作品タイトル不明
トンちゃん
「ん~、これはもしかするとあれなのかもね。もしかすると、僕は十年前から誰も気づいていない発見をしていたのかもしれないね」
ランダムフルーツを植えて、そこから顔を出し始めたトレントの新芽に対して僕の魔力を分け与える。
これがなにを意味するのかを最初は理解していなかった。
だが、マイベストパートナーであるスーちゃんがするのであればきっと意味があるはずだ。
そう信じて僕は何時間もかけて山に通い、そのたびに魔力を与え続けていた。
そして今、その成果はしっかりと現れていた。
もはやトレントの新芽とは呼べないくらいに成長し、ついに今日、僕の身長すらも追い抜いてしまった。
短期間で驚くほど成長したトレントはその高さが二メートルを超え、三メートルに届くかというほどになっている。
幹はまだ細いが、これならば、簡単に枯れる心配はもうないだろう。
大きくなったトレントを見て、僕はそう感じていた。
ワサワサワサ~。
トレントを見ながら僕がつぶやいていると、トレントの枝に変化が起こる。
普通の木ではあり得ない光景が目の前で起きる。
それは、木が自分の意志を持って枝を動かすという行動だ。
トレントの細い幹から伸びる、これまた細い枝がワサワサと葉音を立てながらうねるように動いて僕に絡みついてきたのだ。
本来であれば逃げるべきだ。
サバンナで見つけたトレントはランダムフルーツという高級食材顔負けの果実を僕に与えてくれた存在ではあるけれど、その本質はまぎれもなくモンスターだ。
トレントと相対すると戦闘は不可避。
僕はトレントからランダムフルーツをもぎ取るためにスコップを手にして数えきれないくらい戦ってきたのだから。
しかし、今は違う。
目の前にあるトレントの若木は僕を襲わない。
その動きには僕に対する害意を微塵も含んでいない。
まるで抱擁するかのように僕の体へと枝を巻き付けて、背中をさするように撫でてくる。
つながりを感じる。
これはスーちゃんの時と同じだ。
モンスターであるスライムのはずのスーちゃんも僕と最初に会った時から仲良くしてくれた。
敵意や害意などというものをスーちゃんから感じたことは一切なかった。
そして、それと同じものを目の前のトレントの若木からも感じる。
この子は僕の敵じゃない。
間違いなくモンスターなんだろうけど、僕のパートナーになれる存在だ。
僕の魔力を分け与えたのがよかったのかもしれない。
ダンジョン内で泥団子を作った時もそうだ。
泥団子をピカピカに磨き上げるときに、魔力を込めて磨くとその後ダンジョンの泥と混ぜて放置したときにスライムが発生する。
あるいは魔石を泥団子に入れたときもそうか。
もしかすると、自分の魔力を加えてモンスターを生み出すという行為が、その後生まれてきたモンスターと仲良くなれる要因なのかもしれない。
僕が十年も前から渚や楓ちゃんとともに行っていたこの方法が、今も世間に知られていないのはそれが理由かもしれない。
ダンジョン内でお金を稼ごうと探索するような人間が、わざわざ自分の魔力を使ってまで泥団子を作ったりはしないだろうし。
そして、スライムの時と同じように、新芽の状態から僕の魔力を受けて育ったこのトレントの若木は普通のトレントとは違う性質を持つに至った。
よかった。
この地に近づく人間も獣もすべてを食べてしまう凶悪なモンスターが鎮座する、なんてことになったら僕はせっかく育てたトレントを伐り倒さなければならなかったのだから。
ランダムフルーツを植えたときにそのことは考えたけれども、できればそうはしたくなかった。
そして、その未来は回避されたといってもいいだろう。
このトレントは僕にべったりなのだから。
「よっし。君はトレントのトンちゃんだ。よろしくね、トンちゃん」
そんな僕は僕に抱き着くトレントに名前を付けた。
トンちゃんと名付けられたトレントは左右の枝をいっぱいに広げてバサバサと音をたてて振ることで喜びを示している。
こうして僕には新しい仲間ができた。