作品タイトル不明
赤ムカデ君襲撃と頼れぬ者2
だけど……。
騎士団長さんの進言に、領主様は頷かなかった。
どころか、騎士団長さんを酷く責めたとのことだった。
「お前達が討伐に出たら、誰がここを守るんだ!
なんと無責任な!
貴様はわたしよりも、民を選ぶのか!」
しかも、護衛分は分けると提案しても、「全力でわたしを守れ!」と叫んだらしい。
これを聞いた、皆、激怒した。
わたしも勿論、怒ったよ!
何なのそれ!
怖いのは分からないでも無いけどさぁ~!
領民を守らず、何が領主なの!
でも、進言が聞き入れられなかった騎士団長さんが思い詰めた顔で「騎士団を辞めてでも――」と言い出したのを、アーロンさんが止めたのは正解だと思う。
そんなまっとうそうな人が辞めて、領主さんの意見に賛同する人が騎士団長になったらさらに最悪なことになっちゃう。
結局、今回の件は冒険者組合が対応することになった。
「すまんな、報奨金をつり上げるのが精々だった……」
などと、悔しそうに謝るアーロンさんを、勿論、誰も責めなかった。
むしろ、その辺りを引き出した手腕は凄いと思う。
わたしがこっそり「領主さんの家にムカデ君を一匹、投げ込んじゃおうか?」と言うと、アーロンさんは「……駄目だ。使用人らに罪は無い」と首を横に振った。
まあ、一瞬の沈黙と、あくまで使用人の人たちを気遣っている辺り、アーロンさんも胸に溜まっている物があるって事でしょう。
「とにかく、当てに出来ないものを、当てにすべきで無い」
とアーロンさんは言うと、皆と対策について話し始めた。
内容は特に難しくない。
しばらく、冬ごもり同様、町以外の村に通達を出し、町に避難するように伝える。
そして、戦う術の無い者は町の外には極力出ない様にしてもらう。
氷結系の魔術が使える者と数人の護衛をグループ分けし、交代で町の塀を巡回すること。
その時、ムカデ君が現れたら、報告と共に、壁から落とす役目をすること。
無理に倒さず、侵入されないようにすれば良いとのこと。
「集団で現れたらどうする?」
と赤鷲の団団長のライアンさんが訊ねると、アーロンさんは頷きつつ答える。
「とにかく、皆が駆けつける時間を稼ぐ事、それを念頭に、一番上に来た奴から落としていって貰うしか無い。
幸か不幸か、まとまっていた奴らも、今はばらけているらしいからな」
町の周りは巨大な魔獣が少ないからではないか?
との事だった。
まあ、マンモス君すら現れない場所で、集団になる必要は無いよね。
そして、最後に、アーロンさん、わたし、赤鷲の団の皆で、巡回し、数を減らす。
魔術役にアナさん、護衛兼トドメ役にアーロンさん、ライアンさん、マークさん、そして、アナさんのサポート兼回復役にわたしという形だ。
わたしの参加について、異論が出るかな? とも思ったけど、白大猿君の討伐の件も有り、特に出なかった。
「もしかして、サリーさん、町に泊まり込むことになったの?」
イメルダちゃんが心配そうに訊ねてきた。
シャーロットちゃんも不安そうにこちらを見る。
けど、わたしは首を横に振る。
「朝早く出たり、帰りが遅くなったりするかもしれないけど、一応、帰ってくる予定」
「大丈夫なの?」
とイメルダちゃんが眉を寄せて訊ねてくる。
「町の皆は大丈夫って言ってた」
と答えつつも、語尾が小さくなる。
わたしも心配したけど、アーロンさんは「問題ない」と断言していた。
「単純に守るだけなら大丈夫だ。
仮に、本当に 町中(まちなか) に乱入してきたら、その時は、団長も騎士団を出すと言ってくれている。
先制攻撃だとか何とか言いながらな。
それに、本当にどうしようも無い状況でも無い限り、お前に頼りすぎるのも健全では無い。
本来、この町の住民ですら無いお前が、無理をする必要など無いのだ」
……それを言うなら、正直、 組合長(アーロンさん) も、冒険者組合も、冒険者も、町の防衛に対して、そこまで無理をする必要など無いと思うんだけど。
でも、アーロンさんにはアーロンさんの矜持があるんだろうと思い、わたしはいったん帰り、町には通う事にした。
「ただ、いざとなったら、町に泊まるかも知れない」
と言いつつテーブルの上の、ミニチュアテーブルでお茶を飲む妖精姫ちゃんにお願いする。
「ねえねえ、姫ちゃん。
近衛兵士妖精”君”でも”ちゃん”でも良いんだけど、借りること出来ないかな?
帰る時間等、逐一伝えて貰えば安心できるんだけど」
イメルダちゃんはうんうん頷きながら、「それなら、心配せずに済むわね」と言う。
妖精姫ちゃんはニッコリ微笑みながら了承してくれる。
え?
前に一緒に行った 白雪(しらゆき) ちゃんの方が良いのでは?
そうだね。
白雪ちゃん、お願いできる?
すーっと飛んできた近衛兵士妖精の白雪ちゃんにお願いすると、ニッコリした妖精ちゃんはコクコクと頷いてくれた。
助かります!
「そういえば、イメルダちゃん。
井戸はどうだった?」
わたしの問いに、イメルダちゃんは少し困った顔をする。
「お母様のお陰で、掘ることは出来たわ。
ただ、ちょっと畑を広く作り過ぎたみたいで……。
それだけ分、井戸から水をくみ上げるのは大変そうだわ」
「そうなんだ」
これは、知識チートの定番、手押しポンプの出番――なんだろうけど……。
あれ、正直よく分かってないんだよね。
Web小説だと大体、完成したものが登場してたし。
真空がどうのこうのとか……。
前世、中学生女子には、荷が重すぎるなぁ。
そんなことを考えている間に、イメルダちゃんが続ける。
「だから、出来れば湧き水を土管で引くのもやって貰いたいの。
無論、ムカデの件が一息ついた後で良いけど」
「そうだね。
あ、ムカデ退治の前に、物作り妖精のおじいちゃんには飼育小屋の改造を進めて貰いたいんだけど。
あと、土管で引いた後に溜めておく、ため池の位置とかを決めておいて貰いたいなぁ」
「分かったわ。
おじいちゃん達にはそのように伝えておくわ。
あと、湧き水の位置を教えて貰える?」
なので、木の板に簡単な地図を描いて、位置を教えたりする。
すると、椅子に座るわたしの――その腰に、シャーロットちゃんが抱きついてくる。
「ん?
どうしたの?」
訊ねると、少し 膨(ふく) れ面になった妹ちゃんが見上げてくる。
「サリーお姉さまが忙しくなると、シャーロット、退屈!」
「シャーロット、止めなさい!
サリーさんは町のために働くのよ!」
とイメルダちゃんが 窘(たしな) めるけど、そうだなぁ~
春になったのに、家の中に閉じ込められていると、鬱屈してしまうのも仕方が無いかなぁ?
わたしが付きそう形であれば、結界内を散歩させてあげられるけど……。
それも、直ぐに飽きちゃいそうだし……。
かといって、外に出すのも危ないし……。
あ、そうだ!
「じゃあね、シャーロットちゃん。
ムカデ君の事が終わったら、妖精ちゃんの町に、また行ってみない?
前回は結局、さほど回れなかったし」
視線を妖精姫ちゃんに移すと、クッキーにメープルシロップを付けて食べていた姫ちゃんは、”歓迎するわ”というようにニッコリ微笑み頷いてくれた。
……どうでも良いけど、姫ちゃん、そのクッキー単体でも結構甘いんだけど?
まあ、良いんだけど。
シャーロットちゃんは「うん! また行きたい!」と笑顔で言ってくれた。
よしよし、可愛い妹ちゃんと遊びに行くために、ちゃっちゃと、ムカデ君退治を終わらせましょう!