軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お母さんは大変だ

朝……眠い……。

あれから、エリザベスちゃんがまた夜泣きをしてはいけないと、ヴェロニカお母さんの隣で寝ていたのだけど、そこそこの頻度で起こされることとなった。

お母さんって大変だ……。

美人さんのヴェロニカお母さんの、その大きな胸をはだけ、そこにエリザベスちゃんを押しつけていると、(わたし、何やってるんだろう……)という考えてはいけない思いが湧いてきた。

ヴェロニカお母さんも、慣れないのに疲れた顔で頑張っているから、何も言えないけどね。

起きてきた妹ちゃん二人の洗顔を手伝う。

本当に眠い。

あくびをかみ殺しながら、朝ご飯を作る。

と言っても、麦粥と色んなものを混ぜたスープだ。

テーブルに皿やスープ用の器を置いていく。

個数が無いから、先に妹ちゃん達に食べて貰う。

なので、ヴェロニカお母さんにはもう少し寝て貰うことにした。

テーブルを見てお姉ちゃんなイメルダちゃんが何か言いたげにしたけど、直ぐにシャーロットちゃんが椅子に座るのを補助する。

「二人とも食べちゃって」

というと、シャーロットちゃんが嫌そうな顔をする。

「サリーお姉様、麦粥嫌い!

美味しくない」

ぐはぁ!

精神攻撃が胸を貫く。

睡眠不足で疲れている上のこれは、結構キツい!

不満そうに唇を尖らせたシャーロットちゃんは、さらに追撃してくる。

「何で、パンが無いの?」

「ちょ、ちょっと、シャーロット!

止めなさい!」

イメルダちゃんが慌てて制止する。

パン……パンかぁ。

今世のパンは、一応、エルフのお姉さんに作り方を教わっている。

ただ、作ったのはその一回こっきりだ。

理由は簡単、評判がいまいちだったのだ。

エルフのお姉さんの助けと、Web小説の知識を総動員して酵母まで作り、作り上げたパンは、ふんわりとしたもので、エルフのお姉さんは絶賛してくれた。

へたをすると、前世で食べた物より美味しいと思うぐらいだった。

これは、”わたしスゲー”しちゃったかな?

などと、意気揚々と皆に食べさせたのだが……。

『味があまりしない』

『変な食感』

『あえて食べようと思わない』

等が兄姉の反応だった。

ママだけが『美味しいわよ』と言ってくれたけど、ママの場合、わたしが作った物は大体そんな反応なので、気を遣ってくれたのだろう。

がっかりして、それ以降、作らなくなった訳だ。

……しかし、今思うと、パン単体だけを食べさせたのが良くなかったのかも知れない。

それに、基本、お肉を食べているフェンリルにパンは合わなかっただけかも知れない。

「よし、再チャレンジをしてみよう!」

わたしは拳を握りしめ宣言する。

突然の行動に、妹ちゃん二人はポカンとしていたが、気にしない!

シャーロットちゃんを抱き上げてくるりとターンする。

「準備が必要だから、もう少し待ってね!」

とギュッと抱きしめる。

「う、うん」

「ちょ、サリーさん!

シャーロットは食事中よ!」

とイメルダちゃんに窘められ、優しくシャーロットちゃんを椅子に戻す。

目を白黒させているシャーロットちゃん、可愛い!

問題は……。

「小麦を育てて増やすのと、酵母作成か……」

それを聞きつけたイメルダちゃんが苦笑する。

「よく分からないけど、今から小麦を増やすのなら、育ててじゃなく、買わないといけないんじゃないの?」

おや?

あ、そうか、植物育成魔法について、伝えていなかった。

これは、転生チートで”わたしスゲー”するしか無い!

転生というより、フェンリルチートだけど。

え~っと、何だったっけ?

こんな時に言う決めぜりふ。

そうそう……。

「わたし、また何かやっちゃいました?」

「……何言ってるの?」

あ、タイミング的にこの台詞はおかしかったか。

――

朝ご飯を食べ終えた後、早速小麦を増やすことにする。

場所は……大麦のそばで良いかな?

妹ちゃんの二人も、何やら付いてくる。

可愛い!

「さ~て、始めますか」

わたしは赤鷲の団のマークさんから貰った小麦の袋を左手に持つと、右手で中身を掴む。

そして、「とりゃ~!」と豪快に撒く。

「えええぇ!?」

わたしの行動に、イメルダちゃんは目を見開いて驚く。

「サリーさん!

いくら何でも、そんな撒き方で育てられないでしょう!

それに季節!

今からじゃ、無理よ!」

そして、小麦の育成方法を説き始める。

育成時期とか準備とか、よく分からないけど結構細かく語っている。

まだ十歳なのに、凄いなぁ~

でも、フェンリルチートの前では、それらは不要なのだ!

両手をぐうにして、下から上に力一杯持ち上げる。

「育てぇ~」

白いモクモクが覆い被さった場所からぐんぐん育っていく麦に、イメルダちゃんは目を大きく見開きながら「えええぇ~!」と先ほどより大きな声を上げる。

シャーロットちゃんも同じくびっくり顔で「すご~い!」と言ってくれる。

「刮目せよ!

これが、植物育成魔法の力の一片よ!

はっはっは~!」

気分良く笑うわたしに、シャーロットちゃんは「凄い! すご~い!」と拍手をしてくれる。

ふむ、気分がよい!

イメルダちゃんはすっかり収穫できる小麦色になったそれを、地面から茎、穂まで何度も見返している。

そして、信じられないと言った顔でこちらを振り向く。

「ちょっと、これなんなの!?」

「だから、植物育成魔法なんだってば!」

わたしが胸を張ると、「信じられない……」とイメルダちゃんは呟く。

「この魔法があれば、飢饉の心配がいらないじゃない……」

「ちょっと待って、イメルダちゃん!

魔力を使うから、一家族分ならともかく、国とか町とか分をまかなうほどは、育てられないからね!」

と慌てて止める。

ママはどうかわからないけど、少なくとも、わたしでは無理だ。

「でも、皆が使えるようになれば……」

などと、諦めきれないと言った感じにイメルダちゃんは言うけれど、う~ん……。

「エルフのお姉さんが言うには、これが使える人は滅多にいないって事だから、難しいんじゃないかな?

白の魔力持ちで、なおかつ、膨大な魔力が必要だって事だし」

因みに、お兄ちゃん、お姉ちゃんらは、この植物育成魔法が使えない。

使えるのはママとわたしだけだ。

「白の魔力……そうなんだ……」とイメルダちゃんはがっかりと肩を落としていた。

――

「とりあえず、こんなもので良いかな?」

しばらくは持つぐらいの小麦を育てて収穫すると、食料庫に詰め込む。

後は明日に回すことにする。

穂や脱穀等の加工もしてしまおうと思ったけど、皆の服やら日用品が足りない事を思い出したのだ。

少なくとも、エリザベスちゃんのオシメは有る程度そろえないと困る。

他にも皆の服や食器類もいる。

冬のことを考えたら、毛布やセーターとかも合った方が良い。

うん、取り急ぎその辺りを買いに行こう。

あ、でも、皆を町に連れて行くわけには行かないんだよね。

そうすると、その間、ここでお留守番をして貰わなくちゃ駄目か。

家のこと、家の周りのことを一応、説明しておこうかな。

家に戻ろうとしたら、玄関前の階段にイメルダちゃんが一人、俯いたまま座ってた。

ああ、わたしが一緒にいるのならともかく、ここに女の子だけでいるのは、危ないんだよなぁ。

後で、その辺りも注意しなくちゃ。

気を使ってくれたのか、イメルダちゃんの側に近衛兵士妖精ちゃんが一人飛んでいて、「ありがとう」とお礼を言うと、にっこり微笑み飛んでいった。

「どうしたの?

中に入らないの?」

訊ねたけど、イメルダちゃんは答えない。

けど、わたしが隣に座ると、ぽつりぽつりと話し始めた。

「わたくし、知っていたの。

お母様が男子を産めないことで責められていることを。

知ってたの」

「うん……」

「だから、わたくし、頑張って勉強をしたわ。

昔、女性で継承した人がいるって聞いたから。

領地運営の勉強を――。

あと、仮に婿を取る事になる為にと、礼儀作法だって――。

男の子が産まれなくたって、大丈夫だって!

大丈夫なんだって!

分かって貰いたくって」

イメルダちゃんの目から大粒の涙がポロポロコボレていく。

「イメルダちゃん」

思わず、イメルダちゃんを抱き寄せていた。

イメルダちゃんはわたしの肩に顔を押しつけた。

「何もかも――無駄だったの。

わたくし――馬鹿、みたい……」

こういう時、なんと言ってあげればよいのか、わたしには分からない。

だって、前世のわたしは多分、人とほとんど交流してこなかった中学生女子で、現世は頼りになるママや兄姉に守られていた”小さい娘”に過ぎない。

誰かを慰めるとか、誰かを支えるとか、そんな経験など一切してこなかった。

だから、一生懸命頑張ったのに報われなかった、自分より小さな女の子に対して、どう接すればよいのか?

何を言ってあげれば正解なのか?

よく分からなかった。

ただ、胸や右腕に伝わってくる温かさだけを感じるだけ感じながらも、ただ、手をこまねくだけしか出来なかった。

しばらくすると、「ごめんなさい」とイメルダちゃんがポツリと呟いた。

そして、顔をわたしの胸から離すと指で目元の涙を払う。

わたしがスカートのポケットからハンカチを取り出し渡すと、それで目を押さえる。

その時、不意に思いついた。

「あ、だったらその知識を我が国に活かせない?」

「え?」

イメルダちゃんは目をぱちくりさせながらこちらを見上げる。

わたしは家の前を手で示しながら言う。

「ほら、植物育成魔法で色んな植物を育てたけど、なんだか、適当な場所に育てちゃったじゃない?

どの場所に、何を育てたらよいかとか考えてくれると嬉しいんだけど……。

我が国の総理大臣ってことで!」

「そうり大臣?」

イメルダちゃんが小首をひねる。

あれ?

総理大臣じゃなかったっけ?

「偉い大臣のこと」

「宰相のこと?」

「宰相? なのかな?

一番偉い大臣」

「宰相……」とイメルダちゃんは何か考え込んだ後、立ち上がって辺りを見渡す。

「分かったわ!

わたくし、ここの宰相になってあげる!」

「ありがとう!

頼もしい!」

正直、そういうの考えるの苦手だから、助かる!

すると、イメルダちゃんは妖精姫ちゃん達の花壇の方に向かって歩き始めた。

慌てて、わたしもついて行く。

花壇の上を妖精ちゃん達が数人飛び回り、例の薔薇の上には機嫌良さげの妖精姫ちゃんがちょこんと座っていた。

可愛い!

その正面に立ったイメルダちゃんは花壇を指さし宣言をする。

「まずは、この場所を小麦畑にしましょう!」

妖精ちゃん達がぎょっとした顔でイメルダちゃんを見る。

妖精姫ちゃんが慌てて、イメルダちゃんの前まで飛んでいき、何やら言っている。

だけど、イメルダちゃんは目に力を入れて言う。

「こんな日当たりのよい場所を観賞用の花で占領するなんて勿体ない。

優先順位の高いものを育てるのは当たり前よ!

さ、抜いてしまいましょう!

あ、こら、邪魔!」

イメルダちゃんが花を引っこ抜こうとするのを、妖精ちゃん達が慌てて妨害する。

わたしも止める。

「イメルダちゃん!

妖精姫ちゃん達にはいつもお世話になっているから、そこは譲ってあげてぇぇぇ!」