作品タイトル不明
飛来する恐怖2
にもかかわらず、 ワイバーン(偽竜君) の一匹が進路を邪魔するように、尾を振るう。
ちょ!
止めてよ!
白いモクモク盾でそれを弾く。
わたしの内心を見透かすように、他の ワイバーン(偽竜君) も後ろから尾を振るう。
この!
後ろを向き、それらも白いモクモク盾で弾く。
その弾みで尾の先から、液体のようなものが飛び散るのが見えた。
くそっ!
あれは毒だ!
すると、木の陰から「ギャ~オ!」と叫びながら何かが飛び出てきた。
猿型の魔物だ。
毒がかかったのか、赤い顔には青黒い飛沫のような痕が浮き出ていた。
ふらふらと歩いた彼は、口から泡を吹き出していて、ビクッ! と痙攣した後、バタリと倒れた。
駄目だ!
わたしだけならともかく、あれをイメルダちゃんには駄目だ!
慌てて、再度、家に向かおうとするも、コウモリの様な羽をはためかせながら、 ワイバーン(偽竜君) が邪魔をする。
しかも、尾の牽制付きだ。
空気を切り裂く音が響く。
「この!」
右足から出したモクモクを伸ばし、蹴り飛ばそうとするも、巧みにかわし、後ろの ワイバーン(偽竜君) が間合いを詰めてくる。
やりにくい!
すると、わたしの胸から近衛兵士妖精の潮ちゃんが飛び出てきた。
勇ましい顔をした近衛兵士妖精ちゃんは後方の ワイバーン(偽竜君) に向けてサーベルを抜き、構える。
そして、青色の魔力に染まった刃を振るった。
水の刃が ワイバーン(偽竜君) 達を襲う――が、緑色の皮膚に薄らと傷を残すものの、肉まで届かない。
逆に ワイバーン(偽竜君) の羽ばたきで、潮ちゃんは飛ばされていく。
潮ちゃんでは、彼らの相手は無理だ!
勢いのまま、わたしの前に立ちはだかる ワイバーン(偽竜君) の――その横を吹っ飛びながら通りすぎる彼女に「潮ちゃんは一旦引いて! 応援を連れてきて!」と叫んだ。
何とか、空中で止まった潮ちゃんはオロオロとした顔をしていたけど「急いで!」と急かしたら、家に向かって飛んで行ってくれた。
これでいい!
多分、彼女なら遠距離でも状況は伝えられるし、恐らくやってくれていたとは思うけど……。
今は、潮ちゃんを守りながら戦うのは無理だから、それでいい!
そうしてる間に、間合いを詰めてきた後ろに居る ワイバーン(偽竜君) が尾を鞭のように振るってきた。
左手の白いモクモク盾で弾くと同時に、上から鋭い爪を持つ足で襲ってきた一匹を右手のモクモク盾ではじき返す。
後ろからの噛みつきも躱し、蹴りを入れようとして――太ももの前にある感触に慌てて止める。
イメルダちゃんの体がズレ落ち、足の近くまで降りてきていたのだ。
駄目だ、危ない!
体を大きく使う足技は使えない。
下手をしたら、怪我をさせてしまう!
躊躇している隙間を縫うように、巨大な顎が襲ってくる。
わたしは白いモクモク盾で弾く。
左右から尾、上から噛みつき――。
鋭利な尾先や爪が白いモクモク盾を削り、金属質な音を響かせる。
イメルダちゃんが恐怖に硬直し、震える感覚が伝わってくる。
その体は脆そうで、少しでも無茶をしたら千切れそうだ。
そうだ、イメルダちゃんはこんな弱くて柔らかい女の子なんだ。
”威嚇の一吠え”なんか 側(そば) では絶対出来ない!
魔力(白いモクモク) のグローブも完全に押さえ込めていない現状、使えない!
わたしが大したことないと思う事でも、きっと、取り返しの付かない事になってしまう。
怖い!
わたしは生まれてこの方、味わった事のない恐怖に襲われた。
自分の身が危ないと思い、怯えた事はある。
泣いた事だって有る。
だけど、大好きな人を壊してしまうかもしれない事が、死んでしまうかもしれないと思う事が――こんなに恐ろしいなんて……。
幾重もの尾が向かって来るのを、白いモクモク盾で何とか弾く。
その硬質な音がわたしの神経をそぎ落とす。
怖い!
嫌だ!
止めて!
上手く動けない!
体が上手く動かない!
「くそっ!」
わたしは両手足から出した白いモクモクを周りに展開させ、殻のようにした。
……大丈夫、潮ちゃんが応援を呼びに行ってくれている。
白雪(しらゆき) ちゃんや 黒風(こくふう) 君達が連れ立って来てくれれば、少なくとも逃げる隙は作ってくれるはずだ。
わたしの胸の中で震えるイメルダちゃんのぬくもりを感じながら、白いモクモクを厚く張る。
尾が弾く音や足で鷲掴みするような引っ掻く音が聞こえるが――動かない。
必死に庇う。
!?
ブーンと空気を震わす音が少し遠くから聞こえた。
あの音は――兵隊蜂さん!?
牽制しているのか、幾匹の気配が散らばりつつ飛んでいるようだ。
更に、白狼君達が吠える。
彼らも、意識を分散させようとしているのか、わたし達の周りを遠巻きにしながらも、吠えまくっている。
ワイバーン(偽竜君) らの何匹かが、わたし達から少し離れる。
『駄目よ! いいから離れて!』
わたしは吠えた。
兵隊蜂さんや白狼君達では ワイバーン(偽竜君) には敵わない!
下手をすると、殺されてしまう!
でも、わたしの声が届かないのか、兵隊蜂さんの羽の音も、白狼君達の吠える声も消えない。
止めて!
その子達を殺さないで!
焦燥に駆られていると、家の方から何かが凄まじい速度で近づいてくるのに気づく。
白雪ちゃん!?
……違う。
あれは――。
白いモクモクを少し開け、そちらを向くと、目に入ったのは黒地に青柄の羽――「悪役妖精!?」
ワイバーン(偽竜君) も気づいたのか、わたしの前にいた一匹が振り向き、咆哮を上げた。
険しい顔をした悪役妖精は腰からサーベルを抜剣すると、斜め上方向を横薙ぎにする。
ザクっ! と音と共に液体が吹き上がる気配――そして、真っ赤な液体と、鰐顔が一つ、地面に落ちた。
凄い!
悪役妖精は鋭くわたしに視線を向けると、手で行くように指示する。
躊躇してる場合じゃない!
わたしはイメルダちゃんを抱き直すと、つま先に力を入れ、駆けた。
ワイバーン(偽竜君) が背後から迫る気配――同時に悪役妖精が何かをしたのか、それらがわたし達から離れるように吹っ飛ぶ。
とにかく、イメルダちゃんを結界の中に入れなくては!
急ぐわたしの前方から何かがまた、飛んでくる気配を感じる。
今度こそ、白雪ちゃん達だ!
白雪ちゃん、潮ちゃんを始めとする近衛兵士妖精の皆が二十人ほど、慌てた様子で飛んできて、わたし達を見るとほっとした顔になった。
そして、わたし達を守るように取り囲む。
わたしが速度を落とさず「悪役妖精が!」と言うも、白雪ちゃんは問題ないというようにニッコリ微笑む。
……まあ、 ワイバーン(偽竜君) を一薙ぎで斬り伏せたのだ、大丈夫か。
ただ、白狼君達や兵隊蜂さんの事を話すと、白雪ちゃんは頷き、視線を転じた。
視線を受けた、黒風君ら十人ほどが、彼らの方に向かってくれた。
ありがとう!
駆けていると、家の結界の手前に妖精ちゃんが一人、飛んでいるのが見えた。
黄金色の羽の妖精ちゃん――妖精姫ちゃんだ。
わたし達を見て、安心したように微笑むと、横を通るわたしの側を、付いてくる。
結界を越えて、畑を通り過ぎ、階段を上がり――妖精ちゃん達が開けてくれた二つの扉をくぐって、家の中に入った。
同時に、わたしは床に座り込んでしまった。