作品タイトル不明
本当は怖い――!
結界を抜けて、森を走っていると、いつも通り、白狼君達が併走してくる。
川を越え、森を抜け、草原に出ると、前方に巨大なトカゲ君が二十匹ぐらいの一団で、のしのしと歩いていた。
見かけない子達だなぁ~
前世の何かで見た、何とかドラゴン……コモドだっけ?
そんな感じのトカゲ君だ。
大きい子は全長が、十メートルぐらいあるかな?
白っぽい舌を時々出している。
う~ん、トカゲかぁ~
美味しいかな?
とはいえ、あれほどの巨体を二十匹も――正直いらないなぁ~
白狼君達はチラチラ見てくるけど、あえて狩ろうとは思わない。
向こうも、こちらをチラリと見たけど、興味が無いのかすぐに視線を別に向けてるし。
お?
駆けた。
結構早い!
コモドドラゴン君達が向かった先には――灰霧アブ君の塊があった。
大きい口を開け、そこに向かってジャンプする。
逃げ惑う灰霧アブ君の塊に向かって、皆して何度も繰り返している。
灰霧アブ君の塊がすっかり小さくなった頃、コモドドラゴン君達はようやく飛び上がるのを止め、モグモグと咀嚼をしている。
灰霧アブ君なんて美味しいのかな?
魔虫(それ) が主食って事なんだろうけど。
まあ、鬱陶しい灰霧アブ君を食べてくれるのであれば、わたしとしてはありがたい。
そのままにして、先に進む。
すると、前方に真っ赤な岩が動いているのが見えた。
え?
何あれ?
よく見ると、ゴツゴツした赤い皮で覆われたトカゲだった。
さっきのコモドドラゴン君より大きい!
全長、十五メートルぐらいかな?
周りを威嚇するように 睨(ね) め付けながら、歩いている。
あ、ひょっとして、あれがアーロンさんが倒したという、 赤岩竜(あかいわりゅう) 君かな?
なかなか、強そうではある。
噂の赤竜君、ちょっと試しに倒してみようかな?
なんて思ったけど、別の方に駆けて行ってしまった。
視線を向けると、地面から化けワーム君が顔を出していて、 赤岩竜(あかいわりゅう) 君はそれに噛みついた。
赤岩竜(あかいわりゅう) 君の真っ赤な体に、化けワーム君の体液のしぶきがかかった。
……まあ、次の機会で良いかな?
先に進む。
「なんか、トカゲ君達が多いね」
わたしが漏らすと、胸の中から出てきた近衛兵士妖精の潮ちゃんが頷いてみせる。
昨日は灰霧アブ君が沢山居た草原だったが、今は至る所にトカゲが駆け回っていた。
中にそこそこ、大きかったり、凶暴そうなのが居たりと、非常に危険な場所に見えるけど、彼らの目標はあくまで魔虫のようで、わたしや白狼君達は完全に無視されていた。
う~ん、食べ尽くしてくれるのならありがたいんだけど……。
ただ、トカゲ君達では飛ぶ事の出来る灰霧アブ君を全て捕らえる事は出来なさそうなので、そこまでは望めなさそうではあった。
まあ、それでも幾らかは減るし、虫除けの薬草も買ってあるので、イメルダちゃんを連れて行く時も、大丈夫だとは思う。
ん?
上空で気配を感じ、足を止め、視線を向ける。
巨大な蜂が十匹ほど、こちらの様子を窺っていた。
あれは……。
大スズメバチ君か。
前世でも悪名を轟かせていた大スズメバチ君だが、異世界のそれはさらに凶悪な感じになっていた。
一匹一匹のサイズが二から三メートルぐらいで、鹿さんを即死させる毒針に、弱クマさんの頭を食いちぎる顎を持つ。
そんな彼らが集団で襲ってくるので、多分、赤鷲の団の皆であれば、あっという間にやられてしまうだろう。
まあ、もっとも、当然と言うべきかフェンリル一家にとっては何の脅威にもならない。
単に凶暴なだけで、恐らくいつもの兵隊蜂さん達の方が強いと思う。
ただ、ちょっとやっかいな所があって……。
彼らは一度目に付けた者を執拗に追う 質(たち) って所だ。
彼らが目に付けているのがわたしだった場合、彼らを町まで連れて行ってしまう事になる。
そうなると、わたしはともかく、町の人たちを危ない目に遭わせる事となる。
全力で走れば振り切れるだろうけど、荷車があるからなぁ。
無理をして荷車を壊してしまったらいやだし、どうしたものかな?
やはり、倒しておいた方が良いかな?
空を飛ぶし、仲間を呼ぶしでかなり面倒くさいんだけど……。
まあ、やるしかないかな?
すると、近衛兵士妖精の潮ちゃんも”手伝う!”という様に身振り手振りをしてくれる。
空を飛べる潮ちゃんが居れば心強い!
うん、ちゃちゃっとやっつけよう!
などと決意をしていると、背中でごそごそ動く気配を感じた。
顔だけで振り向くと同時に、背負っている籠の蓋がパカっと開いた。
そして、スライムのルルリンが肩に乗る。
「どう――」したの? と訊ねる間に、ルルリンの体が巨大な白い網の様に上空へと吹き上がり、スズメバチ君の集団を捕獲した。
ルルリンに包まれたまま地面に落ちたスズメバチ君の体は、泡に包まれるのと同時にお湯に落とした氷のようにアッサリ溶け、すぐに消え去った。
そして、巨大な網はわたしの肩に収縮し――何事もなかったように、いつものまん丸スライムボディになった。
「……」
”……”
わたしと近衛兵士妖精の潮ちゃんが呆然としている前で、スライムのルルリンは”何をしてるの! さっさと町に行こう!”というようにポヨンポヨン揺れている。
ルルリン……。
もう、完全に前世で言う”本当は怖いスライム”になっちゃってる!
わたしは頭を抱えてしまった。
町の近くの林に着き、白狼君達は帰って行く。
今日は獲物無しだけど、文句を言わずに――逃げるように帰って行った。
スライムのルルリンに怯えちゃったのかな?
一応、籠を下ろすと蓋を開け、「町では大人しくしてね」と念を押す。
ルルリン、”分かってるって!”と言うようにポヨポヨ揺れている。
まあ、大丈夫だと思うけど、本当に頼むよ!
っていうか、分かっていたけど、この籠に付いている魔道具、ルルリンには全く効いていないよね!
普通に蓋空けて出てきちゃ、全然駄目だと思うんだけど……。
近衛兵士妖精の潮ちゃんには透明になってもらい、籠を背負い直して門まで進む。
門番のジェームズさんに説明をすると、一応、蓋を開けて確認後、すんなり通してくれる。
まあ、二度目だしね。
獲物が無いので、冒険者組合に行く。
中に入ると、小白鳥の団の皆が他の冒険者のお姉さん達と話をしているのが見えた。
「こんにちは」
と手を振ると、小白鳥の団団長のヘルミさんが「あ、サリーちゃん!」と嬉しそうに駆け寄ってきた。
「何か依頼を受けるの?」
と訊ねられたので、「今日は従魔登録をしに来たの」と答える。
「お、従魔登録?」
と冒険者のお姉さん達が興味津々と行った感じに近寄ってくる。
小白鳥の団のクッカさんがわたしの足下を見ながら訊ねてくる。
「確か、犬型の魔獣なんでしょう?
もう預かり所に預けちゃったの?」
「ん?
今日はスライムの方なの」
「スライム?」
不思議そうにする皆に、ルルリンを見せて上げようと籠を下ろすと「サリーちゃん、待って!」と声を掛けられた。
振り向くと、受付嬢のハルベラさんが「まずは、こちらで!」と手招きをしている。
籠を持って、ハルベラさんの元まで行くと、美人受付嬢さんに「登録する前なのに、むやみに開けないの!」と怒られてしまった。