシャドウ・ストリングの合わせ技を使ってのお願いする羽目になってしまった。

もっとも、その最初の一撃はエンドラさんに躱されてしまい、代わりにディンドランさんが動けなくなってしまったが……まあ、一番俺たちのことを笑っていたのがディンドランさんだったので、順番が前後しただけだと思い攻撃を続けたがエンドラさんにはことごとく交わされてしまった。

流石に昼間の明るいところでは影の動きが鈍るということもあるし、エンドラさんは魔力の動きを感知して避けているみたいなので、この辺りが先程から被害を受け続けているディンドランさんとの違いなのだろうと思い知らされる結果となってしまった。

それから何とか説得に成功した俺は、最初の一撃以降、定期的に流れ弾に当たり続けていたディンドランさんに回復魔法を使って何とか動けるまで回復させてから、フランベルジュ家に戻ることにした。

フランベルジュ家に戻ると、急いで戻ってきた俺たちに驚いた伯爵が玄関まで出迎えに来たが、事情を話すと伯爵はすぐにその危険性を理解し、むしろこちらからお願いしたいとエンドラさんに頭を下げていた。

その後、報告書はエンドラさんが中心となって二日で作り上げ、出来上がったその日の内にウーゼルさんの元へと届けられた。

ただ、流石に俺のダインスレイヴの能力を載せるわけにはいかなかったので、ドレインで対処したと書いたのだが……そのせいでその方法を危険視する者が多数出てきて、エンドラさんと俺に否定的な意見を投げつけてきたが、エンドラさんから事前にそうなるだろうと言われていた為、今回は俺一人が担当したが、ドレインを使用する者を複数人用意し、吸い取った魔力はすぐに消費することで危険はかなり低くなり、将来的には今回のような症状以外にも幅広い治療に応用できる可能性がある方法だと、エンドラさんが一人一人に 圧(・) を(・) か(・) け(・) な(・) が(・) ら(・) 説明したことと、実際にそれでエリカは回復しているという結果を前面に出したことで反論を封じていた。

まあ、使ったのはドレインではなくダインスレイヴなので、それらの反論は正しいと言えば正しいのだが、ドレインの問題は使用者が許容できる量以上の魔力を体内にため込んでしまうことなので、ため込む前に消費すれば危険性は低いというのも理論上は正しい意見ではあるし、ドレインを使用したことのある人物の全員がおかしくなったわけではないのだ。

つまり使用法さえ間違えなければ、ドレインは魔力過多による体調不良に対する最適な治療法の一つになりえるということだ。

そんな多少の嘘が混じった報告書はエンドラさんの肩書のおかげもあり、今後の研究と立証が必要ではあるものの、現時点では最適な治療法の可能性が一番高い方法だという評価を得ることが出来た。

それと、やはり今回のボヤ騒ぎをフランベルジュ家の失態だとして嫌がらせを企んでいた輩がいたようで、それを事前に食い止めることが出来たとフランベルジュ伯爵は俺たちに感謝していた。