作品タイトル不明
逆流
僕の家からかつてあったダンジョンの跡地に行く道中。
そこにポツンとお地蔵さんがある。
道路の端にあり、小さなものだ。
雨に降られ、車が跳ねた泥を浴びることもあっただろう。
僕がダンジョンで遭難する前にそのお地蔵さんを掃除したけど、ダンジョンから脱出したあとにみたときには、十年分の汚れが積もっているように見えた。
そこにあるのが当然すぎるのか、誰からも意識されていないんじゃないかと思えてくるそんなお地蔵さん。
だが、このお地蔵さんがある場所は間違いなく地脈が流れている。
僕が魔石を捧げて地脈を再生させてからは、緩やかではあるけれど、しかし確実に地中の中で魔力が巡っていることをアースソナーで感じられる。
であれば、この流れは本来は昔からあったものなのだろう。
いつどこで、誰がこのお地蔵さんを設置したのかはわからないけれど、当時の人はすごかったのだろうと思う。
この地が大切な場所だからこそ、それを見守ってもらうためにお地蔵さんを祀ったのだろう。
そのお地蔵さんのところへとやってきた僕は、しゃがみこんで再び掃除を始めた。
周囲をきれいに掃いてゴミを回収し、お地蔵さんには水をかけてタオルやブラシで擦り洗いして汚れを取る。
出てきたゴミはスーちゃんに食べてもらってピカピカだ。
一通りお掃除を終えたら、お地蔵さんは再びいつもの姿へと戻った。
「この地に魔力をお返しします。お受け取りください」
お地蔵さんの前でしゃがんだ僕はマジックバッグの中から魔石を取り出してお供えする。
お地蔵さんの足元に魔石を置いて、手を合わせて祈る。
スキルはほしい。
だが、それ以上に願ったのは、これからも平和であってほしいということだった。
ぶっちゃけ、自分の持つ何かしらの能力が強化されたりスキルを得られるよりも、地脈が安定してスタンピードが起こらないほうが重要だ。
なので、魔石を捧げてスキルが得られなくても恨みっこなしだ。
なによりもまずは地脈を安定させてほしいと心から願う。
その願いがかなったのかどうかはわからない。
が、僕の腕につけているマジックアイテムであるアースソナー。
それを使用して感じられるお地蔵さんを通る地脈の流れが強化された。
それまでも穏やかに、しかし確実に流れていた魔力の巡りが存在感を増した気がする。
「スキルを得られた感じはなし。でも、この感覚はまだ地脈がオーバーフローを起こしたって感じでもなさそうだしな。なら、もっとたくさん魔石を捧げてみようかな」
魔石を一個二個追加で捧げたくらいではスキルとは得られないし、地脈のキャパにも余力があるのかもしれない。
ならば、もっとだ。
一個でダメなら二個。
二個でダメなら四個。
それでもダメならさらに倍。
とにかく倍プッシュだ。
そんな無茶苦茶な方法で、僕はお地蔵さんの前で地脈に魔石を捧げ続けた。
一体いくつの魔石がお地蔵さんの前で溶けたのだろうか。
その数はもう途中で数えるのをやめた僕にはわからない。
だが、ついにきた。
それまで感じていた地脈の容量が限界を超えた。
無理やり大容量の電気を流し込んでスパークしている、みたいな感じで地脈が魔力によって溢れそうになっている。
これ以上はやばいんじゃないか?
明らかに危険な領域に踏み込んだ。
だが、無茶苦茶な倍プッシュ理論で地脈に魔石を捧げ続けていた僕とお地蔵さんの目の前にはまだいくつかの魔石が置いてある状態だった。
限界を超えた魔力が、逆流した。
それまでは地脈へと捧げられていた魔力が地脈から逆に魔石へと流れ込むように移動した。
目の前が光ったような気がした。
一瞬目を閉じてしまった僕は、その数秒後、恐る恐る目を開けて、そしてそれを見つけた。
丸い球だ。
透き通ったビー玉のような球体が落ちている。
さっきまではお地蔵さんの前にあった魔石がなぜかなくなっており、そしてその代わりに不思議な力を感じる玉が僕の目の前にあったのだった。