作品タイトル不明
食糧事情
僕の毎日の生活は、家で勉強しつつ、渚から請け負った仕事をこなしたり、バイクやランニングであちこちを走り回って地脈の状態を見たり、貸し農園で畑仕事をしたりする生活になっていた。
ただ、この中で仕事らしい仕事といえば、渚から請け負っている作業くらいだ。
自宅での勉強だってそうだ。
中卒資格は取ったので今度は高卒資格を取ってやろうと思い勉強しているけれど、ぶっちゃけ必要ない気もし始めてきた。
なにせ、渚から振られる仕事の報酬が良すぎるからだ。
ゴミ屋敷となった部屋や家の掃除片付けだけでも、スーちゃんの力を借りれば僕一人でこなせる。
それだけで数十万円を受け取ることができる上に、ビルなどの解体作業ともなると、報酬は本当に桁違いだった。
僕のお父さんの年収を越えてしまうくらいの金額が、実際に僕の口座には振り込まれている。
それを見て、来年の納税額がとんでもないことになりそうだと税理士の先生と話をしている。
なので、勉強も資格を取るためというよりは単純に僕がやりたいからやっているという感じになってきた。
もともと中学生の途中でダンジョンで遭難してしまったから、知らないことは多い。
さらに、遭難していた十年の間に、世の中の常識も大きく変わっている。
だから、新しいことを知るだけでも純粋に楽しい。
自分の好きな時間に勉強をして、体を動かす生活は楽しい。
が、僕の生活はともかく、世の中はあまりいい状態とはいえないみたいだ。
それもこれも、すべてダンジョンのスタンピードが悪い。
もともと都市部に多かったダンジョンから無数のモンスターが出てきて、人や建物に被害を与えた。
そして、それらのモンスターをなんとか対処しても、実際に起きた被害というのは消えたりはしない。
それが世界中で起こったことで、すべてが狂ってきている。
特に一番影響を受けるのは物流だ。
もともと日本は多くの物を海外からの輸入に頼るお国柄だ。
物流が完全に途絶えたわけではないけれど不安定になったことで普段の生活に使う品が軒並み値上がりしてきている。
食べ物もそうだ。
スーパーで売られている物の値段がだんだんと上がっていき、それを見たお母さんは時々ため息をついていた。
貸し農園でうまく野菜が育てられて収穫できたときなんかは本当にうれしそうにしているくらいだ。
そんな世の中の流れを見ていると、いくらお金があってもしょうがないんじゃないかとすら思えてくる。
そんなことは実際にないんだろうとは思うけど、最悪の場合、自給自足こそが一番強い時代になったりしないよな、と考えてしまう。
心配のし過ぎかもしれないけど、もう少し畑を広く借りてたくさん野菜を作っておいてもいいのかもしれない。
幸い僕にはスーちゃんがいるから、農作業の手間を一部助けてもらえるわけだし。
「あら。それならひいおばあちゃんのおうちに行ってみたらどうかしら? もう百歳近いのに田舎の家でまだ暮らしているのよ。でも、家の周りの畑の管理は、さすがに難しくなってきてるって聞くし、佑馬が顔を見せるだけでも喜ぶと思うわよ」
家族で夕食を囲んでいるときに、僕が今後の食糧事情と畑の拡張についてをぼそっと話したところ、お母さんから思わぬ提案を受けた。
田舎に一人で住む曾祖母がいるが、そこは百年以上前からある古い家とその周辺の土地があり、しかしそれらは満足に手入れできていないようだ。
ひいばあちゃんは高齢だし、年金で食べていってるみたいだからそれもそうか。
というか、まだ一人であの家に住んでいるというのに驚きだ。
ちょっと遠いけど、バイクを買ったから僕一人でも行くことができる。
僕が行方不明になったときも心配してくれていたらしいし、戻ってきてからも、まだちゃんと顔を見せに行けていなかった。
久しぶりに行ってみよう。
そう考えて、僕は翌日、バイクに乗って曾祖母の家に向かうことにした。