作品タイトル不明
応急手当
「近づいてくる? やばい、気が付かれたか」
アースソナーに反応したモンスターの気配が、こちらへ急速に近づいてきている。
運よくひいばあちゃんの近くにはいなかったから、そのまま連れ帰ることができるかと期待していただけに運が悪い。
もしかすると、僕が森の中を走る音を聞きつけたのか。
それとも、ひいばあちゃんの体を動かしたときに流れた血の匂いに反応してしまったのだろうか。
どちらにせよ、こちらの存在に気づかれ、接近されている事実に変わりはない。
接近するモンスターと接敵する前にできることだけはやっておく。
ひいばあちゃんの体をうつ伏せから仰向けへと変える。
そして、体の前面にあった出血を探った。
胸のあたりに、大きく裂けた傷がある。
出血により服が全体的に血にまみれていて非常に痛々しい。
もう百歳近いひいばあちゃんの体には、この傷は致命傷なんじゃないかと泣きそうになる。
が、直に触れてみると傷自体は浅いのかもしれないと感じた。
スーちゃんに頼んで小さな体を一部切り離して分裂体を作ってもらう。
そのスーちゃんの分裂体を曾祖母の体の出血部分に押し当てた。
スーちゃんはスライムでありなんでも食べることができるが、何も食べずにその場にとどまることだってできる。
僕の体やバイクをスライムボディーで覆ってくれているときもそうだ。
しゃべることはできないけれど、意志を持って僕の求める行動を取ってくれるのがスーちゃんのすごいところだ。
そんなスーちゃんの分裂体だからこそ、出血にも対応できるだろうかと期待をした。
小さくなった分裂体がさらに薄く広く引き伸ばされてひいばあちゃんの胸部の傷へと張り付く。
要するにに絆創膏代わりだ。
傷口は清潔にした状態で覆ってあげると、出血における透明な液体でもある血漿などがその場にとどまり傷の治りを早くしてくれるとか。
そういうコマーシャルで傷口をカバーして密閉する絆創膏が売られていたはずだ。
スーちゃんならばそれと同じことができるはず。
すでに付着していた血痕や土、草などを食べたうえで、ひいばあちゃんの体の組織や新しい血液はそれ以上外部に触れないように覆いつくす。
やったことないけれど、これで血が止まるだろうし、傷も早く治るかもしれない。
応急手当としては、今できる最善じゃないだろうか。
問題は、これをしたからと言ってひいばあちゃんが無事に元気になるかどうかはわからないということだ。
そもそも、輸血が必要なのかもしれないし、頭やほかの部分がダメージがあるかもしれない。
どうしたって、病院に連れて行き検査をして手当をしてもらわないといけない状況だ。
だからこそひいばあちゃんを連れてここから帰らなければならない。
問題はもう僕の目の前に現れたモンスターにある。
「でけえ。やっぱモンスターだな。普通じゃねえや」
現れたのは、常識外れの巨体をした熊だった。
普通の熊ですら出会ったらやばい。
だというのに、この熊はさらにそれ以上にやばい気配がプンプンしている。
燃えるような赤い目をした巨大な体躯を持つ漆黒の熊。
黒が多いな。
八目大黒カラスや三つ目黒犬しかり、僕が会うモンスターは黒系統が多い。
そんなことはどうでもいいのだけれど。
問題はモンスターである赤目黒熊がこちらを明確に敵であると認識してにらみつけているということだ。
逃げるのは不可能だろう。
それもひいばあちゃんを連れて無事に戻るには抱えて逃走というのはできない。
なんとか、この赤目黒熊を倒して連れ帰らないと。
ひいばあちゃんへの応急手当を行った僕は、その体を優しく木の根元へと横たえさせてから、目の前に現れた凶悪なモンスターへと向き合うために立ち上がった。