作品タイトル不明
両親の反対
「駄目に決まっているじゃない。お母さんは反対よ」
夕食を食べ、和やかな時間を家族と一緒に過ごしつつ、頃合いを見計らって僕は久しぶりにダンジョンに行ってみたいなと話を切り出した。
すると、それまでの両親の態度が一変する。
にこやかな笑顔とともに弾んでいた話し合いの場が一気に緊張感のあるものへと変貌した。
そして、誰から口を開くか探るような一瞬の沈黙の後、お母さんがそう言った。
「そうだぞ、佑馬。それに、今はダンジョンに入ろうと思っても無理だろう。正式な 探索者(シーカー) が厳重な管理下にあるダンジョンのみに出入りしていると聞いているからなぁ」
両親はそろって反対意見のようだ。
だが、二人が強硬に反対するのではなく、今回はお母さんが鞭となり、お父さんが飴という役割分担をするみたいだ。
はっきり反対するお母さんに対して、お父さんはやんわりと僕をなだめるようにして話してくる。
「ダンジョンなんて誰でも入れるんじゃないの? 前はそうだったけど」
「それは佑馬が行方不明になる前の話じゃないか。子どもがダンジョンに入り込んで帰ってこない、なんて事件が普通に起きていた当時のほうがおかしかったんだよ。その後に法整備されて、 探索者(シーカー) のライセンスを持った人だけがダンジョンに入れるように変わっているよ」
え、そうだったんだ。
昔とは制度自体が変わっちゃっているってことか。
知らなかった。
てっきり遭難当時と同じように入口には監視員のおじさんがいて、中学生の僕らでも入れるようになっているのかと思っていた。
「ん? でも、僕は戸籍上はもう成人しているし、その正式なライセンスもとれるんじゃないかな。だったら、その資格を得られればダンジョンに行けるんじゃないの?」
「だから駄目って言っているでしょう。お願いだから危ないことはしないでほしいの。お母さんたちは佑馬のことを心配しているのよ」
あ、これは完全に駄目なやつだな。
お母さんの目が涙目になりつつある。
こうなると、もう理屈の話じゃない。
こうなったら、僕の年齢がどうだとか、そういう理屈は意味をなさなくなる。
家族だからこそ、その空気を察することができた。
遭難前の僕だったら、もっと反抗的に両親へ食ってかかっていたんだろうか。
きっと家の壁でも殴っていたのかもしれない。
親が自分の意見を聞いてくれない、なんて怒っていたことだろう。
ただ、さすがに今回はそこまでの感情の揺れは僕にはなかった。
僕にそんな気は全然ないのだけれど、十年間行方不明だった期間に相当心配をかけたというのは十分に理解できる。
普通ならばとっくに諦めていてもおかしくないだろうに、僕の帰りを待って自室をそのままに残してくれていたくらいだ。
反対するのは想像もできた。
それでも、僕のダンジョンへ行きたい気持ちは消えていなかった。
どうにかして、こっそりと心配をかけないようにダンジョンに入ることはできないだろうか。
僕はその後の夕食では素直に引き下がるふりをしながら、そんなことを考えていた。