作品タイトル不明
美容院ぽい感じ?
「恐らくだが……。
その飛び猿って奴は、ここいらで暴風猿と呼ばれている魔物だな。
幾つもの村が襲われ、壊滅している。
地獄ネズミほどでは無いにしても、災害級の魔物と恐れられている。
そして、お前が言う岩ばっふぁろー? だったか? そちらは、 国破壊灰色牛(くにはかいはいいろうし) と呼ばれる魔物だと思う。
怒り狂った奴が昔、一国の王都を壊滅的な被害を及ぼしたことから名付けられている」
大げさ――とは言えないかな?
飛び猿君も集団になれば、一般人からしたら脅威だし、岩バッファローさんは ワイバーン(偽竜君) より強いし。
まあ、でも……。
「飛び猿君はここから結構離れていたから、彼らに襲われたって事は無いよ。
あと、岩バッファローさんは肉を食べないので、仮に襲われたとしても、後は残っているはずだから」
人間部分はまあ……。
R15であってもお見せできない状態だろうけど、服とか持ち物は少なくとも残っているはず。
「ま、まあ、そうか。
そうだな。
それに、そもそも、林より先はそういう魔獣や魔物が闊歩していることは誰もが知っていることだ。
気でも触れんかぎり、向かわんだろう」
「だいたい、巨大赤ムカデ君が出たぐらいで、家から出られなかった人が、行かないと思うけど?」
「……まあ、それもそうか」
アーロンさんは渋い顔ながらも、頷いた。
あ、ひょっとすると、ユニコーン君を囮にしたのかも? と言おうと思って止めた。
ユニコーン君のことはヴェロニカお母さんに公言しないよう止められていたからだ。
それに、まあ、それでも領主様達で草原を抜けるのは無理だよね。
少なくとも、騎士さん達は流石に連れて行ったはず。
そんなことを考えていると、アーロンさんは締めるように言う。
「とにかく、どのような結末を迎えたか分からない間は、町に近づかない方が良い」
わたしはそれに頷くのだった。
結界を抜けて、我が 家(国) に到着!
すると、完全武装の姉姫ちゃんがすーっと飛んできた。
そして、何やら怪しむように槍を向けてくる。
え?
何?
怪しい?
怪しい物を持ち込んでいないか、チェックする?
……いや、わたしがわたしの 家(国) に入るのに必要なこと?
守護神として?
なんだか面倒くさい!
何やら、わたしの髪やら、袖やら、スカートやらをさんざん引っ張った後、神妙な顔をした姉姫ちゃんは、ようやく〝行って良し!〟と身振り手振りをしてくれた。
激しく面倒くさい!
遠い目をしつつ、家に向かって歩くと、ヴェロニカお母さんが家から出てくるのが見えた。
妖精メイドのサクラちゃんが日傘を差して上げていて、側には近衛兵士妖精の 黒風(こくふう) 君が飛んでいる。
白雪ちゃんも、わたしの胸から出ると、側に行ってくれた。
近寄ってくるヴェロニカお母さんが心配そうに訊ねてくる。
「それで、どうだった?」
そんなに刺繍の売れ行きが心配だったのかな?
まあ、いつもの倍、有ったからだろうけど……。
わたしはニッコリ微笑んだ。
「うん、ちゃんと売れたよ。
というより、売りに行ったアナさんが、もっと欲しいって催促されたらしいよ」
生地屋さんとしてはめったに行けない帝都で、出来るだけ沢山、刺繍を見せ、販路を開拓したいとの事だった。
生地屋さんに「出発まであと一週間有るから、出来るだけ作って欲しい!」と懇願され、当事者でないアナさんは下手な返事も出来ずあたふたしてしまったと苦笑していた。
そのことを話すと、ヴェロニカお母さんは少し困った顔をする。
「それはもちろん良かったし、あと一週間、極力作るのも分かったけど……。
領主の件はどうなったの?」
あ、そっちの件か!
なので、アーロンさんが話してくれた内容を伝える。
ヴェロニカお母さんはうんうん頷きながら訊いてくれた。
そして、最後まで聞き終えると真剣な顔で言う。
「サリーちゃん、まずは改めてになるけど、しばらく町に入らない方が良いわ。
ライアンさんという方がおっしゃる通り、何が起こるか分からないもの」
「うん、そのつもり。
あ、ただ、中には入らないけど、アーロンさんが3日に1回、治療のために来て欲しいって。
その時に、獲物があるのであれば買い取るって……」
それに対して、ヴェロニカお母さんは少し渋い顔をする。
「まあ、そう、それは仕方がないけど……。
でも、注意してね。
特に、ユニコーンの件は、くれぐれも話さないでね」
「うん、話さない」
「あと、領主の行き先は、過度に避ける必要は無いけど、探るようなことはしないようにしてね。
その宝物とやらを狙っていると思われるのは非常に危険だから」
あ、確かにそうかもしれない。
わたしが頷くと、ヴェロニカお母さんは続ける。
「それと、わたくし、その領主のこと、実は少しは知っているの」
「え?
そうなの?」
「ええ。
そんなわたくしの予想では、〝あれ〟が林を抜けてこちら側に向かおうとした可能性は〝十中八九〟無いと思っているわ。
小心者で小ずるいあの男は、仮に宝がそちらに有っても、自ら行かないわ。
人を使って取りに行かせて、それを奪う。
そういう男よ」
「あぁ~
今までの話を聞く限り、そんな感じがするかも」
わたしの相づちに、ヴェロニカお母さんは頷く。
「なので、本人が動いたとなると、そのお宝を手に入れてどこか――帝都かその他の場所かは分からないけど、貴族的何かのために移動したと考えた方が良いわ。
そして、そういうのは、極力知らない方が良いわよ」
「うん、分かった」
わたしが頷くと、ヴェロニカお母さんは嬉しそうに頷き返した。
「じゃあ、シャーロットちゃん。
こちらに背を向けて、浴槽に入って」
わたしが促すと、湯浴み着を着た可愛い妹ちゃんは「うん!」と言って浴槽に入ってくれる。
腰を下ろしたシャーロットちゃん、その背を正面に、わたしは浴槽の外に座る。
そして、シャーロットちゃんの長い髪を手で持ち上げる。
そこに、足から出した白いモクモクを桶のようにすると、その中に髪を下ろした。
ふむ。
今やっているのは、前世、美容院で髪を洗う時っぽい感じの、再現だ。
もっとも、美容院などには行かなかった残念中学生女子だったわたしなので、テレビか何かで見たのをなんとなく再現しているだけだ。
なので、この形が正しいのかは定かでない。
白いモクモク桶の中に湯をしみ出させる。
このお湯加減はしょっちゅうやっているので、慣れたものだ。
一応、「湯加減はどう?」とシャーロットちゃんに確認すると「ちょうど良い!」と元気に返してくれた。
可愛い!
「熱かったり、逆に冷たくなったら言ってね」
妹ちゃんの髪を静かに濡らしつつ言うと、「うん! 分かった!」と返してくれる。