作品タイトル不明
赤ムカデ君襲撃と頼れぬ者1
でも、どうしても、わたしは思い描いてしまう。
『小さい妹!
母さんに怒られる心配が無いから、思う存分吠えまくれて、気分が良いぞ!』
と嬉しそうに”威嚇の一吠え”を連発する 大きい(クー) 兄ちゃんの姿を……。
『あぁ~!
虫虫虫、気持ち悪い!
燃えてしまえ!』
と赤いモクモクを炎に変え、怒りの形相で 魔虫(まちゅう) を追いかけ回す、ケリーお姉ちゃんの姿を……。
元々、外れやすいタガが、ママという重しを失い、暴走してしまっているのでは無いかと……。
思ってしまうのだ。
小さい(コル) 兄ちゃんだけは理知的なのが唯一の救いなんだよね、我が兄姉は……。
あれ?
でも北方って……。
「ねえねえ、アーロンさん。
この町の北って、わたしの家がある森だと思うんだけど……」
わたしの問いに、アーロンさんは頷く。
「ああ、北方って言い方だと語弊があるな。
正確には北東を通る大河、シャスレー川――その沿いにある湿地のことだ。
もっとも、そういう記述が残っているだけで、本当のことかは分かっていないがな」
北東……。
東には確か、 小さい(コル) 兄ちゃんが行っているはず。
じゃあ、我が兄姉を疑うのは、早合点だったか。
脳裏で、 大きい(クー) 兄ちゃんとケリーお姉ちゃんが『小さい妹、流石に失礼だぞ!』『そうよ! そうよ!』と言っている。
疑って申し訳ないけど、反省はしないよ?
だって、お兄ちゃん達を疑うのは、お兄ちゃん達の過去の やらかし(行動) がそうさせているんだからね!
そんなことを考えていると、アーロンさんが探るように聞いてきた。
「……お前、行ったことがあるか?」
「ううん、川があるのは知ってたけど、そっちの方には行っていない。
一度、行ってみようとは思っているんだけど……」
「……まあ、お前なら大丈夫だろうけど、気をつけろよ」
「うん」
そこで、アーロンさんは少し考え込む。
そして、わたしの方に申し訳なさそうな顔を向ける。
「それと、すまんが巨大赤ムカデ退治を手伝ってもらえんか?
単体ならともかく、複数匹になると、流石に厳しい。
集団で町の塀を乗り越えてきたらと思うと……」
うわ!
そうだよね!
ムカデだもん、 塀(壁) を登ってくるよね!
「うん、分かった!
……一旦、家に帰らないと、泊まりは厳しいけど」
連絡無しに帰らなければ、流石に皆心配するだろう。
近衛兵士妖精ちゃんがいれば、一報を入れて貰えるんだけど……。
言いにくそうにしてるのを察したのか、アーロンさんは頷く。
「その辺りは気に病む必要は無い。
ただ、今日、討伐できなかった場合、状況によっては出来れば町に泊まって欲しい。
……いや待て、お前の所の集落は大丈夫なのか?」
「ん?
大丈夫だよ。
ムカデ君ごとき、一掃してくれる戦力がそろっているから」
結界もあるし、仮に百匹現れたとしてあの程度、近衛兵士妖精の白雪ちゃんなら秒殺してくれると思う。
わたしが安心させるようにニッコリ微笑むも、アーロンさんは顔を引きつらせながら「お前の所の集落――”帰れぬの森”……」などとぶつくさ言っている。
そして、「ん?」とわたしが小首を捻ると、何やら達観した顔で「知らない方が良いことも世の中にはあるな」などと言っている。
何が?
そんなやり取りをしていると、入り口から冒険者組合の人が焦った顔をしながら駆け込んできた。
「組合長!
大変です!
巨大赤ムカデが三匹、正門近くの町の塀に取り付いています!」
早速か!
「サリー!」
「うん!
わたし、足が速いから先に行ってるね!」
返事を待たずに駆け出すと、後ろから「分かった! 派手に動くなよ!」という答えが返ってきた。
わたしは振り返らず、手を振ってそれに答えた。
――
夕焼けも下火になった頃、我が家に帰ってきた。
いやぁ~疲れた。
あれから、大変だったけど、何とか帰って来れた。
多分、皆、心配しているだろうから、早く顔を見せて安心させなければ……。
そんなことを考えつつ、荷車を車庫に入れようとしていると、物作り妖精のおじいちゃん達が駆け寄ってきて、何故か荷車の上に乗った。
え?
何?
困惑していると、おじいちゃん達、何やら木箱を振りながら、プリプリ怒っている。
え?
あ!
粘土と 釉薬(ゆうやく) ね!
色々あって、忘れてた……。
ごめん、ごめんって!
木箱で叩くの止めて!
物作り妖精のおじいちゃん達を宥めつつ荷車を車庫に入れ――逃げるように家に入る。
中では、ほっとした顔のヴェロニカお母さん達、親子が迎えてくれた。
「何かあったの?」
と訊ねてくるイメルダちゃんに、巨大赤ムカデ君の事を話す。
「大変だったわね」
と言ってくれるヴェロニカお母さんに頷いた。
「領主様がしっかりしてくれていたら、もうちょっとマシなんだけどね」
「……そうね」
と頷くヴェロニカお母さん、一瞬だけど、珍しく、目を険しくさせていた。
そう、領主様が頼りないのだ!
あれから、塀にいる巨大赤ムカデ君の元に向かったんだけど……。
なんと、倒された後だった。
ちょうど町に帰ってきていた、元帝国魔術師団のフレドリクさん達、 火蜥蜴(ひとかげ) の団が魔術で塀から落とし、巨漢冒険者のパットさんら冒険者組が四十人ほどで取り囲み、ハンマーや斧で頭を砕き、何とか倒したとのことだった。
ただ、三匹の巨大赤ムカデ君に対して、フレドリクさんを初めとする冒険者や門番さんら二十人ほどが怪我をしていた。
巨漢冒険者のパットさんも毒にやられたのか、苦痛で顔を顰めながら座り込み――小白鳥の団団長のヘルミさんに、ブツブツ言われつつも介抱されていた。
……その辺りを突っ込みたかったけど、それどころじゃなかったので、わたしは皆を癒やして回った。
命には問題無さそうなパットさんは最後の最後に回したけどね!
なんやかんやとやっていて、最初の一報があってからそれなりに経った頃、途中で合流した赤鷲を含む、皆がぼそぼそと話し始めた。
内容は、”何故、騎士団が来ないのか?”だ。
突然の襲撃に、近場にいた門番さんや冒険者が対応した。
そこは問題ない。
皆が倒してしまったのに到着しない。
やや問題があるけど、突発的な事なので、まあ、理解できなくも無い。
だけど、怪我人の治療など 諸々(もろもろ) が終わっても来ない。
いくら何でも、おかしいでしょう?
という事だった。
倒されたという情報が回ってきたとしても、少なくとも様子を見に来るぐらいはするはずだ。
なのにそれも無い。
皆が不審がるのも致し方が無いことだ。
そして、遅れてやってきた組合長のアーロンさんの言葉に、皆、憤慨した。
アーロンさんはわたしが出た後、塀には行かず、急ぎ、騎士団の詰め所に向かったとのことだった。
さらにムカデ君がやって来ることを考えると、騎士団には出て貰った方が良いとの考えでだ。
騎士団長さんは直ぐに了承してくれたとの事だ。
この騎士団長さんは、冬ごもり中は領主さんの護衛で帝都に行っており、戻ってからハリソン衛兵長の悪行を聞き、町の人に申し訳ないと思っていたとのことだった。
「当然、出る!
今回の 騎士団(我ら) の働きで、民への 幾(いく) ばくかの 詫(わ) びとさせて貰う!」
と力強く言ってくれたとのことだった。