作品タイトル不明
救急対応
魔導バイクにありったけの魔力を流しアクセルを握る。
荒れた地面を、草木のアーチにぶつかりながらも魔導バイクが猛スピードで突き進む。
僕の体やバイクに物が当たるのは気にしない。
スーちゃんがスライムボディーとして覆ってくれていて、その程度であれば傷などはつかないからだ。
だが、実際に地面と接触しているタイヤは違う。
こいつだけはスーちゃんの体で覆うことはできないため、荒れた路面の影響を受けてバインバインとバイクが跳ねる。
スピードを出しているせいで、ちょっとした路面の影響をもろに受けて転倒しそうになるが、暴れるハンドルを必死に抑え込みながら走り続けた。
アースソナーに反応のあった森に向かって、家の敷地を出て田舎の落ち葉や雑草だらけの道路を走り、そしてついには道が無くなる。
ここから先は森であり山だ。
バイクではこれ以上進めないと判断し、その場にバイクを放置して森の中へと踏み入れる。
自分の足で走りながら、背負っていたリュックの中のマジックバッグに手を入れる。
そこから出すのはマイスコップだ。
本来は土を掘るための道具だが、これまで僕とともにダンジョン内を彷徨い、脱出後はモンスターとも渡り合ってきた相棒だ。
この先にいるモンスターもこいつでなんとかするしかない。
そう覚悟を決めて道なき道を進む。
「いた。ひいばあちゃんだ。大丈夫か?」
どれだけ走っただろう。
アースソナーによる探知で見つけてからここまで来るまでにも時間がかかってしまった。
それに、それ以前の話としてひいばあちゃんがモンスターに攫われてからどのくらい時間が経過したのかもわからない。
森の中の広場で倒れている小柄な体が視界に入り、慌てて駆け寄り、その体に触れる。
「……生きてる。けど、血が……」
うつぶせに倒れていたひいばあちゃん。
触れた体には、まだ温もりを感じる。
それにわずかだが、胸が上下に動いているから呼吸していることも間違いない。
だが、無傷ではなかった。
倒れた体を抱き起こそうとしたら、下側になっていた胸の部分に真っ赤な血が広がっていたからだ。
どうする?
どうしたらいい?
思い出すのはバイクの免許を取るために通った教習所のことだ。
事故にあった現場での状況では、人命救助のための手順も習ったはずだ。
人工呼吸は必要ない。
息をしているし、重要度は低い。
それよりも、事故現場では心臓マッサージが大切だと言っていた。
だけど、それは大きな出血がなかった時のことだったか。
体に傷があり出血している状況であれば、他人が無理に心臓マッサージを行ったら、余計に出血がひどくなるケースもあるのだと聞かされた。
助けようとして悪い結果につながる可能性があるということだったように思う。
であれば、最適解は急患の体は無理に動かさずに救急車を呼ぶのがいい。
すでにひいばあちゃんの体を動かしてしまっているのはマイナスだったかもしれない。
いや、違う。
それはあくまでも救急車が来ることができる状況での話だろう。
ここはど田舎の山の中の森だ。
曾祖母の家の中ですら僕の携帯電話は圏外だった。
この場所では、救急車を呼ぶ方法がない。
だったら、連れていくしかない。
もう一度ひいばあちゃんの体を見てみるが、頭からは血が流れていない。
頭を打っていないという保証はどこにもないけれど、ここから連れ帰り、なんとか病院まで僕が運ぶしかない。
慌てる心を落ち着かせるために、最近は無意識にできている 超集中(ゾーン) を改めて意識して行うことで冷静さを保ちながらそう結論付けた。
ならばあとは実行に移すのみ。
ひいばあちゃんを抱え上げようとした、その瞬間だった。
森の中で咆哮が聞こえた。
モンスターだ。
この場には姿のなかったモンスターが大きな鳴き声を上げていたのだった。