作品タイトル不明
分裂
魔導バイク購入後のツーリングは赤鬼と遭遇するなどハプニングがありつつも、何とか無事に帰ってくることができた。
自宅のガレージにバイクを停めて、その姿を改めて見る。
うん、かっこいいな。
魔力を動力として活用するこのバイクは静音性に優れており、いわゆるエンジン音やその振動などがない。
コアなバイクマニアはそういう音や振動、においなどこそいいのだと言う人もいるようだ。
だが、僕はこの静かなバイクが気に入った。
静かに、しかし力強く、こちらの操作にも機敏に反応する。
そのうえ、高い加速力も相まって、操縦していて純粋に楽しい。
最初はただの移動手段としてバイクの免許を取ることにしたけれど、楽しい趣味の一つになるかもしれない。
そんな魔導バイクをそばにして、僕はガレージの中でスーちゃんと向き合う。
いつも僕を助けてくれるナイスガイのスライムだが、今日は新しい発見があった。
体の大きさを自由自在に変化させることができるマイベストパートナーは、なんと体の一部を飛ばして赤鬼の顔を覆うというファインプレーをしたのだ。
「スーちゃん、できる範囲でいいから分裂してみてくれないかな? ただ体を分かれさせるんじゃなくて、赤鬼に攻撃したときみたいに、分裂した体を離れた場所でも操れる状態で、何体くらいまで増えられるのかな?」
スーちゃんができることはなにか。
それを改めて確認する。
スーちゃんが分裂できるのだとすれば、それはどのくらいの数ならできるのか。
一体だけなのか、それとも数体に分かれることができるのか。
それを確かめようと分裂してみてはくれないかとお願いする。
「お、おお……。信じられない。どんな数に分かれるんだよ」
だが、その結果は僕の予想外だった。
スーちゃんが僕の言葉を聞いて実際に分裂をしてくれたのだが、それがいったい何体に分かれたのか、もう数えることすらできなかった。
無数のスライムに分裂し、ガレージの中を埋め尽くしてしまったからだ。
「この分かれた体を全部スーちゃんの意志で動かせるの? すごいね」
僕が指定したのは、スーちゃんの本体から体を分裂させ、なおかつそれを遠隔でも操ることができる状態を維持してどの程度の数に分かれられるかというものだった。
その条件どおりに分裂したスーちゃんの一部は、非常に小さな、ピンポン玉サイズの大きさだった。
どうやら、その大きさが最小サイズのようだ。
そして、ピンポン玉サイズであれば、千体以上にまで分裂できるようで、ガレージの内部を埋め尽くしてもまだ余力がありそうだった。
賢いスーちゃんはそのまま分裂してガレージ外にスライムを増やすことで人目につくリスクを避けてくれたようだ。
なので、ガレージ内を埋め尽くした段階で分裂を一時停止し、僕に対して「まだもっと分かれたほうがいいの?」と聞くかのようにプルプルと震える。
多くても十体くらいまでかなと予想していた僕は、すでに数えきれないくらいの数に分裂できることが分かったのでそれ以上はもういいよと元の一体の体に戻ってもらった。
不思議だ。
一つの体に戻れば、その肉体を縮めて僕のポケットの中に入るくらいの大きさにまでサイズダウンすることもできるのだから、スーちゃんの規格外っぷりを実感する。
質量も保存しないみたいだし、スライムの体ってどうなっているんだろうか。
改めて僕はスーちゃんの体が自分の常識の枠外にあることを知ったのだった。