作品タイトル不明
肥料
「うおおぉぉ。すげえ。芽が出てるじゃん」
ランダムフルーツを植えたがすぐにそこから木が生えて成長し、トレントのような大きな木になるわけではない。
実際に、その後何度か様子を見に行っているがまだそこまでの成長はしていなかった。
だが、地面から何かが顔を出そうとするように、土がわずかに盛り上がる変化がみられていた。
思わずしゃがみ込み、芽を覗き込む。
たったそれだけの小さな双葉なのに、妙に胸が熱くなった。
これはきっとランダムフルーツが発芽したということに違いない。
ちんまりとした双葉みたいな芽が土から顔をのぞかせるのを見て、思わず僕は声をあげてしまった。
「よし、よし、よし。いいぞ。ここからだ。ここからが重要なんだからな。丈夫に育つんだぞ」
僕は実家近くのホームセンターで買ってきて持ってきていたジョウロに水を入れ、そのジョウロから優しくトレントの芽に水をかける。
まだ出てきたばかりの新芽に大量の水をぶっかけるのはよくないかもしれないと思い、その周りの土にじっくり染み込ませるように水やりを行った。
「どのくらいで育つんだろうな。っていうか、肥料とかをあげたほうがいいのかな? ホームセンターで園芸用の肥料はいろんな種類が売っていたけど、さすがにトレントに合う肥料ってのはないしなぁ」
ここの土はトレントがもともと生えていたダンジョンの土を使っている。
植えたランダムフルーツから芽が出てきたことを考えると、土はきちんとトレントに合っているはず。
だが、もっと大きく成長するには、追加の栄養も必要になるはずだ。
その時に、この地の土だけで栄養が足りるのか、はたまた追肥するようなことが必要なのか。
そもそもの園芸知識がない僕には全く予想もつかない。
「ん? どうしたの、スーちゃん?」
だが、その時スーちゃんが動いた。
いつもは基本的に僕の体を覆うようにして引っ付いているスーちゃんが、僕が何も指示していないのに、スライムボディーを一部だけ変化させた。
ジョウロを持って水をあげていた僕の指先からスライムボディーが触手のようににゅるりと伸びる。
その触手の向かう先にはトレントの新芽がある。
大丈夫か?
スーちゃんが出てきたばかりのトレントの芽を食べてしまうようなことはしないと思うが、行動の意味を理解していない僕は少し不安になる。
ドキドキしながら見守る中、僕の指先から伸びたスーちゃんの触手がぴとっとトレントの芽に触れた。
「……これは魔力? スーちゃんの体を経由して、僕の魔力をトレントの芽に流している、のか?」
ダンジョンで活動をしていた僕の肉体には魔力がある。
その魔力は基本的には常に体外には放出しないようにしている。
体表のすぐ外、表皮一枚分くらいで魔力をとどめておくイメージで魔力操作を行うことで僕の五感はすべてが研ぎ澄まされた 超集中(ゾーン) の状態になる。
最初のころはこれを意識的にするのにも苦労していたけれど、今ではもう無意識にできるようになっている。
そんな僕の魔力が流れていく。
体外に。
スーちゃんの体がまるで導線のようにトレントの芽と繋がり、そこに魔力が送られる。
なんでだ?
スーちゃんだって魔力を持っているはず。
魔石鉱脈の魔石を大量に食べたり、白龍の尻尾肉を食べたりして肉体に変化が訪れたときにスーちゃん自身の魔力量も増大しているはずだ。
だが、今、トレントに送られている魔力はあくまでも僕の魔力であるように思う。
スーちゃんの触手は魔力を送るためだけの導線としてだけ機能しているように感じた。
「もしかして、泥団子作りのときと同じなのかな? ダンジョンの土で泥団子を作るだけじゃスライムは生まれない。だけど、魔力を込めて泥団子を作ったら、それと泥を合わせてスライムが生まれた。トレントもそうだっていうのか?」
合っているのかどうかはわからない。
だが、トレントの成長に地脈からの魔力だけではなく、僕の魔力も必要であるというのであれば受け入れよう。
その程度なら、苦労に入るほどでもない。
ひいてはランダムフルーツを安定的に手に入れるために。
僕はそれから何度もこの地に訪れて、水やりとともにトレントの新芽に魔力という名の肥料を送り続けた。