作品タイトル不明
親族会議
「ありがとうねぇ。佑馬や。あんたのおかげで助かったよ。本当にありがとう」
田舎の病院で出血を止めながら点滴をしつつ、救急車を呼び、その後に到着した救急車でさらに別の病院へと運ばれたひいばあちゃんは手術を行った。
輸血しながら傷口の消毒やら縫合をして、内臓などの状態も調べて、さらには親戚が持ってきたひいばあちゃんの保険証やらお薬手帳で持病のことも調べて、とりあえずできることはすべてやった。
その次の日に目を覚ましたけれど、さらに追加で検査があったようで、高齢の体には疲れが残っているだろうとの判断で、僕が面会できたのはさらにその翌日になってからだった。
森の中で助けたのが僕だというのはすでに聞いているらしい。
病院のベッドの上で上半身だけを起こしたひいばあちゃんはずっと僕の手を握りながらお礼を言ってくれた。
細く、皺だらけで、骨ばった高齢者特有の手。
僕を握る曾祖母の手指は本当に血が通っているのかと思うくらいに冷たい。
握る力も決して強くない。
だけど、あの時とは違う。
僕が呼びかけようとも、体を揺さぶろうともなんの反応も返ってこなかったあの森の中とは違って、きちんと力が入っている。
よかった。
助かってよかった。
話ができてよかった。
無事でいてくれてよかった。
そう思っていたのだけれど、その後も何時間も同じようにお礼を言い続けるひいばあちゃんには、さすがに少し閉口した。
さすがに長いって。
ボケているわけではないんだろうけど、同じ話を何度も繰り返されて、聞いているだけで妙に疲れてしまった。
最後のほうには、僕もうんうんと相槌を返すだけになりながらも面会を終えて、その後は親族会議となった。
議題は当然ひいばあちゃんの今後をどうするか、だ。
曾祖母の家に帰す、というのは現実的ではない。
今はまだ当人に話を聞いていないが、さすがに携帯の電波も入らない限界集落みたいな場所でモンスターが現れて襲ってきたところに戻すというのは、親戚一同、反対だという意見ばかりだった。
では、誰かの家で引き受けるのかというとこれも少し難しそうだ。
いくつかある親戚宅では「できれば引き受けたいけど、うちも余裕がなくてねぇ」という反応が返ってくるばかりで芳しくない。
やっぱり最終的にはどこかの高齢者施設にでも入ってもらって、専門の知識を持つ職員さんたちに見守られて安全に生活できるように手配するのが一番じゃないかしら、という親戚のおばさんの意見が優勢のようだ。
ただ、その場合、入居施設へ入るための資金だったりだとか月々の支払いをどうするかという金銭面での問題もいろいろあるようだ。
ひいばあちゃんの長々とした同じような話もまいったけれど、こういう親族会議も結構疲れてしまった。
僕としては、ひいばあちゃんが生きていてくれただけで充分だった。
だけど、親族会議では、『助かったからこそ、そのあとを考えなきゃいけない』と現実を突きつけられた気がした。
むしろ生きているからこそ問題がある、と言われた気持ちになってしまう。
確かにわからなくはないけれど、ちょっと寂しい話し合いだと感じてしまった。
なので、ついつい言ってしまった。
お金なら僕が出すよ、と。
最近まとまった報酬が入ったから、支払うこと自体はできるはずだ。
これ以上、親戚の間でひいばあちゃんを押し付け合うのは嫌だった。
なので、話し合いを切り上げるために、僕はひいばあちゃんの今後の生活資金を提供することを提案し、この親族会議を終了させたのだった。