作品タイトル不明
スキルオーブ
「なんだろう、これ? もしかして、これはスキルオーブとかいうやつかな?」
お地蔵さんに魔石をささげ、地脈へと魔力を過剰供給し続けた結果、起きた現象。
まるで川が氾濫を起こすかのように地脈に流れる魔力があふれ出た。
すると今度は、地脈からお地蔵さんの前に置いた魔石へ、魔力が逆流した。
その結果、魔石がなぜかきれいで透明なビー玉のようなものへと変わってしまっている。
これが何なのかはわからない。
が、なんとなくインターネットにあふれる情報の海の中で見た単語である「スキルオーブ」という言葉が頭に思い浮かんだ。
何の確証もない憶測で書かれた情報だと思う。
政府が発表した寺社仏閣に魔石をささげるとスキルを得られるという情報。
それをもとに、インターネット上ではあれこれと予測がなされていた。
ある人は、魔石をささげることでステータスが表示できるようになるのだとか。
またある人は、突然頭の中に神の声が響いてスキルを授けられるのだとか。
真偽不明の情報を書き込むものが現れ、それに 探索者(シーカー) ではない人たちまで好き勝手に反応する。
結果、ネットには無茶苦茶な推論ばかりが広がっていた。
その中にあった一つの言説の中に、スキルを得られるオーブが手に入るのではないかというものを見かけた。
「けど、どうすりゃいいんだろうな? まさか、こいつを口に放り込んで食べろってことはないんだろうけど」
もしかすると、これがそうなのかもしれない。
だが、これがスキルオーブだとしてどのように使うのがいいのだろうか?
使用方法が一切わからないうえ、地脈がオーバーフローを起こした結果できた代物だ。
気軽に触れてもいいものかすら怪しいと感じて、触れるのを一瞬ためらった。
「ん? もしかして、こいつがほしいの、スーちゃん?」
そんなときだった。
お地蔵さんの前に置かれたままのスキルオーブに対してスーちゃんが反応した。
以前、トレントの新芽に対して触手を伸ばした時のように、僕の体にくっついているスライムのボディーの一部を伸ばし、その先がスキルオーブへと向かう。
だが、勝手に掴もうとするのではなく、ゆっくり伸びる触手は、まるで「これ、たべてもいい?」とおそるおそる尋ねてきているみたいだった。
「ほしいならどーぞ。食べてもいいよ、スーちゃん」
そして、そんなスーちゃんの行動に対して僕は一切の迷いなく首を縦に振った。
僕がダンジョンで遭難してこれまで無事だったのも、帰ってくることができたのも、すべてがスーちゃんのおかげだ。
そんなスーちゃんが欲しいというのであれば、どんなものであっても僕はためらいなく渡すことができる。
もうマジックバッグに残った魔石の数は限られている。
もう一度同じようにスキルオーブを欲しいと思っても、多分魔石の数が足りなくてできないだろう。
だが、それでもいい。
スーちゃんが求めるのであれば喜んで差し出そう。
僕はまよわず、「いいよ」と口にした。
それを聞いて、やはりスーちゃんがこれを欲しがっていたのは間違いなかったのだろう。
遠慮がちだった触手がピクリと跳ね、そのままスキルオーブを包み込んで取り込んだ。
“ユーマ、ありがとー”
そして、聞こえる謎の声。
え?
なにいまの?
スキルオーブを取り込んだスーちゃんからだ。
スライムの体なので口なんかない。
それなのに、確かに僕の頭の中へ声が届いた。